上 下
74 / 100

074 足並み

しおりを挟む
「いい啖呵切るじゃねえか」

怒りをあらわにして叫んだ俺の前でリュウジがニヤリと微笑った。

「カタギにしとくには惜しいな。アンタ、うちのファミリーに入らねえか?」
「えっ!やだよ」
「どうしてだ」
「ど、どうしてって…お前らなんか怖いし」

俺がそう言うとリュウジは大声で「はっはっはっは!」と笑った。

「指ひとつ動かさねえで人を殺せる奴が何言ってんだよ!はははははは!」
「こ、殺してはいないよ!そいつは失神させただけだって!」

俺が指差した先には白い法衣を着たミリキアの手先がよだれを垂らして倒れ込んでいた。

「でも、殺すこともできただろ?」
「…まあ、できたけど」
「最強の殺し屋じゃねえかよ」

そう言われて俺は少し黙った。

「そんなんじゃないよ、俺は…ただの探偵だよ」

リュウジは俺の返答に「くっくっく…」と笑いをこらえた。

「そんな恐ろしい探偵いねえだろ…まあいい。ミリキアには俺たちも行くぞ」
「えっ!なんで!?」
「馬鹿野郎、てめえのシマで火ぃつけられてカチコミかけねえ極道がいるかよ」

よくわからないがとにかくこいつら闇組織も報復をしたいということだろう。
まあ止める理由もない。
そもそも俺たちの動機もたぶん似たようなものなのだ。

それに会話の間、こっそり記憶探知マインドディテクションでこいつの記憶を覗かせてもらったが、闇組織は今回の焼き討ちには当然関与していないようだったし、よくよく探ってみればどうやらこいつは麻薬を心底憎んでいるようだった。

この街に蔓延していた龍醒香薬ドラグドラッグの噂をここ最近あまり聞かなくなったのは、どうもこのリュウジという転移者が闇組織のボスに成り上がった結果のようだ。

「まあ別にミリキアに行くのはいいけどさ、ファミリーには入らないからな?」
「…ああ、構わねえ。どうせアンタに無理強いなんかできねえしな」

そうしてリュウジをはじめとする闇組織もミリキア侵攻に加わることになった。

こちらの勢力はそれに加えて俺、レミー、シェリル、シシリー、バーグルーラのいつもの5人に、レミーの魔導具で強力な軍備を誇るカーライル王国、ラノアール民主主義共和国、ドワーフ王国、エルフの隠れ里、魔王ネクロードミレーヌが率いる魔王軍だ。

「あとはどうやって神聖ミリキア教国に乗り込むか、ね」

俺たちのやりとりをソファに座ったまま聞いていたシェリルがそう言った。

確かにその通りだ。
神聖ミリキア教国はここカーライル王国から遥か西、リストガルド王国の北に浮かぶ大きめの島にある。
大群を率いて海路を行くわけにもいかない。

「私たちが先兵隊になりましょう!」

レミーがソファから立ち上がって言った。

「まず私たち5人が少数精鋭で神聖ミリキア教国に密航して潜入するんです!そこからシシリーさんの空間魔術で道を作って、一気に大軍勢でなだれ込むんですよ!」

シシリーもソファの後ろで浮かび上がって続く。

「うん!アタシ1人じゃ全員は無理でも、エルフのみんなで手分けすれば全員きっと送り届けられるよ!それにね」

そこまで言ってシシリーが珍しくニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。

「怒ったアタシのお母さん、めっちゃくちゃ怖いんだよ?」

そうか。元気になったエルフの女王陛下の力添えもあるのだった。
1000年以上前の戦う力を備えたエルフの生き残り。きっと大きな戦力になるだろう。

<我も久しぶりに竜族を呼び寄せてみるか。ネクロードミレーヌに手配させよう>

バーグルーラがそう言った。
そういえば魔大陸の南東に竜の渓谷っていうのがあるんだったか。
それは心強い。

心強いが。

「ところでさ、先兵隊って言っても俺たちは一体どうやってミリキアに行くわけ?普通に近くまで馬車で行って船に乗って行ったら密航にならないよね?」

レミーが俺に向き直る。
きょとんとした顔で、何をわかりきったことを、と言わんばかりの表情だ。

「ペールポートの漁師さんたちの船に乗せてもらえばいいじゃないですか」

俺もそうだろうとは思っていた。
密航するなら知り合いの船が一番だ。
でもペールポートからぐるっと西へリストガルド王国の先の岬を回って行くとなると、かなり長い船旅になる。1ヶ月くらいはかかるだろうか。

絶対に船酔いする。

正直いやだ。

でもまあ、仕方がない。
今回ばかりはヘタレに定評のあるこの俺も、いやだという気持ちより、ミリキアをぶっ潰したい気持ちのほうが強い。


…………………………………………


俺たちは闇組織のアジトの高級家具店(とはいえ隠れ家のひとつに過ぎないそうで本部ではないようだった)を離れ、まず関係各方面へと連絡を行った。

まずはペールポートの漁師組合長に事情を説明し、密航の協力を願い出たが、これはあっさりと承諾してもらえた。

「俺たちもよ、ミリキアの奴らは前から気に入らなかったんだ!関税も法外な額なんだぜ!?」

ペールポートからミリキアまで、海路で正規の輸出ルートもあるそうで、やはり1ヶ月ほどの船旅になるが乗せていってくれるとのことだった。

カーライル王、ラノアールの副大統領ヴィクトール、ラノアールの警察庁長官で元暗部のクラウス、ドワーフ王、エルフの女王、魔王ネクロードミレーヌに情報共有装置スキエンティアの同時通話で状況を伝えた。

古代機械の盗難、ラノアール大統領の暗殺、俺たちの工場および自宅の焼き討ちは、すべて神聖ミリキア教国による犯行だと判明したこと。
打倒ミリキアのために俺たちが先兵隊となり、ペールポートから密航して潜入すること。
船旅には1ヶ月くらいはかかる見込みだということ。
その間、各自で軍備増強を進めて欲しいことと、ネクロードミレーヌには竜の渓谷から竜族の招集を願いたいということを伝えた。

それらはすべて承認され、各国の足並みが揃った。

その後、シシリーの空間魔術でペールポートの漁師組合本部へと向かった。

「待ってたぜ!船はいつでも出せる!海賊も出る危険な船旅だが、お前らも一緒なら心強いってもんよ!」

海賊。
それは聞いてない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...