上 下
62 / 100

062 古代機械

しおりを挟む
「前任の魔王!?」

驚く俺たちに、魔王ネクロードミレーヌとバーグルーラが語ってくれた話は、まるで神話のような話だった。

今から1万年ほど前、この世界には3つ目の大陸があった。
大きさは現存する人間大陸と魔大陸の半分くらい。
向き合う人間大陸と魔大陸の西にその大陸はあった。

神大陸と呼ばれたその土地には「神」と呼ばれる存在が君臨しており、それを信奉する「神族」と称する者たちが暮らしていた。
神と神族は、人間大陸と魔大陸を支配下に置き、人間大陸に住む人間やエルフ、ドワーフたち、そして魔大陸に住む魔族たちを奴隷のようにこき使い、搾取し続けていた。

それに反旗を翻したのが当時の魔王、黒竜王と呼ばれ魔大陸全土を治めていたバーグルーラだった。
バーグルーラは魔族と人間たちの協力を得て、神や神族たちと戦った。
最後には大陸のすべてを飲み込むほど肥大化した神に対してバーグルーラは自身の最大最強の咆哮、竜王滅殺砲ドラグニルゼロを放って神大陸そのものを消し去った。

神との戦いで自らも深い傷をおったバーグルーラは、魔大陸の統治を後任のネクロードミレーヌに任せ、魔大陸の南東部にあるという竜の渓谷と呼ばれる地に隠遁した。

傷が癒えたバーグルーラは魔王に返り咲く道ではなく、手に入れた自由を謳歌する道を選んだ。その翼で世界各地を飛びまわる中、今から1000年以上前、たまたま立ち寄った地で人間の軍勢から不意の襲撃を受けてしまった。
その地は現在のカーライル近郊、かつてエルフの住む森があった場所の近くだった。

神を打倒したバーグルーラをも傷つけたその軍勢は非常に強力なもので、バーグルーラを襲った部隊はバーグルーラに殲滅されたものの、残りはそのまま現在のカーライルの地で栄えていた王国を滅ぼしたそうだ。

そして傷ついたバーグルーラを癒やしたのがシシリーだった。
やんちゃなシシリーはその時、エルフの禁を破って森の外に遊びに出ていたらしい。
バーグルーラはシシリーとともにエルフの住む森を訪れたが、その直後、自身を襲った軍勢はエルフの森にも火を放った。
森を離れ「約束の地」へと向かうエルフたち。そこからはぐれてしまったシシリーを連れて、バーグルーラは迷宮へとその身を隠す。
そしてそこにあった古代機械に囚われてしまったシシリーを守るため、バーグルーラは長きにわたり迷宮のその部屋の守護者となった。

<して、その迷宮にあった古代機械に似たようなものがこの城にもあったと思うのだが>

話し終えたバーグルーラはテーブルの上で丸くなり、大きなあくびをした。
こうして見ると猫のようにしか見えないこのバーグルーラが、まさか元魔王で神さえ倒したほどの存在だったとは。
魔王ネクロードミレーヌがバーグルーラの問いかけに答える。

「あ、はい!ありますよ!昔は最上階でしたが、今は誰も触らないように地下最下層の倉庫に置いてあります!」


…………………………………………


俺たちは魔王ネクロードミレーヌに導かれて、城の地下の倉庫へと降り立った。
倉庫の扉は何重にも鍵がかかっており、ネクロードミレーヌがそれをひとつずつ解錠してようやく重い扉が開かれた。

倉庫の天井近くまでそびえる巨大な黒い箱。
シシリーが囚われていたものとまったく同じものに見える。

それを見上げたまま、シェリルが質問する。

「誰も触れないようにしているということは、やはり危険なものなのかしら?」
「いや、普通の人に危険はないよ。ただ数千年前に僕が触った時に、うっかり誤作動させてしまって、僕の魂が向こうの世界に行ってしまったんだよ。それからそういうことが起きないように念のため隔離しているんだ」

ネクロードミレーヌは肩をすくめて、やれやれという感じでため息をついた。

「ここにある装置の名前は『デケウス』、人間大陸にあるほうは『カストル』といって、2つ合わせて『ジェミニウム』と名付けられた次元転送装置なんだ」

それからネクロードミレーヌは、また神話のような話を語ってくれた。

この装置が作られたのは、おそらく1万年よりももっとずっと昔。
忘れ去られた古代文明の遺物なのではないかということだ。

1万年ほど前にその2つの大きな箱は人間大陸で発見された。
当時のドワーフの天才技師がその使い方を解明し、神と戦うバーグルーラを補助すべく向こうの世界から勇者を呼び出すために使用されたのだという。

バーグルーラはそのことについてあまり興味がなかったようで、<そういえば勇者とかいう若者もいたな。我が神と戦っていた時に神族からの横槍がなかったのは奴のおかげだったということか>という感想を述べていた。本人は一人で神も神族も滅ぼすつもりだったのだろう。ネクロードミレーヌは「勝手にどんどん行ってしまわれるから、どうサポートすればいいか苦心したよ」と笑っていた。

ジェミニウムの2つの装置、カストルのほうは空間魔術で作動して、デケウスのほうは通信魔術で作動する。
カストルは当時のエルフの女王が操作して、デケウスはネクロードミレーヌが人間大陸まで赴いて操作した。
そして、神を倒したあとは濫用を防ぐために人間大陸と魔大陸で別々に保管することになったのだそうだ。

そこまで話すと、ネクロードミレーヌが何か思い出したようにシシリーを見て言った。

「そうだ、シシリーといったかな、君が吸い込まれてしまった時も、カストルに触りながら空間魔術を使っただろ?」
「うん、ちょっと中を見てみようと思って」
「ははは、それなら当然そうなるだろうね。本当は『中を見る』じゃなくて、ちゃんと『次元に穴をあける』つもりで操作しなきゃいけないんだ。そして同時にデケウスのほうも『別の次元と通信する』つもりで作動させる。そうすれば、向こうの世界とこっちの世界をつなげる次元の歪みが生まれるんだ。まあ僕も、デケウスに触りながらうっかり通信魔術を使って誤作動させてしまったから他人のことは言えないんだけどね」

ということは、俺もこの目の前にそびえるデケウスを触りながら通信魔術を使ってしまうと同じようなことになってしまうかもしれないということか。
怖。触らないでおこ。

一歩下がった俺に対して、レミーがデケウスに近付きながら言った。

「…こ、これは、こっちの世界からあっちの世界に行くことも可能ですかね?」
「僕の魂が行けたんだからもちろん可能だろうね」
「そっか、それは当然そうですよね…では、行く時代は選べますか!?わ、私がいた時代に!」

レミーがデケウスに手を触れて振り返りながら言った。
ネクロードミレーヌが首を左右に振る。

「…わからない。ただ、数千年前、確か5000年ほど前だったと思うけど、僕の魂が少しの間だけ向こうの世界に行った時、向こうは2015年だった。そして1万年前に呼び出した勇者、呼び出したというか転生させたんだけど、彼は2010年から来たと言っていた。そして、君がつい最近こっちに来た時、向こうでは何年だった?」
「そうか、そういうことか…あ、あの、2019年の終わりでした!」
「だったら君はその直後か、せいぜい2020年の初め頃には戻れるんじゃないかな」
「じゃ、じゃあカストルとデケウス、あわせてジェミニウムを作動させた時、次元の歪みはこの世界のどこに発生しますか!?」
「ん?それは普通にジェミニウムの近く、カストルとデケウスの間あたりだね」

俺には理解できない数字もあったが、それはおそらく向こうの世界のことなのだろう。
何にしても、レミーは自分が来た時代に戻れそうだとわかった嬉しさに、その身を打ち震わせている。

「帰れる…!私、帰れるんですね…!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

処理中です...