11 / 100
011 障壁
しおりを挟む
「それにしても残留思念感応だなんて、もうティモシーさん何でもありって感じだね」
魔術師ギルドに向かう道すがら、頭の後ろで両手を組んでそういうバーバラに、俺は答える。
「いや、そんなことないよ。俺なんかできないことだらけだよ」
そう。
俺はもともと剣も使えないし格闘もできないし、その上これまでの王宮の激務のせいですっかり運動不足。たぶん、女性とはいえ毎日ダンスをしているバーバラよりも、身体能力的には俺のほうが弱いだろう。
それに通信魔術以外は基礎しかできないし、その通信魔術だって魔力障壁をかけられていたら通じない。
魔術師ギルドに着いた時には、もうすっかり陽が落ちて夜になっていた。
重い木の扉を開いて俺たち4人はギルドの中に入る。
入り口の正面、すぐのところにある受付の女性が俺に話しかける。
「こんばんは。魔術師ギルドへの登録ですか?」
「いや、そうじゃなくて、この前お話させて頂いた職員さんにお会いしたいんですけど。えと、名前はわからないんですが、なんかすごくマジメそうな40代くらいの男性の方で」
「はあ、ザリフ、ですかね」
「あ、ですかね、はい、たぶん、そのザリフさんだと思います」
「少々お待ち下さいね」と言って受付の女性はカウンターの奥に引っ込む。
「あれ、ティモシーさんって、魔術師ギルドには登録してないんですか?」とエレン。
「うん、登録にはCランク以上が必要で、ランクを上げるには色々実績が必要なんだよね。で、俺は通信魔術しか使えないし、実績が全然足りないから登録できないの」
「へ~、そうなんだぁ、意外」とバーバラ。
「でも、あのボードに貼られてる求人情報はランク不問のものもあるから、それを見にここに来たことはあるんだけど」
そうこうしているうちにカウンターの奥から男が出てきた。
「副所長のザリフと申します。私に何か御用ですか?」
あ。ただの職員じゃなくて副所長だったのか。どうりで偉そうだと思った。
色白で表情のない男。神経質そうに時々片目をしかめる。
確かにコイツが残留思念感応の映像で見た男だ。
「いえ、えっと、あ、ほら、この前お聞きした王宮の通信魔術師の採用の件なんですけど」
話しかけながら記憶探知を仕掛ける。
ザリフは「ふん」と隠そうともせず見下した態度をとる。
「だから、アナタには無理だって、この前も伝えたでしょう」
「いや、ええ、それはもう、重々承知しておるんですが、今日はほら、こちらの3人の女性も連れてきている次第でして…」
「…それが、何か?」
「いや、まあ、やっぱり、難しいですかね、はい」
「バルガルド」「龍醒香薬」どちらのキーワードに対しても記憶探知の反応は返ってこない。
「意味がわかりませんね」とザリフは行儀悪くカウンターに腰掛ける。
「もしかして、アレですか?その3人に接待でもさせて、それで便宜でも図ってもらおうと?」
あ。そういう感じ?
正直そこまで考えてなかったけど、そういう流れになるなら、それで時間を稼ぐか。
「いやぁ、まあ、そう言ってしまうと、なんとも、アレなんですがね。ここはまあ、ひとつ、ご一席設けさせて頂ければ、なんて思いましてですね。あっはっは!」
笑って誤魔化す俺に、ザリフはゴミでも見るかのような視線を送る。
まあ、そうよね。確かに今の俺はゴミみたいだ。
しかし記憶探知の反応はまだ返ってこない。
というか、魔力自体が通っている感じがしない。おかしい。
もしかして、魔力障壁か?
「大体アンタね、通信魔術みたいな役に立たない術系統を選んだこともそうだけど、そういう社会を甘く見るような姿勢だから通用しないんだというのは、先日も言ったばかりでしょう」
…ぐっ。この野郎、ヤク中のくせしやがって。
コホン、とザリフは咳払いをする。
「まあ、いいでしょう。アンタみたいなボンクラ魔術師を指導するのも、当ギルドの副所長である私の役目だ。少し外で待っていなさい」
…む?
結局、それらしいこと言いながら接待受けたいってことじゃないか。
ホント、てめえ、この野郎…。
怒りを抑えつつ、言われた通り魔術師ギルドの外に出て4人で待つ。
それにしてもどうしよう。記憶探知が通らない。
もし本当に魔力障壁をかけているのなら、いくら接待で時間を稼いだところで意味がない。
どうしよ。
魔術師ギルドに向かう道すがら、頭の後ろで両手を組んでそういうバーバラに、俺は答える。
「いや、そんなことないよ。俺なんかできないことだらけだよ」
そう。
俺はもともと剣も使えないし格闘もできないし、その上これまでの王宮の激務のせいですっかり運動不足。たぶん、女性とはいえ毎日ダンスをしているバーバラよりも、身体能力的には俺のほうが弱いだろう。
それに通信魔術以外は基礎しかできないし、その通信魔術だって魔力障壁をかけられていたら通じない。
魔術師ギルドに着いた時には、もうすっかり陽が落ちて夜になっていた。
重い木の扉を開いて俺たち4人はギルドの中に入る。
入り口の正面、すぐのところにある受付の女性が俺に話しかける。
「こんばんは。魔術師ギルドへの登録ですか?」
「いや、そうじゃなくて、この前お話させて頂いた職員さんにお会いしたいんですけど。えと、名前はわからないんですが、なんかすごくマジメそうな40代くらいの男性の方で」
「はあ、ザリフ、ですかね」
「あ、ですかね、はい、たぶん、そのザリフさんだと思います」
「少々お待ち下さいね」と言って受付の女性はカウンターの奥に引っ込む。
「あれ、ティモシーさんって、魔術師ギルドには登録してないんですか?」とエレン。
「うん、登録にはCランク以上が必要で、ランクを上げるには色々実績が必要なんだよね。で、俺は通信魔術しか使えないし、実績が全然足りないから登録できないの」
「へ~、そうなんだぁ、意外」とバーバラ。
「でも、あのボードに貼られてる求人情報はランク不問のものもあるから、それを見にここに来たことはあるんだけど」
そうこうしているうちにカウンターの奥から男が出てきた。
「副所長のザリフと申します。私に何か御用ですか?」
あ。ただの職員じゃなくて副所長だったのか。どうりで偉そうだと思った。
色白で表情のない男。神経質そうに時々片目をしかめる。
確かにコイツが残留思念感応の映像で見た男だ。
「いえ、えっと、あ、ほら、この前お聞きした王宮の通信魔術師の採用の件なんですけど」
話しかけながら記憶探知を仕掛ける。
ザリフは「ふん」と隠そうともせず見下した態度をとる。
「だから、アナタには無理だって、この前も伝えたでしょう」
「いや、ええ、それはもう、重々承知しておるんですが、今日はほら、こちらの3人の女性も連れてきている次第でして…」
「…それが、何か?」
「いや、まあ、やっぱり、難しいですかね、はい」
「バルガルド」「龍醒香薬」どちらのキーワードに対しても記憶探知の反応は返ってこない。
「意味がわかりませんね」とザリフは行儀悪くカウンターに腰掛ける。
「もしかして、アレですか?その3人に接待でもさせて、それで便宜でも図ってもらおうと?」
あ。そういう感じ?
正直そこまで考えてなかったけど、そういう流れになるなら、それで時間を稼ぐか。
「いやぁ、まあ、そう言ってしまうと、なんとも、アレなんですがね。ここはまあ、ひとつ、ご一席設けさせて頂ければ、なんて思いましてですね。あっはっは!」
笑って誤魔化す俺に、ザリフはゴミでも見るかのような視線を送る。
まあ、そうよね。確かに今の俺はゴミみたいだ。
しかし記憶探知の反応はまだ返ってこない。
というか、魔力自体が通っている感じがしない。おかしい。
もしかして、魔力障壁か?
「大体アンタね、通信魔術みたいな役に立たない術系統を選んだこともそうだけど、そういう社会を甘く見るような姿勢だから通用しないんだというのは、先日も言ったばかりでしょう」
…ぐっ。この野郎、ヤク中のくせしやがって。
コホン、とザリフは咳払いをする。
「まあ、いいでしょう。アンタみたいなボンクラ魔術師を指導するのも、当ギルドの副所長である私の役目だ。少し外で待っていなさい」
…む?
結局、それらしいこと言いながら接待受けたいってことじゃないか。
ホント、てめえ、この野郎…。
怒りを抑えつつ、言われた通り魔術師ギルドの外に出て4人で待つ。
それにしてもどうしよう。記憶探知が通らない。
もし本当に魔力障壁をかけているのなら、いくら接待で時間を稼いだところで意味がない。
どうしよ。
10
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~
暇人太一
ファンタジー
仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。
ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。
結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。
そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる