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第2章

20 noble

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「は…はは…!掃除屋…?アタシたちが…?」
「きっとマザーと接続したままだったら、機械装甲兵をあらかた片付けたあとで味方のアンドロイドも殲滅するように強制的に動かされたんだろうな、わたしたちは…」
「それで、最後はアタシたちも自爆か…?い、一体、何のために…?」
「わからない……なぜ、わたしたちは作られたんだろうな…」

セリナの吸血を終えて事情を理解すると、二人の白い少女は呆然とした表情でそう言い合った。私は項垂れる二人の頭をガシッと無理やり抱き寄せる。

「もういいの!あなたたちはもう自由なのよ!」

私の腕の中でセリナが声を震わせる。

「自由なんて、言われたって…何したらいいか、わかんないよ…!」

アイナも同じように声を震わせて言う。

「ずっと、マザーに従ってきたから、何もないのが、こ、怖くて、仕方ないんだ…!」

二人が顔を押し付ける私の胸のあたりに湿った感触がある。泣いているのだろう。
私は二人の頭を撫でて言う。

「ライラがさっき言ってたでしょう。生きる理由なんか自分で決めればいいのよ」

二人は震えながら、「できない…できないよ…!」「定義の、定義の方法がわからない…!」などと口々に呟いた。
私はしばらく待ってから「いいわ」と言う。

「もしどうしても誰かに従いたいというなら、私に従いなさい」

アイナとセリナはその言葉にハッとした様子で顔を上げる。

「アンドロイドのあなたたちを吸血鬼ヴァンパイアにすることはできないけど、どうしても誰かに従いたいと言うなら、あなたたちをたった今からエスパーダ侯爵家の侍女に任命するわ」

アイナとセリナは目を見張り、私を見つめている。

「私は人間に戻りたいの。吸血鬼ヴァンパイアとして誰かを支配するなんて、まっぴらごめんよ。でも、あなたたちが侍女として仕えるというなら、私は人間の貴族として、あなたたちをどこまでも導いていくわ。でもね」

私はアイナとセリナの顔を順番に強く見据える。

「その中で、あなたたちは、あなたたち自身の人生の意味を見出す努力を続けなさい。いいわね?」

アイナとセリナはポロポロと涙をこぼし「はい!!!」と声を揃えた。

「ありがとうリリアス!アタシ、侍女ってやつ、頑張るよ!!」
「おいセリナ!もはや上官であるリリアス殿に向かって何という口の聞き方だ!」
「いや、私は上官では、ないわ…」
「ち、ちょっと待ってくれ…侍女を検索…あ!マザーとの接続は切れてるんだった!」
「我々の深層データベースの中にあるんじゃないか!?侍女…侍女………!」
「…あった!あったぞ…!へえ……これだと、リリアスお嬢様って呼ぶべきなのかな…」
「いや、我々の場合は直接の雇い主になるのだから御主人様ではないのか…?」

ぶつぶつ言い合うアイナとセリナから離れて、私は「普通に今まで通りリリアスでいいわよ」と言う。二人から離れると、ふいにローザと目が合う。

「ご立派です…感服いたしましたわ…リリアス様…!」

ローザは祈るように胸の前で両手を組み、目を輝かせている。
その横でライラも同じような目をして微笑う。

「やっぱりカッコいいね、リリアスは」

私は褒められたのが嬉しくて誇らしげに胸を張る。
するとローザが恍惚とした表情で言った。

「うふふ…それにしてもまさか、わたくしたちのハーレムにアンドロイドまで加わるなんて…」

私は慌てて否定する。

「なななな何言ってんの!?アイナとセリナはそういうのじゃないからっ!」
「あら、そうでしたの?」
「あたしも、アイナとセリナもハーレムに入るのかと思ったよ」
「ら、ライラまで何言ってるのよ!二人は侍女よ侍女!」
「ハーレムとは何だ…?深層データベースを」
「け、検索しちゃダメ!」

アイナとセリナは「なぜだ?」「なんか面白そうだよな?」などと言い合っている。

「そ、そんなことより、さっさとマザーをぶん殴りに行くわよ!」


******


そう意気込んだ私だったけどみんなに諌められて気がついた。
とにかくみんなヘトヘトだった。
まずは何もせずゆっくり休むことにして行動は次の日の夜に始めることにした。

ローザはひたすら眠って失われた魔力の回復に努めた。
朝が来るまではライラが眠り、日が昇ってからは私が眠り、睡眠を必要としないアイナとセリナは昼夜を問わず警戒を続けてくれた。

私は起きている間、アイナとセリナの二人にいろいろなことを聞いた。

例えば二人の血を吸って私が獲得した能力について。

ナノテクノロジーというものを活用して自分の身体を無機物に変えたり、セリナのサーチモードやアイナのオーバードライブという能力を発動させたりすることは私にはできないみたいだったけど、バリアやレーザーやフラッシュという能力は使えるようになったみたいだった。
それから、二人が使っているところは見たことがなかったけど、光学迷彩と超音波という能力も獲得できたようだった。

「光学迷彩っていうのはどういうものなの?」
「簡単に言えば透明になれるんだよ」
「まずはわたしが実演しよう」

アイナはそう言うとその場から消え去ったように見えた。
とは言っても、姿が見えなくなっただけでその場にいることは気配でわかる。
潜影移動スニークと違って実体はそのままだし、あんまり使う機会はないかしら…。

「ところでリリアス、アタシたちは頑張ったら侍女長っていうのになれるのか?」
「え?侍女長?それは無理ね。イザベラがいるもの」
「それは我々アンドロイドの戦闘力をもってしても不可能なのか?」
「うん、そもそも侍女って戦うものじゃないけど、戦っても絶対に勝てないわね」
「…人間なんだよな?そのイザベラって」
「セリナ」
「ん?」
「イザベラだけは絶対に『イザベラ先生』と呼びなさい」
「え、お、おお…わかった」
「新人の侍女が呼び捨てなんかしたら殺されかねないわ。アンドロイドでも吸血鬼ヴァンパイアでも絶対に勝てないはずよ、イザベラには」
「了解した…『イザベラ先生』について、重要な情報として記憶領域に登録しておこう」

そうして夜は更けていった。


******


朝が来てまた夜になって、私たちは出発することにした。

「さあマザーをぶん殴るわよ!」と息巻いた私だったけど、それではメルカ共和国のすべてを敵に回すことになってしまってあまりに多勢に無勢だし、そもそもそんなふうに何もかも破壊し尽くすようなことは本来定められていた『掃除屋』の役割のようで嫌だとアイナとセリナは言った。

「それに、マザーはメルカ共和国に住んでいた人類の人格データを保有しているのも大きな問題だ」
「ああ、それがなくなっちまったらこの球体世界スフィアの人類は今度こそ本当の意味で滅亡しちまう」
「マザーをネットワークから引き剥がす方法でもあればいいのだが」

アイナとセリナの血を得て、このエントロクラッツの知識がある程度わかった私だったのに、二人の話がイマイチ理解できない。だけどローザが言った。

「森に向かいましょう」

私たちは声を揃えて「森?」と言った。

「ええ。今のわたくしたちが頼れて、マザーについて詳しいのはきっと、長年そこから逃れ続けているケイト様やアンズ様、あの森に隠れている皆様ですわ」
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