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032 プレゼンテーション
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舞台ではマリアたちの音楽にあわせて色とりどりの光が激しく点滅した。
「せっかくだから録音再生装置の他にも、私のいろんな魔導具を見て欲しいんですよね!」
という欲張りなレミーによる演出プランだった。
初めて体験するその斬新で派手な演出に誰もが驚愕し、会場は熱狂に包まれた。
シシリーは観覧室の窓に張り付いて「すごいね!すごいね!」と言っていたし、シェリルも「レミーの魔導具は本当に変わっているわね」と驚いていたし、バーグルーラも<人間は時にこのような突拍子もないものを生み出すから面白いな>と感心していた。
俺も舞台のあまりの迫力と会場の興奮にあてられ、開演してすぐに、暗部への警戒のことなんかすっかりどこかに行ってしまった。
音楽会はまるで濁流のような激しい楽曲で幕を開けたが、時にはセクシーな曲やキュートな曲、悲しげな曲や穏やかで壮大な曲など、様々な曲が次々に展開され、そのたびに舞台の照明も変化して観衆を別の世界に連れて行った。
「みんなありがと~!またね~!」
1時間の演奏が終わり、マリアたちとともに深くお辞儀したあとでバーバラがそう言って観客たちに手を振り、舞台を降りていった。
会場には拍手と歓声が鳴り響き、その興奮はいつまでも冷めることがなかった。
…………………………………………
ざわめき続ける会場は突然、再び照明が暗くなったことで一瞬の静寂が訪れた。
すぐに舞台には一筋の光が差し込み、舞台の端に立つ一人の人物を照らす。
レミーだった。
服装はいつものタンクトップにショートパンツ、ポケットのたくさんついたジャケットにロングブーツというカジュアルなものだ。
「皆さん!今宵の音楽会は、いかがでしたか?」
レミーの声は音声通信用水晶によって増幅され、会場中に響き渡っている。
会場からは割れんばかりの拍手と「最高だったぞー!」「もっと聴きた~い!」「またやってくれよー!」などの歓声が上がっている。
レミーは拍手と歓声を堪能するように、豊かな赤い髪を揺らして何度も頷きながら舞台を歩き回った。
舞台に降り注ぐ一筋の光は、歩き回るレミーと一緒に移動して彼女を照らし続けている。
レミーが舞台の中央に差し掛かった時、そこにはひとつのテーブルがあることが、光の筋の中に入ったことでわかった。
テーブルの上には横幅が30cmくらい、高さと奥行きが15cmくらいだろうか、細長い箱が置いてある。
録音再生装置だろう。
レミーは観客たちを見回しながら、何も言わずに録音再生装置に取り付けられた様々なボタンのうちのひとつを押した。
録音再生装置からは突然「行っくよ~!」というバーバラの明るい声とマリアたちの奏でる音楽が鳴り響く。
先ほど終わったばかりの音楽会の音そのものだ。
会場がどよめく。
レミーが録音再生装置のボタンをもう一度押すと、音楽は止まった。
「本日、私が皆さんにご紹介したいのはこちらの魔導具です。録音再生装置。音声を記録し、好きな時に再生できる魔導具です」
レミーが録音再生装置からピグナタイトのカードを取り出す。
「しかもこのカードを取り換えるだけで、他にいくらでも様々な音楽を記録し再生することができます」
どよめきはさらに大きくなり、会場中の誰もが驚いているのであろうことがわかる。
「例えばあなたのお店で、家で。パーティーなど特別な演出が必要な時に、心からリラックスしたい時に、悲しい出来事を忘れてしまいたい時に。あらゆる場面、あらゆる空間、あらゆる時間に、いつでも自由にあなたが聴きたい音楽を流すことができるのです」
そこで会場から大きな拍手と歓声が上がる。
マリアたちの演奏に負けないくらいの大きさだ。
レミーが録音再生装置をトントンと叩いて言う。
「これはただの箱ではありません。ただの魔導具でもありません。皆さんは、これが何だかわかりますか?」
レミーは観客を見回した。
会場に疑問が広がる。誰もがレミーの質問に考え込んでいるようだ。
しばらくの間を置いて、レミーは「これは」と言った。
「これは、皆さんの生活を、文化を、世界を変える魔法の箱なのです!」
再び大きな拍手と歓声が上がる。
「この録音再生装置で、一緒に未来へと飛び立ちましょう!」
拍手と歓声がさらに大きくなり、会場が熱狂に包まれる。
「我がレミー・カーネリアン魔導具店の製品が、あなたたちを未来へ連れていきます!」
レミーの言葉が聞き取れなくなりそうなほどに会場の拍手と歓声は大きくなり、俺が思わず「すげえな」と呟いた時、カーライル王国の通信魔術師であるトーマスが近くにやってきて「大成功ですね」と言った。
「うん!最高の音楽会とプレゼンテーションだったよな!」
俺のその言葉に対して、トーマスは首を左右に振った。
「大成功というのは、我々の作戦が、ということですよ」
トーマスは目にも留まらぬ速さで、俺の両手に手錠をかけた。
「せっかくだから録音再生装置の他にも、私のいろんな魔導具を見て欲しいんですよね!」
という欲張りなレミーによる演出プランだった。
初めて体験するその斬新で派手な演出に誰もが驚愕し、会場は熱狂に包まれた。
シシリーは観覧室の窓に張り付いて「すごいね!すごいね!」と言っていたし、シェリルも「レミーの魔導具は本当に変わっているわね」と驚いていたし、バーグルーラも<人間は時にこのような突拍子もないものを生み出すから面白いな>と感心していた。
俺も舞台のあまりの迫力と会場の興奮にあてられ、開演してすぐに、暗部への警戒のことなんかすっかりどこかに行ってしまった。
音楽会はまるで濁流のような激しい楽曲で幕を開けたが、時にはセクシーな曲やキュートな曲、悲しげな曲や穏やかで壮大な曲など、様々な曲が次々に展開され、そのたびに舞台の照明も変化して観衆を別の世界に連れて行った。
「みんなありがと~!またね~!」
1時間の演奏が終わり、マリアたちとともに深くお辞儀したあとでバーバラがそう言って観客たちに手を振り、舞台を降りていった。
会場には拍手と歓声が鳴り響き、その興奮はいつまでも冷めることがなかった。
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ざわめき続ける会場は突然、再び照明が暗くなったことで一瞬の静寂が訪れた。
すぐに舞台には一筋の光が差し込み、舞台の端に立つ一人の人物を照らす。
レミーだった。
服装はいつものタンクトップにショートパンツ、ポケットのたくさんついたジャケットにロングブーツというカジュアルなものだ。
「皆さん!今宵の音楽会は、いかがでしたか?」
レミーの声は音声通信用水晶によって増幅され、会場中に響き渡っている。
会場からは割れんばかりの拍手と「最高だったぞー!」「もっと聴きた~い!」「またやってくれよー!」などの歓声が上がっている。
レミーは拍手と歓声を堪能するように、豊かな赤い髪を揺らして何度も頷きながら舞台を歩き回った。
舞台に降り注ぐ一筋の光は、歩き回るレミーと一緒に移動して彼女を照らし続けている。
レミーが舞台の中央に差し掛かった時、そこにはひとつのテーブルがあることが、光の筋の中に入ったことでわかった。
テーブルの上には横幅が30cmくらい、高さと奥行きが15cmくらいだろうか、細長い箱が置いてある。
録音再生装置だろう。
レミーは観客たちを見回しながら、何も言わずに録音再生装置に取り付けられた様々なボタンのうちのひとつを押した。
録音再生装置からは突然「行っくよ~!」というバーバラの明るい声とマリアたちの奏でる音楽が鳴り響く。
先ほど終わったばかりの音楽会の音そのものだ。
会場がどよめく。
レミーが録音再生装置のボタンをもう一度押すと、音楽は止まった。
「本日、私が皆さんにご紹介したいのはこちらの魔導具です。録音再生装置。音声を記録し、好きな時に再生できる魔導具です」
レミーが録音再生装置からピグナタイトのカードを取り出す。
「しかもこのカードを取り換えるだけで、他にいくらでも様々な音楽を記録し再生することができます」
どよめきはさらに大きくなり、会場中の誰もが驚いているのであろうことがわかる。
「例えばあなたのお店で、家で。パーティーなど特別な演出が必要な時に、心からリラックスしたい時に、悲しい出来事を忘れてしまいたい時に。あらゆる場面、あらゆる空間、あらゆる時間に、いつでも自由にあなたが聴きたい音楽を流すことができるのです」
そこで会場から大きな拍手と歓声が上がる。
マリアたちの演奏に負けないくらいの大きさだ。
レミーが録音再生装置をトントンと叩いて言う。
「これはただの箱ではありません。ただの魔導具でもありません。皆さんは、これが何だかわかりますか?」
レミーは観客を見回した。
会場に疑問が広がる。誰もがレミーの質問に考え込んでいるようだ。
しばらくの間を置いて、レミーは「これは」と言った。
「これは、皆さんの生活を、文化を、世界を変える魔法の箱なのです!」
再び大きな拍手と歓声が上がる。
「この録音再生装置で、一緒に未来へと飛び立ちましょう!」
拍手と歓声がさらに大きくなり、会場が熱狂に包まれる。
「我がレミー・カーネリアン魔導具店の製品が、あなたたちを未来へ連れていきます!」
レミーの言葉が聞き取れなくなりそうなほどに会場の拍手と歓声は大きくなり、俺が思わず「すげえな」と呟いた時、カーライル王国の通信魔術師であるトーマスが近くにやってきて「大成功ですね」と言った。
「うん!最高の音楽会とプレゼンテーションだったよな!」
俺のその言葉に対して、トーマスは首を左右に振った。
「大成功というのは、我々の作戦が、ということですよ」
トーマスは目にも留まらぬ速さで、俺の両手に手錠をかけた。
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