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011 障壁

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「それにしても残留思念感応サイコメトリーだなんて、もうティモシーさん何でもありって感じだね」

魔術師ギルドに向かう道すがら、頭の後ろで両手を組んでそういうバーバラに、俺は答える。

「いや、そんなことないよ。俺なんかできないことだらけだよ」

そう。
俺はもともと剣も使えないし格闘もできないし、その上これまでの王宮の激務のせいですっかり運動不足。たぶん、女性とはいえ毎日ダンスをしているバーバラよりも、身体能力的には俺のほうが弱いだろう。
それに通信魔術以外は基礎しかできないし、その通信魔術だって魔力障壁をかけられていたら通じない。

魔術師ギルドに着いた時には、もうすっかり陽が落ちて夜になっていた。
重い木の扉を開いて俺たち4人はギルドの中に入る。

入り口の正面、すぐのところにある受付の女性が俺に話しかける。

「こんばんは。魔術師ギルドへの登録ですか?」
「いや、そうじゃなくて、この前お話させて頂いた職員さんにお会いしたいんですけど。えと、名前はわからないんですが、なんかすごくマジメそうな40代くらいの男性の方で」
「はあ、ザリフ、ですかね」
「あ、ですかね、はい、たぶん、そのザリフさんだと思います」

「少々お待ち下さいね」と言って受付の女性はカウンターの奥に引っ込む。

「あれ、ティモシーさんって、魔術師ギルドには登録してないんですか?」とエレン。

「うん、登録にはCランク以上が必要で、ランクを上げるには色々実績が必要なんだよね。で、俺は通信魔術しか使えないし、実績が全然足りないから登録できないの」

「へ~、そうなんだぁ、意外」とバーバラ。

「でも、あのボードに貼られてる求人情報はランク不問のものもあるから、それを見にここに来たことはあるんだけど」

そうこうしているうちにカウンターの奥から男が出てきた。

「副所長のザリフと申します。私に何か御用ですか?」

あ。ただの職員じゃなくて副所長だったのか。どうりで偉そうだと思った。
色白で表情のない男。神経質そうに時々片目をしかめる。
確かにコイツが残留思念感応サイコメトリーの映像で見た男だ。

「いえ、えっと、あ、ほら、この前お聞きした王宮の通信魔術師の採用の件なんですけど」

話しかけながら記憶探知マインドディテクションを仕掛ける。

ザリフは「ふん」と隠そうともせず見下した態度をとる。

「だから、アナタには無理だって、この前も伝えたでしょう」
「いや、ええ、それはもう、重々承知しておるんですが、今日はほら、こちらの3人の女性も連れてきている次第でして…」
「…それが、何か?」
「いや、まあ、やっぱり、難しいですかね、はい」

「バルガルド」「龍醒香薬ドラグドラッグ」どちらのキーワードに対しても記憶探知マインドディテクションの反応は返ってこない。

「意味がわかりませんね」とザリフは行儀悪くカウンターに腰掛ける。

「もしかして、アレですか?その3人に接待でもさせて、それで便宜でも図ってもらおうと?」

あ。そういう感じ?
正直そこまで考えてなかったけど、そういう流れになるなら、それで時間を稼ぐか。

「いやぁ、まあ、そう言ってしまうと、なんとも、アレなんですがね。ここはまあ、ひとつ、ご一席設けさせて頂ければ、なんて思いましてですね。あっはっは!」

笑って誤魔化す俺に、ザリフはゴミでも見るかのような視線を送る。

まあ、そうよね。確かに今の俺はゴミみたいだ。

しかし記憶探知マインドディテクションの反応はまだ返ってこない。
というか、魔力自体が通っている感じがしない。おかしい。
もしかして、魔力障壁か?

「大体アンタね、通信魔術みたいな役に立たない術系統を選んだこともそうだけど、そういう社会を甘く見るような姿勢だから通用しないんだというのは、先日も言ったばかりでしょう」

…ぐっ。この野郎、ヤク中のくせしやがって。

コホン、とザリフは咳払いをする。

「まあ、いいでしょう。アンタみたいなボンクラ魔術師を指導するのも、当ギルドの副所長である私の役目だ。少し外で待っていなさい」

…む?
結局、それらしいこと言いながら接待受けたいってことじゃないか。
ホント、てめえ、この野郎…。

怒りを抑えつつ、言われた通り魔術師ギルドの外に出て4人で待つ。

それにしてもどうしよう。記憶探知マインドディテクションが通らない。
もし本当に魔力障壁をかけているのなら、いくら接待で時間を稼いだところで意味がない。

どうしよ。
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