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第2章

7 in the heart of the forest

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ザザザザザザザ…とツタを森に伸ばしたライラの身体中にもそのツタは絡みついていて、よく見れば腕や脚、おなかや顔の一部にそのツタは食い込んでいるように見える。

「ライラ、それ大丈夫なの…?身体からツタ生えてない…?」

私がそう聞くと、ライラは苦しそうに「だ、大丈夫…」と答える。

「あたしの植物魔術は身体から生やしてるんじゃなくて召喚魔術みたいに魔力で植物を呼び出してるんだ。でもこれだけ広い森を探るのは魔力の消費量が大きくてね…。森の主様の許しがあればもっとラクなんだけど…」

ローザがライラの肩あたりに手をかざして柔らかい光を放つ。

祝福ブレス…!わたくしの魔力を付与しますわ…!」
「わ…!ありがとうローザ…!」

ライラの身体がローザの光に包まれると、ツタはさらに勢いと量を増して森へと伸びていく。寄り添う二人を見て、私は胸の奥がモヤモヤしてしまう。そんな自分がイヤで思わず目を背ける。

「機械装甲兵の村は見つかりそうか?」

アイナがそう聞くとライラは「もう少し待って…今みんなの声を聴いてる…」と答える。

「そっか…この森にはもう主様はいないんだね……戦争のせいか……かわいそうに…植物たちが怖がってる」

ライラの独り言を聞いてアイナが「この森林地帯ではそれほど激しい戦闘は行われていないはずだが」と言うと、セリナが「しっ!お前は黙ってろよ」と押し留める。

「――――……!……この子たち…!!」

ライラは全身からガクンと力が抜けたようで「はあっ!はあっ!」と息を切らし、ツタもすべて消え去ってしまう。「ライラ!」よつん這いで大きく呼吸するライラにローザが声をかける。

「大丈夫…大丈夫だよ…」

そう言いながらライラはローザに支えられて立ち上がると、アイナとセリナに強い眼差しを向けた。

「村を…殲滅するって言ってたよね…!」
「それが我々のミッションだ」
「…どうしても?」
「どうしてもだ」
「だったら…戦うしかないね」

臨戦態勢に入ったライラを見てアイナも身構える。
ライラの横でローザが「ちょっとライラ!?」と言い、アイナの横でセリナが「お、落ち着けって!」と言う。

私は少し離れたところから「ライラ」と声をかける。

「どういうことか説明してよ」

ライラは私を見て臨戦態勢を解くと、静かに頷く。

「う、うん……確かに、この森の中に機械の人間みたいなのがいたよ。でも、みんな必死に森を守って、森とともに生きてて、どうしても悪い人たちには見えなかったんだよ」

アイナは「だが機械装甲兵は」と言いかけるが、セリナが「待てよアイナ」と遮る。

「なあ、アイナ。確かに司令部は『調査の上で殲滅』って言ったけどよ。でもそれは本当に悪い奴らかどうか自分の目で見てからでもいいんじゃないか?」
「…悪い奴らでなかった場合は、ミッションをどのように処理しろと言うのだ」
「そんなもん………その時はその時だよ!」
「その時とはどういうことだ」

言い合うアイナとセリナに、ローザが「まあまあ」と割って入る。

「その場合は『調査の結果、殲滅の必要性なしと判断。以上』でよろしいのではなくて?」

アイナは首を振り「それでは司令部は納得しない」と言い、セリナも黙ってうつむき下唇を噛む。私はため息をついて一歩前に踏み出す。

「とにかく私はさっさとゲートとやらを開けて欲しいのよ。ここで言い合いをしている時間がもったいないわ。行くのか行かないのか、さっさと決めてちょうだい」

正直、私は少しイライラしてしまっていた。

それが顔に出ていたのだろう。ちょっと魔力も漏れていたかもしれない。

アイナもセリナも、それどころかローザもライラもビクッとして怯えの表情を浮かべて私を見た。
何か恐ろしい化け物、それこそ、血に飢えた吸血鬼ヴァンパイアでも見るみたいに。

確かに、喉は渇いてるけど………。

私が目を逸らそうとした時、セリナが「行くよ…まずは調査だ」と呟き、アイナも小さく「ああ…」と呟いた。それを見て「では、参りましょうか」と言うローザにライラは頷き、「…じゃあ、あたしが道案内するよ」と森へと進んでいく。
アイナとセリナもそれに続く。

私はその4人を見て、もし実際に決裂してしまったら、と考える。

もし機械装甲兵たちの村に着いて、やっぱりアイナが『殲滅する』とか言ったら、セリナは最初は止めても最終的にはアイナのほうにつくに違いない。そして私はもちろんローザとライラのほうにつく。もしそうなったとしたら最後の最後に私は、アイナとセリナを殺してしまうのだろうか?

あの赤・青・緑の大きな機械人間を壊したように、アイナとセリナもそうしてしまう?
どう見ても普通の女の子にしか見えなくて、柔らかくて体温もある姉妹のような二人を?

凶暴な吸血鬼ヴァンパイアとして?


******


「そもそも機械装甲兵には善性などないのだ…。奴らは予めプログラムされた通りの言葉しか発声できないのだからな。そんな高度な概念が宿るはずはない」

森の中を歩きながらアイナがそんなことを言った。
セリナはそれに「まあ…それも行ってみりゃわかるだろ」と答えた。

「それよりもアタシは、最近の司令部のほうが信じられないよ。さっきの大型機械装甲兵だって1体って言ってたのに3体も出てきて、挙げ句に突然のミッション変更だろ?しかも今までまっっったく聞いたこともない『機械装甲兵の村』だなんて…怪しすぎるんだよな…」

セリナはそう言って「くそっ!わけわかんないことが多すぎるぜ!」と頭を振った。

確かに。
わけわかんないことが多すぎる。

怪しいという司令部。
ライラによると『悪い人たちには見えない』という機械装甲兵の村。
それに私からは人間の女の子のように、少なくとも血が通っているように見えるのに『アンドロイド』だというアイナとセリナ。
なぜか距離の近いローザとライラ。

わけのわからなさに背中を押されるようにして鬱蒼とした森を歩いて何時間が経っただろうか。
大木の幹の向こうから、ずんぐりむっくりとした人間の形をした機械があらわれた。

アイナが身構えるのをセリナが手で制する。
二人の前にライラが立ち、「あなたは?」と聞く。
機械が答える。

「私ノ製造番号はP-260。名前は、パオラン、デス。私タチの村は、コノ先デス…」

アイナとセリナは声を揃えて「名前!?」と言う。

「デスが…ドウカ、お許しヲ…ココには小さな子供たちモ、イルノデス…」
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