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第2章

3 the history

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『作戦行動に同行しろ』という言葉の意味がわからず「は?」となっている私たちを気にする素振りも見せずに真っ白な少女エーセブンは「フライヤーモード、起動」などと呟くと左右両方の手のひらと靴の裏からバシュッ!と強烈な空気か何かを吹き出して一気に飛び去った。

「え!ちょっと!」

私は一瞬戸惑ったけど、すぐにフェンリルを呼び出して「ローザ!ライラ!乗って!」と言って二人はフェンリルに任せることにして、私自身は雷竜の翼をバサッと広げて勢いよく飛び立つ。

エーセブンもかなりのスピードだけど、全身に電流を纏って本気を出した私はグングンと追いついていく。低空飛行で風を切ってエーセブンに後ろから叫ぶ。

「ねえアンタ!一体どこに行くのよ!?」

エーセブンは振り返らずに言った。

「目的地点の座標はTCSK-4-3-3だ」
「意味わかんない!何なのよそれは!」
「わたしのパートナーS-7エスセブンとの合流予定ポイントだ」
「なんで私たちがそんなところに同行しなきゃならないわけ!?」

エーセブンは私の質問に答えずに速度を緩めて着陸する。
何かの建物?街の廃墟なのだろうか。
エーセブンが降りた場所は拓けているが、そのまわりは巨大な石造りの建物や金属の塊が見るからにボロボロの状態で散乱している。
猛スピードの私は少し行き過ぎてしまうがギュギュッと旋回して彼女の横に降りる。

「答えなさいよ!なんで私たちを連れて行くの!」

エーセブンは周囲を見渡しながら答える。

「戦力は多いに越したことはない」
「戦力!?どうして私たちが戦わなきゃいけないの!私たちはこの球体世界スフィアから出たいだけだって言ってるでしょ!?」
「ゲートは閉鎖中だと言ったはずだ」
「だからなんで閉鎖なんかしてるのよ!開けなさいよ!」

ローザとライラを乗せたフェンリルも到着する。
それを見てエーセブンが話し始めた。

「現在、この球体世界スフィアでは我々メルカ共和国のアンドロイドとシェナ連邦の機械装甲兵による戦争が行われている。宣戦布告からの経過時間は現時点で1519年102日11時間だ」


******


せ、せん…え?1500年以上も戦い続けてるの?
こう言っちゃ何だけどバカじゃないの?

私はそう思ってしまったけど、その経緯は何とも皮肉なものだった。

まず、このエントロクラッツという球体世界スフィアはひとつの大陸から成っていて、その西端にメルカ共和国、東端にシェナ連邦という2つの大きな国があった。
その大陸にはたくさんの人間が住んでいて、他にもいくつもの国があったそうだ。

それが1500年以上前、人間よりも賢い機械をメルカ共和国が生み出したことで変わっていったらしい。

AIと呼ばれる人工の知能を持つ機械はそれまで人間が担っていた様々な仕事を行うようになり、最初は職が奪われることに反対する人間も多かったようだけど、それはみんなに平等にお金を払うことで徐々に解決され、最終的には人間が労働から解放されるという形におさまった。

毎日ゴロゴロしているだけでおなかいっぱい食べられる幸福な世界。
うらやましい。

でもそれは長続きしなかった。

周辺諸国を取り込んで勢力を拡大するメルカ共和国に対抗する形で、シェナ連邦も同様の人工知能の開発に成功。

ちょうどその頃エントロクラッツの大陸中央部に存在した小さな独裁政権国家が政権崩壊。
発展途上国の貧困問題の解消を大義名分に、メルカ共和国とシェナ連邦の間で領有権争いが勃発。

最初は小競り合い程度だった戦線にメルカ共和国は戦闘型アンドロイドを、シェナ連邦は機械装甲兵を送り込み、あれよあれよという間に東西を対立軸としたこの球体世界スフィア全土を巻き込む世界大戦へと発展。

戦時下の管理体制強化のためにメルカ共和国は『グレートマザー』と名付けられたマザーAIを、シェナ連邦は『梵天』と呼ばれるマザーAIを擁立し、その管理のもとテロリズムの防止を名目に人々の自由な往来は禁止され、他の球体世界スフィアへ移動するためのゲートも閉鎖される。

それから100年ほど戦況は均衡を保つ。

戦況に変化が生まれたのは世界大戦勃発から128年後。
シェナ連邦の首都を震源地とする巨大地震が発生。
それをきっかけに民衆の反政府活動が激化し、シェナ連邦のマザーAI『梵天』はウイルス兵器『狂死病』の散布を選択。
戦争に勝つためには自国民もろとも人類がいないほうが好都合と判断したようだ。
実際にそれからたった2年で人類の83%が死亡した。

その影響でメルカ共和国もシェナ連邦も事実上瓦解するが双方のマザーAIはそれでも戦争継続を選択。

わずかに生き残っていた科学者たちはマザーAIの機能に制限をかけるか存在そのものを消去すべく行動したが、ことごとく失敗。
人々は他の球体世界スフィアへの脱出を試みるもマザーAIはゲートを開放せず。

エントロクラッツに存在した人類の人格データは一通り収集済みのため、もし必要となれば復元することもできるし、ゲートを開放することで発生する不確定要素の排除を優先したということらしい。

そして病魔と戦火で人類が滅亡することも意に介さず、アンドロイドと機械装甲兵はいつ終わるとも知れない戦いを今も続けている。

要するにこのエントロクラッツの人間たちは、自分たちの代わりに働いてくれる機械たちを生み出したことで、その機械たちに滅ぼされてしまったということのようだった。

…というこの一連の話は、淡々と語るエーセブンの話をまったく理解できない私に、ローザとライラが何度も何度も子供に言い聞かせるようにして噛み砕いてくれたおかげでようやく飲み込むことができたもので、なんだかもう頭の奥がズキズキ痛い。

昔から苦手なのよね…!
なんかこういう、歴史の話とか政治の話とか…!

私は無理やり理解したせいで今にも煙が出て火を吹きそうな頭を抱えている。

「…それにしても、ひどい話ですわね」

私の横で腕を組んでそう言ったローザに、エーセブンは答えた。

「人間からすればそうだろうな。しかし我々アンドロイドや向こうの機械装甲兵は、最優先事項である戦争勝利のために最善手を打ち続けるだけだ。最優先事項を人類繁栄に設定しなかった当時の人間どもが愚かだっただけだ」

エーセブンはメルカ共和国軍によって3年前に戦線投入されたばかりの最新鋭の戦闘型アンドロイド、通称『スクアッド・ゼロ』という特殊部隊の戦闘員なのだそうだ。

…だから、人間の匂いがしないわけね。見た目は女の子にしか見えないのに。

「…とにかく、その戦争が終わらない限り、他の球体世界スフィアに行くためのゲートは開かれないってことだよね」

ライラがため息まじりにそう言うと、エーセブンは無表情に「そうだ」とだけ呟いた。

「そんなの無理に決まってるじゃない!1500年以上も続いてる戦いが今日明日で終わるわけないでしょ!」

そう叫ぶ私を見てエーセブンは「そうでもないぞ」と言う。

「戦争はいよいよ最終局面を迎えている。我々スクアッド・ゼロはメルカ共和国の最終決戦兵器だ。そして、シェナ連邦も同様に最終決戦兵器の実戦投入を開始したらしい。その調査がこの作戦行動なのだ」

私は首をかしげる。

「シェナ連邦の最終決戦兵器?」

エーセブンは頷く。

「ああ。最新鋭の大型機械装甲兵だ。その1体がこの最前線区域に投入されたとの情報だ」

その言葉と同時に地面が激しく震動し、周囲の瓦礫をかき分けて地中から巨大な金属の塊があらわれた。次々と。

3体も。
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