2 / 100
002 理不尽な解雇
しおりを挟む
謁見の間にフランネル財務大臣より呼び出された時は、通信魔術師の増員の願いが聞き入れられたのだろうと思っていた。その第一声を聞くまでは。
「今までご苦労だったティモシー・スティーブンソン。お前に解雇を言い渡す」
王の御前ではあったが、思わず顔を上げた。
「私が…解雇?ですか?」
ヒゲをたくわえてでっぷり太ったフランネル財務大臣は無表情に見下している。
その奥で玉座の王様は聞いているんだかいないんだか、俺を見てさえもいない。
居並ぶ他の大臣たちも、あからさまに興味がなさそうな素振りだ。
「せめて、理由をお教え頂けますか…?」
ぶふぅーと、フランネル財務大臣は大きくため息をつく。
「お前が通信魔術師として真面目に仕事をしていることは報告を受けている。だが、来たる魔王軍との全面戦争に向けて、さらなる軍備増強が必要とされることは知っているな」
「ええ、ですから以前より通信魔術師の増員をお願いしており…」
「余計な口をはさむな!」
フランネル財務大臣の隣りに立つギグス軍務大臣が声を荒げる。
俺が押し黙るのを確認し、咳払いをしてフランネル財務大臣が続ける。
「後方支援の通信魔術師よりも兵士の増員が先だ。それから黒魔術師と白魔術師もな。できれば召喚魔術師も招聘したい。とはいえ軍事予算にも限りがある。その中で優先順位をつけた上で今回の判断だ。要するに、前線で命を張るわけでもない通信魔術師ごときに高い給金を支払う価値はない、ということだ」
高い給金?どこがだよ!という言葉はぐっと飲み込み反論する。
「お言葉ですが大臣。前線で命を張る兵士を支えているのは通信魔術です。私がいなくなれば"端末"は力を失い、情報連携が取れなくなった兵士は命を落とします」
「ふん。そんなもの、毎日同じように水晶やら石版やらに魔力を通すだけではないか。平民出身のお前などいなくても何とでもなる」
「いえ、ただ魔力を通すだけではなく、通信魔術として特別な術式も必要ですし、消費する魔力量も通常の魔術より…」
「言い逃れは見苦しいぞ!」
またギグス軍務大臣が遮る。フランネル財務大臣が続ける。
「王国に通信魔術を導入したお前の功績は認める。ただ、今の作業はお前でなくても手の空いた魔術師に任せれば済むことだ。端末が壊れれば魔導具屋に修理させればいい」
そんな簡単な話じゃない…通信魔術は黒魔術や白魔術とはまったく別の術式だし、通信用の端末は魔導具職人だけでは修理できないこともある。
「それにな…」
それに?なんだ?
「ティモシー・スティーブンソン。お前がそんなに『自分がいなければ』と言うほど優秀な人材なら、王宮を解雇になってもどこでだって生きていけるだろう?」
…OKわかった。この国はもうダメだ。
それ以上反論する気力も失った俺はおとなしく解雇を受け入れ、王宮をあとにして城下町の酒場に向かった。
飲まなきゃやってられん。
引き継ぎ?知るか!
「今までご苦労だったティモシー・スティーブンソン。お前に解雇を言い渡す」
王の御前ではあったが、思わず顔を上げた。
「私が…解雇?ですか?」
ヒゲをたくわえてでっぷり太ったフランネル財務大臣は無表情に見下している。
その奥で玉座の王様は聞いているんだかいないんだか、俺を見てさえもいない。
居並ぶ他の大臣たちも、あからさまに興味がなさそうな素振りだ。
「せめて、理由をお教え頂けますか…?」
ぶふぅーと、フランネル財務大臣は大きくため息をつく。
「お前が通信魔術師として真面目に仕事をしていることは報告を受けている。だが、来たる魔王軍との全面戦争に向けて、さらなる軍備増強が必要とされることは知っているな」
「ええ、ですから以前より通信魔術師の増員をお願いしており…」
「余計な口をはさむな!」
フランネル財務大臣の隣りに立つギグス軍務大臣が声を荒げる。
俺が押し黙るのを確認し、咳払いをしてフランネル財務大臣が続ける。
「後方支援の通信魔術師よりも兵士の増員が先だ。それから黒魔術師と白魔術師もな。できれば召喚魔術師も招聘したい。とはいえ軍事予算にも限りがある。その中で優先順位をつけた上で今回の判断だ。要するに、前線で命を張るわけでもない通信魔術師ごときに高い給金を支払う価値はない、ということだ」
高い給金?どこがだよ!という言葉はぐっと飲み込み反論する。
「お言葉ですが大臣。前線で命を張る兵士を支えているのは通信魔術です。私がいなくなれば"端末"は力を失い、情報連携が取れなくなった兵士は命を落とします」
「ふん。そんなもの、毎日同じように水晶やら石版やらに魔力を通すだけではないか。平民出身のお前などいなくても何とでもなる」
「いえ、ただ魔力を通すだけではなく、通信魔術として特別な術式も必要ですし、消費する魔力量も通常の魔術より…」
「言い逃れは見苦しいぞ!」
またギグス軍務大臣が遮る。フランネル財務大臣が続ける。
「王国に通信魔術を導入したお前の功績は認める。ただ、今の作業はお前でなくても手の空いた魔術師に任せれば済むことだ。端末が壊れれば魔導具屋に修理させればいい」
そんな簡単な話じゃない…通信魔術は黒魔術や白魔術とはまったく別の術式だし、通信用の端末は魔導具職人だけでは修理できないこともある。
「それにな…」
それに?なんだ?
「ティモシー・スティーブンソン。お前がそんなに『自分がいなければ』と言うほど優秀な人材なら、王宮を解雇になってもどこでだって生きていけるだろう?」
…OKわかった。この国はもうダメだ。
それ以上反論する気力も失った俺はおとなしく解雇を受け入れ、王宮をあとにして城下町の酒場に向かった。
飲まなきゃやってられん。
引き継ぎ?知るか!
0
お気に入りに追加
172
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる