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004 隣国への旅立ち

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頭が痛い。
完全に二日酔いだ。
もう酒はやめよう、と酒を飲むたびに思う。

重たい体でどうにかこうにか歩き、いつもよりやたら眩しく感じる陽の光の中、街の中心の広場に向かう。

昨夜の魔導具職人の女の子は、レミー・カーネリアンといった。
21歳。
魔導具の店を出しているわけではなく、15歳から6年間、自宅兼作業場で作成した魔導具を王宮や武器屋・防具屋などに卸すことで生計を立ててきたらしい。
隣国に行ったら、いよいよ念願の自分の店を出したいそうだ。
酒の席での話ではあるが、本気で隣国で商売をするためについてきて欲しいとのことで、今日の12時に広場で待ち合わせの約束をした。
俺は別に構わないけど、昨日の今日で見ず知らずの男と国を出るなんて、最近の若い娘は一体どうなってるんだ。

でも少なくとも俺に関して言えば、よくよく考えてみたら出国するなら急いだほうがよさそうだった。
一応、通信端末のメンテナンスマニュアルは置いてきたので俺がいなくなってもすぐに通信端末が使えなくなるということはないはずだ。それでもいつかは必ず素人では手に負えない問題が発生する。もって1ヶ月か、下手したら今日にも何か起きるかもしれない。
そうなれば、そのクソ面倒臭い処理のために現場に引き戻されることになる。
前よりさらに状況が悪化した現場に、だ。恐ろしい。さっさと逃げるに限る。

広場にたどり着くと、大きな荷物を抱えた赤い髪の女の子がこちらに手を振っている。

「ティモシーさん!ちゃんと来てくれたんですね!」

無邪気な笑顔で笑うレミーに向かって歩く。

「そっちこそ飲みすぎて忘れてるんじゃないかと思ってたよ」
「そんなわけないじゃないですか!私はちゃんと約束は守りますよ!」

レミーは飛び跳ねながらプンスカしている。
あれだけ飲んだのにずいぶん元気だ。

「ごめんごめん。ていうか、本当にいいの?こんな会ったばかりで一緒に国を出るなんて」
「いいじゃないですか、思い立ったが吉日ってやつですよ!」

さ!早く行きましょ!と俺を先導してさっさと歩いていく。
いや、待って…二日酔いでそんなに早く歩けない。せっかちさんめ。

向かう先は冒険者ギルドだ。
隣国までは馬車で1週間程度だが、道中は魔物や盗賊も出るそうなので非力な通信魔術師と魔導具職人だけでは無理がある。
ギルドで護衛の依頼を出して冒険者パーティーに連れて行ってもらう必要がある。
他国への護衛は報酬も高めなので、きっと今日のうちにパーティーは見つかるだろう。

冒険者ギルドに着くと、受付にレミーが依頼を出す。

「隣国のカーライルまで護衛を頼みたいの!なるべく早く、今日にでも出発で!」

受付のクマみたいな毛むくじゃらのオジサンが「ちょっと待ってな」とクエストの発注書を出す。

「ここに依頼者の情報と、依頼内容と報酬額を書いてくれ。馬車代も込みで50万ディルも出せばすぐにエントリーが入ると思うよ」

50万ディル。1年目の宮廷魔術師の月給が大体30万ディルくらいなので、なかなかの金額だ。ちなみに俺の先月の月給も30万ディルだった。
魔法学園を出た18歳の頃から10年も働いたってのに!
でも貯金は全然ある。使うヒマもなかったから。

「50万ディルか。なら俺が全額出すよ」
「ダメですよ!ちゃんと私とティモシーさんで25万ずつにしましょう!」
「いいの?」
「もちろん!そもそも私が言い出したことですし、こういうのはフェアにいかないと」

おっしゃる通り。一応、年上のマナーとして全額と言ってみたが、なかなか考え方が合う。

受付のオジサンに25万ずつ支払い、クエストの発注書を提出した。

依頼者から冒険者ギルドへの報酬は基本的には前払いだ。
そこからギルド側が手数料を抜いて、依頼を達成した冒険者には達成後にギルドから報酬が支払われる。
もちろん例外もあって、信用のある依頼者で高額報酬の案件の際には着手金だけ前払いで残りは達成後に後払いというケースもあるようだ。

「50万ディル、確かに。たぶん1時間もすりゃエントリーが入ると思うからあとでまたここに顔を出しに来てくれ」

オジサンは提出された発注書を受付カウンターの横にある大きなボードに貼り出した。
依頼を受ける冒険者はこのボードに貼られたクエストの発注書を見て、発注書下部にある受注者エントリー欄に自分のパーティー名とランク、人数を記載する。

だが…

本当はこういうのも、紙じゃなくて通信魔術が入った石版をギルドと冒険者と依頼者に持たせて仕組みを作ることができれば、依頼者もわざわざギルドまで顔を出さなくても発注できるし、冒険者も出先からエントリーできるのにな、と思う。

ただ、学生時代に実際に提案してみたことがあるが、「今のやり方で問題なくできているのだから必要ない」とのことだった。

まあ確かに、そういう設備投資もタダではないので、わからなくもないが。

エントリーが入るまでの時間つぶしがてら俺とレミーが近くのレストランで昼ごはんを食べて帰ってくると、やはり貼り出された発注書にパーティー名の記載があった。

シャドーダガー/Cランク/4名

発注書を剥がし、受付のオジサンに手渡す。

「お、入ってるね。おーい!シャドーダガーのメンバーはいるか~?」

ギルド内にいくつもあるテーブルから4人の男女が立ち上がり「はい!俺たちです!」とこちらに近付いてくる。

「えっと、依頼者さんですかね。俺がリーダーのジョシュアです。よろしくお願いします」

ああ、よろしく。と握手を交わして自己紹介を済ます。

剣士:ジョシュア・パッカード/18歳/金髪で長身の男性
戦士:ベア・タンクレッド/18歳/両手斧を担いだ大柄な男性
黒魔術師:マグノリア・ポッツ/18歳/黒髪ボブで眼鏡の小柄な女性
白魔術師:フローレンス・サーリネン/18歳/金髪ナイスバディの女性

Cランク。FランクからSランクまで存在する冒険者ランクのちょうど真ん中。
ここラノアール王国から隣国のカーライル王国まで1週間程度の旅路だが、その道中はそれほど強い魔物はいないそうなので、護衛には十分な戦力となるだろう。シャドーダガーというパーティー名のセンスはどうかと思うが。

「外に馬車の手配もしてありますので、さっそくですが参りましょう」と、黒魔術師のマグノリアが眼鏡をクイッとしながら言う。

馬車に乗り込みながら、二日酔いで馬車とか死亡確定だな、と思うとともに、これでもうラノアール王国に戻ることもないんだろうな、と俺は思う。
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