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045 ペールポート
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この世界には、2つの大きな大陸がある。
北側が俺たちの住む人間大陸で、南側は主に魔族が住む魔大陸。
その間には海が横たわっている。
人間大陸の遥か北方、氷原地帯のすぐ手前、寒冷地にも関わらず広がる深い深い森の中には「約束の地」と呼ばれたエルフの隠れ里があるというが、今回は北ではなく南。
人間大陸の中央からやや南西部寄りに位置するカーライル王国からまっすぐ南へ馬車で2週間。
そこに港の街、ペールポートはあった。
街の北側から入ることになった俺たちは、小高い丘の上からその街の全景を眺めることができた。
海に向かってなだらかに下っていく街並み。
その家々は真っ白な石造りの壁で統一され、ところどころに澄んだ空と同じような水色で塗装された柱や窓枠が美しいアクセントとなっている。
王宮はなく、あまり高い建物は見当たらない。
この街は王侯貴族ではなく、漁師たちを中心とする組合が仕切っているらしい。
港にはいくつもの大きな船が停泊しており、その向こうには穏やかな海が広がっている。
その影は見えないが、海の向こうは魔大陸なのだろう。
公には、人間と魔族は対立しており、魔王軍との全面戦争が間近に迫っているそうだが、海の穏やかさを見る限り、とてもそうは思えない。
ペールポートでも非公式にではあるが、一部の魔族との交易も行われているようで、この街は「亜人」と呼ばれるドワーフやエルフたちへの差別もほとんどないという。
その上、豊富にとれる魚介類がふんだんに使われる料理は絶品とのことだ。
――よさそうな街だ。
ここに到達するまでの2週間の旅路では、やはり特に語るべきことは起きなかった。
だから家にいていいか、と言ったのだ。
魔物はたくさんあらわれたが、レミーやシェリルやシシリーやバーグルーラが我先にと争うように魔物たちを殲滅していき、やはり俺は馬車の中でヒマを持て余していた。
その様子を見てレミーが「ティモシーさんも魔導兵装あるんだからバンバンやってくださいよ!」などと言ったが、なんでそんなことをしなきゃいけないのか。
やだよバンバンなんて。
そもそも戦いたくないのだ俺は。疲れるし怖いし。
ただ今回は馬車の中に俺1人ではなく、モモとネネもいてくれたので助かった。
いろいろお喋りすることで時間をつぶすことができたのだ。
「そういえば二人は、何年くらい薬を探す旅をしているの?」
「う~ん、20年くらいですかね」
「に、20年!?いくつなの二人は!」
「私が153歳で、ネネは私より8歳下なので145歳ですね」
「ひゃっ!ひゃく!?」
「エルフは寿命が長いですからね」
また、エルフの年間出生率は低く、1人の女性が1人の子供を産むのは50年に一度くらいだそうだが、その長い寿命のおかげで兄弟姉妹の数は多く、モモとネネも他に20人ほどの兄弟姉妹がいるのだという。
ちなみに、おばあちゃんは1000歳以上だがお母さんも1000歳近いのだそうだ。
驚くことばかりであった。
また、レミーが開発した録音再生装置も、旅を楽しくするために大いに役立ってくれた。
音楽が大好きだというモモとネネと一緒に、二人も出演していた先日の音楽会の音源を聴きながら、一緒に歌ったり踊ったりしているうちに時間は過ぎた。
時には他のカードに俺の独唱を録音して聴いてみたりもした。自分の声をそうやって聴くと違和感が大きく、あわてて音声を消去した。
そうしてあっという間に2週間は過ぎ、俺たちはペールポートの街にやってきた。
…………………………………………
遠目からは美しい街に見えたペールポートも、中に入ってみれば荒れた様子が目についた。
シェリルが言っていた通り、不漁が続いている影響だろう。
街の酒場では、まだ昼間だと言うのに漁師風の男たちが重苦しい雰囲気で酒を飲んでいる。
ふてくされた様子で、道端で寝ている男も多かった。
「やっぱりお魚とれなくて大変なんだね…」
道すがら、シシリーがそう呟いた。並んで歩くモモとネネも頷いている。
「赤潮か何かですかね。だったら発生しすぎたプランクトンをどうにかする魔導具でも考えてみますか!」
よくわからないことを言うレミーに対して、シェリルが「いえ」と首を振る。
「これは、ただの不漁じゃないかもしれないわね」
俺たちは宿屋に馬車を停めると、港にある一番大きな建物、漁師たちの組合本部を訪ねた。
建物の中は閑散としており、何人かの事務員らしき人たちが暇そうにしているだけだった。
仕事がないのだろう。そのおかげか、俺たちはすぐに組合長のもとへ通してもらえた。
「満月貝?いやいや、それどころじゃねえよ。もう仕事になりゃしねえんだ」
俺たちが旅の目的である満月貝の在り処を尋ねると、組合長だという恰幅のいい中年男性がそう答えた。
「不漁とは聞いていたけれど、原因は何なのかしら?」
シェリルのその質問に、組合長は苦々しく答える。
「セイレーンだよ」
北側が俺たちの住む人間大陸で、南側は主に魔族が住む魔大陸。
その間には海が横たわっている。
人間大陸の遥か北方、氷原地帯のすぐ手前、寒冷地にも関わらず広がる深い深い森の中には「約束の地」と呼ばれたエルフの隠れ里があるというが、今回は北ではなく南。
人間大陸の中央からやや南西部寄りに位置するカーライル王国からまっすぐ南へ馬車で2週間。
そこに港の街、ペールポートはあった。
街の北側から入ることになった俺たちは、小高い丘の上からその街の全景を眺めることができた。
海に向かってなだらかに下っていく街並み。
その家々は真っ白な石造りの壁で統一され、ところどころに澄んだ空と同じような水色で塗装された柱や窓枠が美しいアクセントとなっている。
王宮はなく、あまり高い建物は見当たらない。
この街は王侯貴族ではなく、漁師たちを中心とする組合が仕切っているらしい。
港にはいくつもの大きな船が停泊しており、その向こうには穏やかな海が広がっている。
その影は見えないが、海の向こうは魔大陸なのだろう。
公には、人間と魔族は対立しており、魔王軍との全面戦争が間近に迫っているそうだが、海の穏やかさを見る限り、とてもそうは思えない。
ペールポートでも非公式にではあるが、一部の魔族との交易も行われているようで、この街は「亜人」と呼ばれるドワーフやエルフたちへの差別もほとんどないという。
その上、豊富にとれる魚介類がふんだんに使われる料理は絶品とのことだ。
――よさそうな街だ。
ここに到達するまでの2週間の旅路では、やはり特に語るべきことは起きなかった。
だから家にいていいか、と言ったのだ。
魔物はたくさんあらわれたが、レミーやシェリルやシシリーやバーグルーラが我先にと争うように魔物たちを殲滅していき、やはり俺は馬車の中でヒマを持て余していた。
その様子を見てレミーが「ティモシーさんも魔導兵装あるんだからバンバンやってくださいよ!」などと言ったが、なんでそんなことをしなきゃいけないのか。
やだよバンバンなんて。
そもそも戦いたくないのだ俺は。疲れるし怖いし。
ただ今回は馬車の中に俺1人ではなく、モモとネネもいてくれたので助かった。
いろいろお喋りすることで時間をつぶすことができたのだ。
「そういえば二人は、何年くらい薬を探す旅をしているの?」
「う~ん、20年くらいですかね」
「に、20年!?いくつなの二人は!」
「私が153歳で、ネネは私より8歳下なので145歳ですね」
「ひゃっ!ひゃく!?」
「エルフは寿命が長いですからね」
また、エルフの年間出生率は低く、1人の女性が1人の子供を産むのは50年に一度くらいだそうだが、その長い寿命のおかげで兄弟姉妹の数は多く、モモとネネも他に20人ほどの兄弟姉妹がいるのだという。
ちなみに、おばあちゃんは1000歳以上だがお母さんも1000歳近いのだそうだ。
驚くことばかりであった。
また、レミーが開発した録音再生装置も、旅を楽しくするために大いに役立ってくれた。
音楽が大好きだというモモとネネと一緒に、二人も出演していた先日の音楽会の音源を聴きながら、一緒に歌ったり踊ったりしているうちに時間は過ぎた。
時には他のカードに俺の独唱を録音して聴いてみたりもした。自分の声をそうやって聴くと違和感が大きく、あわてて音声を消去した。
そうしてあっという間に2週間は過ぎ、俺たちはペールポートの街にやってきた。
…………………………………………
遠目からは美しい街に見えたペールポートも、中に入ってみれば荒れた様子が目についた。
シェリルが言っていた通り、不漁が続いている影響だろう。
街の酒場では、まだ昼間だと言うのに漁師風の男たちが重苦しい雰囲気で酒を飲んでいる。
ふてくされた様子で、道端で寝ている男も多かった。
「やっぱりお魚とれなくて大変なんだね…」
道すがら、シシリーがそう呟いた。並んで歩くモモとネネも頷いている。
「赤潮か何かですかね。だったら発生しすぎたプランクトンをどうにかする魔導具でも考えてみますか!」
よくわからないことを言うレミーに対して、シェリルが「いえ」と首を振る。
「これは、ただの不漁じゃないかもしれないわね」
俺たちは宿屋に馬車を停めると、港にある一番大きな建物、漁師たちの組合本部を訪ねた。
建物の中は閑散としており、何人かの事務員らしき人たちが暇そうにしているだけだった。
仕事がないのだろう。そのおかげか、俺たちはすぐに組合長のもとへ通してもらえた。
「満月貝?いやいや、それどころじゃねえよ。もう仕事になりゃしねえんだ」
俺たちが旅の目的である満月貝の在り処を尋ねると、組合長だという恰幅のいい中年男性がそう答えた。
「不漁とは聞いていたけれど、原因は何なのかしら?」
シェリルのその質問に、組合長は苦々しく答える。
「セイレーンだよ」
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