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100 通信の終わり
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それからまた1ヶ月近くが過ぎた。
レミーが自分の世界に帰ってからも、世界は何事もなくそれまでと変わらない暮らしを続けていた。教皇ユジカ・キーミヤンがいなくなった神聖ミリキア教国では、それでもなお教皇の教えに従う過激派と穏健派に分断して内戦に発展する寸前だそうだが、改めて正式に組織された連合軍の治安維持活動によって今のところ表向きは平静を保っている。神聖ミリキア教国がこの先どうなっていくのかはまだ誰にもわからない。
ラノアール民主主義共和国も旧貴族を中心とする勢力といざこざがあったり、民主主義という新しい試みにうまく馴染めない部分もあったりで問題はいくつか発生しているようだが、どうにか乗り越えているようだ。
カーライル王国は変わらず王政のままだ。
もちろんすっかり普及した情報共有装置によって民衆の不満が広がったりもしているが、懐の深い王様は国民の気持ちを汲み取ってなんとかうまくやっている。
俺はカーライルの街で探偵業を再開したが、相変わらず大事件なんてものはやってこない。ミーちゃんを探したり浮気調査をしたり、なくなった何かを探したり誰かと誰かの仲を取り持ったりしながら、日々どうにか暮らしている。
シシリーとバーグルーラは俺たちの自宅とエルフの隠れ里を行ったり来たりしているが、どちらかと言えば最近はエルフの隠れ里にいることが多い。
きっとシシリーはお母さんに存分に甘えているのだろう。それとも俺とシェリルの新婚生活を邪魔しないようにという配慮だろうか。
自宅の窓から降りそそぐ午後の日射しを浴びて、俺とシェリルはソファに2人並んで座っている。
「…静かね」
シェリルが俺の肩に頭を乗せてそう呟いた。
「うん…」
俺たちの他にレミーもシシリーもバーグルーラもいて世界中のいろんなところを旅していろんな冒険をしていた時は本当に毎日が賑やかだった。少し寂しい気持ちもある。
でもそれも、それぞれが今あるべきところにいるというだけなのだ。
俺はシェリルの柔らかい髪の毛が俺の頬をくすぐるのを感じながら、教皇との戦いのことを思い出していた。教皇の最後のほうの言葉。
『またあの世界の奴らが俺の邪魔をするのか』
そして次元転送装置から聴こえた不思議な声のようなもの。
あれは教皇に奪われた魂を取り返すための向こうの世界からの声だったのだろうか。
たぶんそうだと思うが、それだけじゃない気もする。
何か、俺を見守ってくれているような。
俺の背中を押してくれるような。
俺たちに力を与えてくれているような。
そして、なぜ次元転送装置は誰も何もしていないのに動き出したのだろうか。
わからない。
でも、あの不思議な声、俺を見守るような向こうの世界からの視線は、あの戦いのもっとずっと前から感じていたもののような気がする。
いつからだろうか。
神聖ミリキア教国に到着してから?
いや、もっと前だ。
情報共有装置ができてから?
いや、たぶんそれよりもっと前。
俺がラノアール王国をクビになった日くらい?
…かもしれない。
俺の肩から頭を離して、シェリルが「ねえ」と甘い声で俺に語りかけた。
振り向いた俺の瞳をシェリルがじっと見つめて言った。
「キス、しよ」
シェリルの唇がゆっくりこちらに近付いてくる。
もしかしたら、ラノアール王国をクビになったあの日、俺の通信魔術が何かしらの暴走をして、向こうの世界とつながったのかもしれない。
だとしたら。
そっちの世界から俺を、俺たちを見守り続けてくれたみんな。
そう、あなただ。
あなたに感謝したい。
きっと、いや間違いなく、俺はあなたのおかげでここまで来ることができた。
今まで見守ってきてくれて、本当にありがとう。
でも、それもここまで。
俺は今からシェリルと非常に個人的な時間を過ごさなきゃいけない。
ここから先は、申し訳ないがお見せできない。
だからこのあたりで、この通信を切ることにするよ。
じゃあまた。きっとどこかで。
レミーが自分の世界に帰ってからも、世界は何事もなくそれまでと変わらない暮らしを続けていた。教皇ユジカ・キーミヤンがいなくなった神聖ミリキア教国では、それでもなお教皇の教えに従う過激派と穏健派に分断して内戦に発展する寸前だそうだが、改めて正式に組織された連合軍の治安維持活動によって今のところ表向きは平静を保っている。神聖ミリキア教国がこの先どうなっていくのかはまだ誰にもわからない。
ラノアール民主主義共和国も旧貴族を中心とする勢力といざこざがあったり、民主主義という新しい試みにうまく馴染めない部分もあったりで問題はいくつか発生しているようだが、どうにか乗り越えているようだ。
カーライル王国は変わらず王政のままだ。
もちろんすっかり普及した情報共有装置によって民衆の不満が広がったりもしているが、懐の深い王様は国民の気持ちを汲み取ってなんとかうまくやっている。
俺はカーライルの街で探偵業を再開したが、相変わらず大事件なんてものはやってこない。ミーちゃんを探したり浮気調査をしたり、なくなった何かを探したり誰かと誰かの仲を取り持ったりしながら、日々どうにか暮らしている。
シシリーとバーグルーラは俺たちの自宅とエルフの隠れ里を行ったり来たりしているが、どちらかと言えば最近はエルフの隠れ里にいることが多い。
きっとシシリーはお母さんに存分に甘えているのだろう。それとも俺とシェリルの新婚生活を邪魔しないようにという配慮だろうか。
自宅の窓から降りそそぐ午後の日射しを浴びて、俺とシェリルはソファに2人並んで座っている。
「…静かね」
シェリルが俺の肩に頭を乗せてそう呟いた。
「うん…」
俺たちの他にレミーもシシリーもバーグルーラもいて世界中のいろんなところを旅していろんな冒険をしていた時は本当に毎日が賑やかだった。少し寂しい気持ちもある。
でもそれも、それぞれが今あるべきところにいるというだけなのだ。
俺はシェリルの柔らかい髪の毛が俺の頬をくすぐるのを感じながら、教皇との戦いのことを思い出していた。教皇の最後のほうの言葉。
『またあの世界の奴らが俺の邪魔をするのか』
そして次元転送装置から聴こえた不思議な声のようなもの。
あれは教皇に奪われた魂を取り返すための向こうの世界からの声だったのだろうか。
たぶんそうだと思うが、それだけじゃない気もする。
何か、俺を見守ってくれているような。
俺の背中を押してくれるような。
俺たちに力を与えてくれているような。
そして、なぜ次元転送装置は誰も何もしていないのに動き出したのだろうか。
わからない。
でも、あの不思議な声、俺を見守るような向こうの世界からの視線は、あの戦いのもっとずっと前から感じていたもののような気がする。
いつからだろうか。
神聖ミリキア教国に到着してから?
いや、もっと前だ。
情報共有装置ができてから?
いや、たぶんそれよりもっと前。
俺がラノアール王国をクビになった日くらい?
…かもしれない。
俺の肩から頭を離して、シェリルが「ねえ」と甘い声で俺に語りかけた。
振り向いた俺の瞳をシェリルがじっと見つめて言った。
「キス、しよ」
シェリルの唇がゆっくりこちらに近付いてくる。
もしかしたら、ラノアール王国をクビになったあの日、俺の通信魔術が何かしらの暴走をして、向こうの世界とつながったのかもしれない。
だとしたら。
そっちの世界から俺を、俺たちを見守り続けてくれたみんな。
そう、あなただ。
あなたに感謝したい。
きっと、いや間違いなく、俺はあなたのおかげでここまで来ることができた。
今まで見守ってきてくれて、本当にありがとう。
でも、それもここまで。
俺は今からシェリルと非常に個人的な時間を過ごさなきゃいけない。
ここから先は、申し訳ないがお見せできない。
だからこのあたりで、この通信を切ることにするよ。
じゃあまた。きっとどこかで。
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