上 下
26 / 100

026 鉱物

しおりを挟む
坑道の奥の扉を開けた先は、やはり広大な空洞になっており、その奥には真っ黒で、表面がヌラヌラと虹色に怪しく輝く巨大な鉱物の塊があった。

あれがピグナタイトだろう。

その塊はガリガリガリと巨石がこすり合う音を立てながら、ゆっくりと立ち上がる。それは人型で、まるでドワーフの体型をそのまま荒くかたどった岩の彫刻のようだった。

ピグナタイトの魔物が立ち上がりきるのを待たずに、せっかちな二人が動き出す。

魔光爆炎砲サイコバズーカ!」
重力衝撃グラビティインパクト!」

レミーの大砲から白く輝く炎が、シシリーの両手から空間の歪みが同時に放たれ、ピグナタイトの真っ黒な岩肌に向かう。

直撃するも、キュインッ!という音とともに弾かれ、岩肌は無傷。

ピグナタイトの魔物はその右腕を下から大きく振り抜き、地面から大量の岩石を弾いてこちらに飛ばす。

<効かぬわ>

バーグルーラが俺たちの前に結界を貼り、岩石の雨をパシパシパシッ!とかき消して砂に変えた。

「これならどう!?空間破断スペースストラッシュ!」

宙を舞うバーグルーラの下からシシリーが手刀を逆袈裟に振り抜くと、比喩ではなくその先の空間がズレた。
音もなく地面から壁面、天井にかけて斜めに一直線の深い溝ができたが、ピグナタイトの魔物には傷ひとつない。

「なんで!?」

ピグナタイトの魔物が今度は左腕を振り回して岩石の散弾を飛ばす。

<単調な攻撃だな>

バーグルーラが再び結界を張る。

岩石が次々にバーグルーラの結界にかき消されていく中、「おかしいな、アタシの空間破断スペースストラッシュは絶対斬撃なのに…」と戸惑うシシリーにレミーが叫ぶ。

「あいつに魔術の攻撃は効きません!あの岩石自体が魔力を吸収してしまうんです!」

それを聞いて、静かに戦況を観察していたシェリルが動く。

「それなら私の出番ね」

レイピアを下段に構え、地面を蹴って跳躍した。いや、跳躍した「はず」だ。
俺の目にはシェリルが突然消えたとしか思えなかった。

巨大なピグナタイトの塊の周囲にシェリルと思われる影が縦に横に斜めに飛び回り、絶え間なくギィン!ギギィン!ギィン!という金属音だけが響いてくる。

ピグナタイトの塊は両手を振り回して暴れているがシェリルは捕まらない。が、ピグナタイトの岩肌にも傷はまったくついていない。

シャッ!と音を立ててシェリルがこちらに戻る。

「ピグナタイト…私の剣でも斬れない鉱物があったのね」

その言葉に、レミーが左右に首を振る。

「いえ、あれはピグナタイトではありません」

全員が驚く。

「え!じゃあアレは一体何なの!?」
「情報の吸収と蓄積の特性を持つピグナタイトだから魔物化したという話だったわよね」

その疑問に頷いてからレミーが答える。

「はい。たぶん中身はピグナタイトですが、表面に別の鉱石を纏っているんです。あの表面の虹色に輝く黒い鉱石は、黒虹鉄鋼ラクラルライト

「ら、黒虹鉄鋼ラクラルライト!?」と俺とシシリーとシェリルが声を揃える。

レミーが答える。

「はい。あらゆる魔力を吸収し、あらゆる物理攻撃を弾き返す世界最強の鉱石です」

…じゃあ無理じゃん。

さっきから降り注ぐ岩石の雨はすべてバーグルーラの結界にかき消されているけど、こっちの攻撃も効かないんじゃ無理じゃん。
当然、何度か地味に発動させた俺の精神破壊マインドブレイクも届いてないし。

よし帰ろう。諦めてさっさと帰って酒でも飲もう。

俺がそう提案しようとした時にバーグルーラが結界を張ったままこちらを振り返らずに言う。

<シシリーよ。我を元の大きさに戻せるか?>

「え?うん、できるけど、どうするの?」と答えたシシリーにバーグルーラが続ける。

<最大出力の竜王滅殺砲ドラグニルゼロを放つ。世界最強の鉱石とやらが、大陸をも消し飛ばす我の咆哮に耐えられるか、試してやるわ>

すぐさま俺が止めに入る。

「いやダメでしょそれは!こんなとこでやったら俺たちも消し飛んじゃうでしょ!」
「確かに崩落する程度では済まないわね」

<むう…それもそうか>

よしダメだな。いよいよダメだ。
これはもう帰ろう。いいね、よくやったね俺たちは。帰って酒だ酒。

「よしみんな」と俺が言い始めたところで背後の扉が開いた。

振り返ると、そこには大きなハンマーと杭を持ったドラウグティフェリが立っていた。

「俺に、任せろ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?

新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

処理中です...