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091 命

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「こんなものおぉぉおおおおぉぉおおぉおおおおおおぉっ!!!!!!」

俺たち全員の魔力の濁流をユジカ・キーミヤンは凶悪な魔力で押し留める。
しかしこちらが優勢。もう少し、もう少しの力で押し倒せる。

「貴様らクソ人間どもに俺の1万年の恨みが負けるか!何が結婚だ何が幸せだ!!!俺にはそんなもの何もなかった!いじめられて苦しめられて追い詰められて死んで生まれ変わっても何もなかった!何もなかった俺からこれ以上何も奪うんじゃねえっ!!!!!」

ユジカ・キーミヤンが怒声を上げて魔力をさらに高める。俺たちの魔力が再び押し返される。凄まじいパワーだ。ここにいる5人だけじゃなくて情報共有装置スキエンティアでみんなの力も合わせているのに。

「みんながんばれ!魔大陸からも魔族全員の力を送っているよ!僕たち魔族の力を見せてやれ!!!」魔王ネクロードミレーヌの声。

「ティモシーさん!カーライルの街のみんなの力も使ってください!」冒険者パーティーのジョシュアの声。「戦いを終わらせてまたクエストに行きましょう!」やだよそれは。

「エルフの隠れ里からも全員の力を送っている!どうか我々を虐げる者を倒してくれ!!!」エルフのミミアの声。それに女王リリアンが続く。「1000年前に私たちの森を焼いた報いは必ず受けてもらいますよ!シシリーもがんばりなさい!!!」それにシシリーが「うん!お母さん!」と答えて魔力をさらに上げる。

「広場の前の信徒どもは片付けたぞ!あとはテメエだけだ!俺らのシマで火を放ったクソガキをぶち殺してやれっ!!!」カーライルの闇組織のボス、リュウジ。

「ワシらドワーフの民も力を合わせているぞ!」とドワーフ王。そしてドラウグティフェリが「早く教皇とかいう奴を倒して宴にしようぜ!!!」と続く。

「ラノアールの国民も全員ついている!アーノルド大統領の仇を討ってくれ!!!」元暗部のクラウス。わかってる。アーノルドはいいヤツだった。さらに魔力が上がる。

「ペールポートの漁師も忘れんなよ!ちょうど沖に出てセイレーンたちも一緒だ!」漁師組合長の声。<私たち、歌って、敵を弱らせるわ>セイレーンの口笛のような歌声が情報共有装置スキエンティアから鳴り響いてくる。

「ぐああああぁぁぁっ!なんだこの歌声は!!!」

ユジカ・キーミヤンが苦しそうに悶える。でも俺たちも眠っちゃわないか?

「大丈夫!みんなにはアタシたちの音楽を届けるよ!!!」

バーバラの声が響くと、マリアの弦楽器が激しくかき鳴らされ、エレンの横笛が波のようにうねる。モモの鍵盤、ネネの太鼓のリズムも聴こえる。「マリアさんたちの音楽は私たちだけ、ユジカには聴こえないよう設定しています!」とレミー。
バーバラが灼熱の太陽みたいな歌声で歌い出す。
小節の合間で「全世界のみんな!もっとパワーを送って!一緒に歌おう!!!」と叫ぶ。

バーバラの歌声に合わせて野太い男の歌声、無邪気な子供の歌声、透き通った少年の歌声、甲高い女の歌声、しわがれた老人の歌声、可憐な少女の歌声、上手な歌声も下手な歌声も様々な歌声が重なり合って響いてくる。その声はどんどん増えていき大きくなりひとつになって響いてくる。


世界中の声だ。


俺たちにパワーがどんどん流れ込んでくる。

最初は俺たちの関係者の魔力だけだったのが、だんだん増えて大きくなり、バーバラの歌声に合わせてマリアたちの演奏に合わせて、次々とパワーが送られてくる。

間奏に差し掛かってバーバラが叫ぶ。


「みんな!!!世界の力をひとつに!!!!!!!」


バーバラの叫びに呼応してさらに大きくなったパワーが一気に俺たちに雪崩のように流れ込み、それがとうとうユジカ・キーミヤンの禍々しい魔力を打ち破り、巨大で醜悪な姿のユジカの身体に激突した。

「ぎゃああああああぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁああぁぁ!!!!!!」

6本すべての腕で頭を抱え、4枚の羽をばたつかせて身をよじる。
身体中を覆っている鱗のような人間の顔がボロボロと剥がれていく。

ユジカの足元、俺たちの前方の床にある2つの巨大な黒い箱、次元転送装置がぼんやりと光を纏った。そこからかすかに、何か不思議な声のようなものが聴こえてくる。その声のようなものに呼応するかのごとくユジカの身体から白く輝く玉が放たれる。

「くそおおぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!またあの世界の奴らが俺の邪魔をするのかああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

次元転送装置の間に黒い穴が空き、ユジカの身体を飛び出した無数の魂が吸い込まれていく。ユジカに奪われた向こうの世界の魂が帰っていっているのだろうか。

ユジカの身体にビシビシとヒビが入り、羽の端や指先から徐々に全身が砂のようになってサラサラと吹き飛んでいく。

「俺は死なない!絶対に、絶対に全員ぶち殺してやるぅぅぅううぅっ!!!!!」

ユジカは凶悪な魔力を放ち、何とか自分の身体の崩壊を押し留めようとする。

まだだ。最後のもうひと押し。もうひと押しの力が欲しい。

俺は魔力をさらに振り絞る。
脳の中でパツン!と音がして強烈な頭痛が俺を襲う。立っていられなくなり片膝をつく。それをシェリルが支える。

「ティモシー!」
「ティモシーさん!!!」

レミーも反対側から俺を支える。
シシリーが宙に浮きながら心配そうな顔で叫ぶ。

「もう無理だよ!前にも言ったけどこれ以上は本当に死んじゃうよ!!!」

…いや、ダメだ。まだ終われない。
ユジカはまだ魔力を残して自分の身体を再生させようとしている。
命に変えてでもあいつを倒さなきゃ。

「そんなこと言わないで!あなたが死んだら私はどうなるの!!!」

シェリルが涙を流して叫んでいる。
ああそうだそういえば新婚だったな、ごめん。

俺は立ち上がってユジカ・キーミヤンに向き直る。
精神破壊マインドブレイクが通って俺の脳にはユジカの膨大な記憶の一部が流れ込んでいた。

「もう終わりにしようユジカ。いや、カキミヤ・ユウジ。どうしようもなく嫌な人生だったと思うけど、1万年、いくら何でもいつまでも他人に甘えすぎだ」

もうこれで俺も死ぬと思うけど、それでも最後にもうひと押し。魂の底から魔力を振り絞って撃ち放つ。

ユジカ・キーミヤンに俺の最後の魔力がぶつかり、奴の身体を包む魔力を打ち破る。

止まっていた身体中のヒビが再び大きくなり、光を放って裂け、次々とボロボロに崩れ去っていく。


「あ…………あ、ああ………………………………あ……………………………」


ユジカ・キーミヤンは砂になって消えた。


俺はそのまま前のめりに倒れた。

<………大丈夫…………大丈夫よ……怖くない…………怖くないから…ね………………>

暗い死の底へと落ちていく俺の頭の中には、どこかで聴いたような声が響いていた。
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