22 / 100
022 パーティー
しおりを挟む
「カンパ~イ!」
何度目の乾杯だろう。
俺たちは連れ立って、街の酒場に来ていた。
新たに一緒に暮らすことになったシシリー、バーグルーラ、シェリルの歓迎会だ。
「いやぁ~、それにしてもシェリルの顔を見た時は、俺ぁ生きた心地がしなかったよぉ」
「…ごめんなさいね、驚かせてしまって」
「いいんですよ!大体ビビりすぎなんですよ!ティモシーさんは!」
「そんなこと言ったって、殺されちゃうんじゃないかと思ったんだよぉ、俺は」
「そんなわけないでしょ!シェリルは優しい子だよ、アタシにはわかるんだから!」
「あら、ありがとう。そんなふうに言ってもらったのは初めてだわ」
「そうなの?そんなの心の声を聞けばわかるよ!だってシェリルって本当はね」
と言いかけたシシリーの口をシェリルがバッと塞いだ。
心の声を勝手にバラそうとしちゃいかんよそりゃ。誰にだって知られたくないことはある。
バーグルーラは酒場のテーブルの上に乗り、小さな前脚で器用にジョッキを掴み、大きく開けた口に一気に酒を流し込んだ。
<やはり1000年ぶりの酒は美味いな!>
体長10cmの黒い竜、たぶん周囲からは珍しい爬虫類くらいに見えてると思うけど、それでもそんな生物が人間のように酒を飲む。
なかなかあり得ない光景ではあるが、酔っ払いだらけのこの店じゃ、そんなことは誰も気に留めていないようだ。
そして俺たちのいるテーブルの向こう、店の中央のステージでは、マリア、エレン、バーバラの3姉妹の音楽団が愉快なメロディを奏で、歌い、踊っている。
俺たちが手を振ると、3人揃って色っぽいウインクを返してくれた。
ここはマリアたち3姉妹と初めて会った店だ。
店長がこちらのテーブルにやってきて俺に話しかける。
「改めて、この間はありがとうございました」
「ん?この間?」
「や、ほら、当店で、あそこの音楽団が絡まれていた時に助けて頂いて」
「ああ!そういえば!いやいや、お気になさらず!」
「それにしても」と、店長はマリアたち3姉妹のほうに視線を送る。
「あの娘たちもすっかりこの街の人気者になってしまいまして」
「へえ!いいことじゃないですか!」とレミー。
「ええ、それはそうなんですが、なかなか当店に来てもらえる回数も少なくなってしまいましてね」
「あぁ、なるほどね~」と俺。
「ええ、やっぱりあの娘たちがいるといないでは正直、売上も違いますからね」
「ホントにすっごく楽しい音楽よね!アタシも大好き!」
「確かに、なんだかお酒が進む音楽ね」
店長はマリアたち3姉妹を見ながら言った。
「ええ、ですのであの娘たちがいないと音楽がなくなって、少し寂しくなってしまうんですよね」
その言葉に俺は思い出す。
ラノアール王国に俺がいた時、毎日のようにメンテナンスしていた水晶。
あれを加工できれば。
「ねえ、レミー」
「はい?」
「音声の通信用の水晶ってあるじゃん」
「ああ、ありますね」
「あれ加工してさ、音楽を記録させる魔導具って、作れないかな?」
ん、ほうほう、なるほどなるほど…と、レミーは顎に手をやり斜め上を向いて考え込む。
「…うん、理論的にはできると思いますよ!」
「お、ホント!?そしたらさ、その魔導具にマリアたちの音楽を記録してさ、そしたらこのお店にもその魔導具を置いてもらえるし、他の酒場にも置いてもらえそうじゃん!」
「ですね!しかも酒場だけじゃなくて洋服屋とかの商店、さらには一般家庭にも売れるかもしれませんね!」
「おお!確かに!もしかしてそれで大儲けできちゃうんじゃないの!?」
ここでさらにレミーが乗ってくるかと思いきや、「う~ん、いや、ただ…」と、また何か難しい顔をして考え込む。
「問題がひとつありまして、必要な素材になりそうなピグナタイトっていう鉱物が、このところ全然入ってこないんですよね。本当にたま~に、流れてはくるんですけど」
う~む。仕入れの問題か…と俺が悩んでいると、バーグルーラが口を挟んだ。
<ピグナタイトならドワーフの鉱山にあるだろう。奴らと直接話をつければ問題ないはずだ>
バーグルーラの精神感応の声を聞いて、「しゃ、喋った!?」と驚く店長に、「小型の竜!小型の竜なんですけど悪さはしませんので!」と俺が宥めすかしているとレミーがガタッと立ち上がった。
「行きましょう!ドワーフの鉱山に!」
「わあ!いいね!面白そう!」と手を叩いてはしゃぐシシリー。
「え!待って待って!だってドワーフの鉱山って、ここから1ヶ月くらいかかるでしょ!無理だよ俺!死んじゃうよ俺!弱いもん!」
そう抗議する俺にシェリルが呟いた。
「…私が、守りゅわ」
噛んだ。
噛んだが、その力強い心意気を受けてレミーがまくし立てる。
「そうですよ!前衛にシェリルさんにバーグルーラさん、中衛が私で後衛にティモシーさんとシシリーさん!充分な戦力のパーティーですよ!行きましょう!」
え~、また危ないとこ行くの~?やだぁ…と、またしてもゴネる俺は「行きましょう行きましょう!」「楽しそうだね!」<久方ぶりの旅になるな>「必じゅ、必ず守るわ」などと数の力で押し切られ、ドワーフ鉱山への旅立ちが決まってしまった。
何度目の乾杯だろう。
俺たちは連れ立って、街の酒場に来ていた。
新たに一緒に暮らすことになったシシリー、バーグルーラ、シェリルの歓迎会だ。
「いやぁ~、それにしてもシェリルの顔を見た時は、俺ぁ生きた心地がしなかったよぉ」
「…ごめんなさいね、驚かせてしまって」
「いいんですよ!大体ビビりすぎなんですよ!ティモシーさんは!」
「そんなこと言ったって、殺されちゃうんじゃないかと思ったんだよぉ、俺は」
「そんなわけないでしょ!シェリルは優しい子だよ、アタシにはわかるんだから!」
「あら、ありがとう。そんなふうに言ってもらったのは初めてだわ」
「そうなの?そんなの心の声を聞けばわかるよ!だってシェリルって本当はね」
と言いかけたシシリーの口をシェリルがバッと塞いだ。
心の声を勝手にバラそうとしちゃいかんよそりゃ。誰にだって知られたくないことはある。
バーグルーラは酒場のテーブルの上に乗り、小さな前脚で器用にジョッキを掴み、大きく開けた口に一気に酒を流し込んだ。
<やはり1000年ぶりの酒は美味いな!>
体長10cmの黒い竜、たぶん周囲からは珍しい爬虫類くらいに見えてると思うけど、それでもそんな生物が人間のように酒を飲む。
なかなかあり得ない光景ではあるが、酔っ払いだらけのこの店じゃ、そんなことは誰も気に留めていないようだ。
そして俺たちのいるテーブルの向こう、店の中央のステージでは、マリア、エレン、バーバラの3姉妹の音楽団が愉快なメロディを奏で、歌い、踊っている。
俺たちが手を振ると、3人揃って色っぽいウインクを返してくれた。
ここはマリアたち3姉妹と初めて会った店だ。
店長がこちらのテーブルにやってきて俺に話しかける。
「改めて、この間はありがとうございました」
「ん?この間?」
「や、ほら、当店で、あそこの音楽団が絡まれていた時に助けて頂いて」
「ああ!そういえば!いやいや、お気になさらず!」
「それにしても」と、店長はマリアたち3姉妹のほうに視線を送る。
「あの娘たちもすっかりこの街の人気者になってしまいまして」
「へえ!いいことじゃないですか!」とレミー。
「ええ、それはそうなんですが、なかなか当店に来てもらえる回数も少なくなってしまいましてね」
「あぁ、なるほどね~」と俺。
「ええ、やっぱりあの娘たちがいるといないでは正直、売上も違いますからね」
「ホントにすっごく楽しい音楽よね!アタシも大好き!」
「確かに、なんだかお酒が進む音楽ね」
店長はマリアたち3姉妹を見ながら言った。
「ええ、ですのであの娘たちがいないと音楽がなくなって、少し寂しくなってしまうんですよね」
その言葉に俺は思い出す。
ラノアール王国に俺がいた時、毎日のようにメンテナンスしていた水晶。
あれを加工できれば。
「ねえ、レミー」
「はい?」
「音声の通信用の水晶ってあるじゃん」
「ああ、ありますね」
「あれ加工してさ、音楽を記録させる魔導具って、作れないかな?」
ん、ほうほう、なるほどなるほど…と、レミーは顎に手をやり斜め上を向いて考え込む。
「…うん、理論的にはできると思いますよ!」
「お、ホント!?そしたらさ、その魔導具にマリアたちの音楽を記録してさ、そしたらこのお店にもその魔導具を置いてもらえるし、他の酒場にも置いてもらえそうじゃん!」
「ですね!しかも酒場だけじゃなくて洋服屋とかの商店、さらには一般家庭にも売れるかもしれませんね!」
「おお!確かに!もしかしてそれで大儲けできちゃうんじゃないの!?」
ここでさらにレミーが乗ってくるかと思いきや、「う~ん、いや、ただ…」と、また何か難しい顔をして考え込む。
「問題がひとつありまして、必要な素材になりそうなピグナタイトっていう鉱物が、このところ全然入ってこないんですよね。本当にたま~に、流れてはくるんですけど」
う~む。仕入れの問題か…と俺が悩んでいると、バーグルーラが口を挟んだ。
<ピグナタイトならドワーフの鉱山にあるだろう。奴らと直接話をつければ問題ないはずだ>
バーグルーラの精神感応の声を聞いて、「しゃ、喋った!?」と驚く店長に、「小型の竜!小型の竜なんですけど悪さはしませんので!」と俺が宥めすかしているとレミーがガタッと立ち上がった。
「行きましょう!ドワーフの鉱山に!」
「わあ!いいね!面白そう!」と手を叩いてはしゃぐシシリー。
「え!待って待って!だってドワーフの鉱山って、ここから1ヶ月くらいかかるでしょ!無理だよ俺!死んじゃうよ俺!弱いもん!」
そう抗議する俺にシェリルが呟いた。
「…私が、守りゅわ」
噛んだ。
噛んだが、その力強い心意気を受けてレミーがまくし立てる。
「そうですよ!前衛にシェリルさんにバーグルーラさん、中衛が私で後衛にティモシーさんとシシリーさん!充分な戦力のパーティーですよ!行きましょう!」
え~、また危ないとこ行くの~?やだぁ…と、またしてもゴネる俺は「行きましょう行きましょう!」「楽しそうだね!」<久方ぶりの旅になるな>「必じゅ、必ず守るわ」などと数の力で押し切られ、ドワーフ鉱山への旅立ちが決まってしまった。
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる