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第1章
42 事情を知るためとはいえ
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アルミラの血を通して、力や記憶や思考が私の中に入ってくる。
身悶えるほどの快感とともに。
身体を小刻みに震わせながら私はアルミラに覆いかぶさるように抱きしめ、アルミラも下からそれに応じる。
ぞくぞくぞく…っと背中に痺れが走り、おなかからムワァアッと厭らしい感情が湧き上がってきて堪らなくなって、私はアルミラの髪の毛をぐしゃぐしゃっとかきむしるように撫でつけながら血を吸う。
ごめんね…アルミラ。乱暴に噛み付いちゃって…。痛かったよね?
――大丈夫だ…。それよりもっと、もっと強く吸ってくれ…。
ダメだよ…アルミラの血がなくなっちゃう…。
――まだ平気だ。それより、ああ…そう、アタシの心を、もっと、もっとよく見てくれ。
ううん、もういいの。もう、充分。
ごめんねアルミラ…、私が早とちりしてたみたい…。
――いいんだ…。今はもう、そんなことより、またお前とひとつになれて嬉しい…。
私とアルミラはまるで一体の生物になったみたいにお互いにぎゅううっと抱き締めあって、快感に身を震わせていた。
本当は、こんなに長く血を吸い続ける必要なんてなかった。
ほんの少し最初に吸っただけで、私は私の思い違いを理解した。
アルミラは、その言葉通り、私を独り占めするためにローザを陥れたりしていなかった。
もちろん、独り占めしたい気持ちはものすごく強かったみたいで、アルミラの血が私の喉を通るたびに『ずっと一緒にいたい』『こうやってくっついたまま死にたい』『このまま潰れてもいいからもっと強く抱き締めてくれ』なんていう心の声が聞こえてきた。
それはともかく、アルミラはカミーユにローザを攫うように指示したりはしていなかったのだった。
最初にこの薔薇の不死城を訪れた時にアルミラがカミーユに話していたことは、ライラがいなくなったということと、ヘンリクさんの魔具屋にローザがいるから何か間違って下級の吸血鬼たちが襲ったりしないよう気をつけてくれということの2つだけだった。
ただ、その情報を悪用して、カミーユがローザの血を吸おうと攫った可能性は否定できないようだった。
アルミラの記憶によると、どうやらカミーユは闇騎士の中での序列を上げたいという野心が強いらしく、強力なパワーを得られる聖女の血を求めてしまったことは考えられるそうだ。
そんな相手にローザの居場所を教えちゃダメじゃないか。
それはアルミラも自身の落ち度として認めている。
それでもアルミラがカミーユを信頼してローザの居場所を話した理由こそが、アルミラが私に『カミーユを殺そうとすればハルバラムと敵対することになる』という唯一の嘘をついた理由でもあった。
カミーユはアルミラの恩人だった。
アルミラが吸血鬼になったのは故郷から遠く離れた場所で、故郷の土を手に入れて眠れるようになるまでなんと2年もかかってしまったのだ。
それもそのはず、アルミラが吸血鬼になったのは私たちの球体世界であるユークレアだったが、アルミラの故郷はチキュウという球体世界のアメリカ合衆国という国だったそうだ。ちょうどその国が生まれた前後に、アルミラも生まれたらしい。普通の少女だったアルミラがどうやってユークレアにやってきたのかは本人もいまだによくわかっていない。
2年間もの不眠で発狂しそうになるほどの苦しみの中、故郷へ向かうアルミラを手助けしてくれたのがカミーユだったそうだ。
カミーユの固有能力である『その場限りの夜』によって。
その能力は日光や聖術といった吸血鬼の弱点を完全に無効化する能力らしい。それをかけてもらうことで、過酷な旅を踏破することができたということのようだ。
そういう恩人だから、アルミラはカミーユが私に殺されるのを止めたかった。
だったらそう言ってくれればよかったのに。と思ったが、それを言えなかった理由もすぐにわかった。
吸血鬼の血の掟だ。
ハルバラムから、アルミラとカミーユの関係性は誰にも言うな、と言われたそうだ。
どうもハルバラムは、闇騎士の内部事情を外部に明かされることを嫌う傾向にあるらしい。
アルミラは、親吸血鬼であるハルバラムの指示に逆らうと灰になって消滅してしまう。
それで私に『カミーユは恩人だから殺すな』と言うことができなかったようだ。
でも正直、ハルバラムも脇が甘い。
本当に情報を遮断したかったら『誰にも言うな』ではなく『誰にも伝えるな』と指示をしなくては、こうして吸血による情報共有の他にも手紙などいくらでも手段ができてしまうじゃないか。
まあとにかく、アルミラが私を独り占めしようとしてカミーユにローザを攫わせたという疑いは、完全に私の思い違いだった。
濡れ衣を着せてごめんね、アルミラ…。
でも、失敗には失敗がよく重なる。本当は疑いが晴れた時点ですぐに吸血なんてやめればよかったのだ。
それでも私とアルミラは『ごめんね…』『わかってくれたならいいんだ』『もう疑わないよ』『ありがとうリリアス、心から愛している』『私も…好き、大好きよアルミラ』などと心の声で言い合いながら、ずいぶん長いこと抱き合ってチュウチュウと血を吸っていた。
傍らで見守るマリーゴールドの「いやぁん、まあ…すっごいわねぇ」などという嬉しそうな声を薄っすら聴きながら。
ハルバラムがいる謁見の間の扉の前で。
その扉が開いた時、私とアルミラはまさに絶頂の最中で、抱き合ったまま倒れ込んでお互いに嬌声を上げながら身体を震わせていたところだった。
出てきたのがハルバラムだったら、まだよかった。
「な、何をしていますの…?」
聞き覚えのある声に私とアルミラが二人同時にバッと振り向くと、そこにはローザが立ち尽くしていた。
身悶えるほどの快感とともに。
身体を小刻みに震わせながら私はアルミラに覆いかぶさるように抱きしめ、アルミラも下からそれに応じる。
ぞくぞくぞく…っと背中に痺れが走り、おなかからムワァアッと厭らしい感情が湧き上がってきて堪らなくなって、私はアルミラの髪の毛をぐしゃぐしゃっとかきむしるように撫でつけながら血を吸う。
ごめんね…アルミラ。乱暴に噛み付いちゃって…。痛かったよね?
――大丈夫だ…。それよりもっと、もっと強く吸ってくれ…。
ダメだよ…アルミラの血がなくなっちゃう…。
――まだ平気だ。それより、ああ…そう、アタシの心を、もっと、もっとよく見てくれ。
ううん、もういいの。もう、充分。
ごめんねアルミラ…、私が早とちりしてたみたい…。
――いいんだ…。今はもう、そんなことより、またお前とひとつになれて嬉しい…。
私とアルミラはまるで一体の生物になったみたいにお互いにぎゅううっと抱き締めあって、快感に身を震わせていた。
本当は、こんなに長く血を吸い続ける必要なんてなかった。
ほんの少し最初に吸っただけで、私は私の思い違いを理解した。
アルミラは、その言葉通り、私を独り占めするためにローザを陥れたりしていなかった。
もちろん、独り占めしたい気持ちはものすごく強かったみたいで、アルミラの血が私の喉を通るたびに『ずっと一緒にいたい』『こうやってくっついたまま死にたい』『このまま潰れてもいいからもっと強く抱き締めてくれ』なんていう心の声が聞こえてきた。
それはともかく、アルミラはカミーユにローザを攫うように指示したりはしていなかったのだった。
最初にこの薔薇の不死城を訪れた時にアルミラがカミーユに話していたことは、ライラがいなくなったということと、ヘンリクさんの魔具屋にローザがいるから何か間違って下級の吸血鬼たちが襲ったりしないよう気をつけてくれということの2つだけだった。
ただ、その情報を悪用して、カミーユがローザの血を吸おうと攫った可能性は否定できないようだった。
アルミラの記憶によると、どうやらカミーユは闇騎士の中での序列を上げたいという野心が強いらしく、強力なパワーを得られる聖女の血を求めてしまったことは考えられるそうだ。
そんな相手にローザの居場所を教えちゃダメじゃないか。
それはアルミラも自身の落ち度として認めている。
それでもアルミラがカミーユを信頼してローザの居場所を話した理由こそが、アルミラが私に『カミーユを殺そうとすればハルバラムと敵対することになる』という唯一の嘘をついた理由でもあった。
カミーユはアルミラの恩人だった。
アルミラが吸血鬼になったのは故郷から遠く離れた場所で、故郷の土を手に入れて眠れるようになるまでなんと2年もかかってしまったのだ。
それもそのはず、アルミラが吸血鬼になったのは私たちの球体世界であるユークレアだったが、アルミラの故郷はチキュウという球体世界のアメリカ合衆国という国だったそうだ。ちょうどその国が生まれた前後に、アルミラも生まれたらしい。普通の少女だったアルミラがどうやってユークレアにやってきたのかは本人もいまだによくわかっていない。
2年間もの不眠で発狂しそうになるほどの苦しみの中、故郷へ向かうアルミラを手助けしてくれたのがカミーユだったそうだ。
カミーユの固有能力である『その場限りの夜』によって。
その能力は日光や聖術といった吸血鬼の弱点を完全に無効化する能力らしい。それをかけてもらうことで、過酷な旅を踏破することができたということのようだ。
そういう恩人だから、アルミラはカミーユが私に殺されるのを止めたかった。
だったらそう言ってくれればよかったのに。と思ったが、それを言えなかった理由もすぐにわかった。
吸血鬼の血の掟だ。
ハルバラムから、アルミラとカミーユの関係性は誰にも言うな、と言われたそうだ。
どうもハルバラムは、闇騎士の内部事情を外部に明かされることを嫌う傾向にあるらしい。
アルミラは、親吸血鬼であるハルバラムの指示に逆らうと灰になって消滅してしまう。
それで私に『カミーユは恩人だから殺すな』と言うことができなかったようだ。
でも正直、ハルバラムも脇が甘い。
本当に情報を遮断したかったら『誰にも言うな』ではなく『誰にも伝えるな』と指示をしなくては、こうして吸血による情報共有の他にも手紙などいくらでも手段ができてしまうじゃないか。
まあとにかく、アルミラが私を独り占めしようとしてカミーユにローザを攫わせたという疑いは、完全に私の思い違いだった。
濡れ衣を着せてごめんね、アルミラ…。
でも、失敗には失敗がよく重なる。本当は疑いが晴れた時点ですぐに吸血なんてやめればよかったのだ。
それでも私とアルミラは『ごめんね…』『わかってくれたならいいんだ』『もう疑わないよ』『ありがとうリリアス、心から愛している』『私も…好き、大好きよアルミラ』などと心の声で言い合いながら、ずいぶん長いこと抱き合ってチュウチュウと血を吸っていた。
傍らで見守るマリーゴールドの「いやぁん、まあ…すっごいわねぇ」などという嬉しそうな声を薄っすら聴きながら。
ハルバラムがいる謁見の間の扉の前で。
その扉が開いた時、私とアルミラはまさに絶頂の最中で、抱き合ったまま倒れ込んでお互いに嬌声を上げながら身体を震わせていたところだった。
出てきたのがハルバラムだったら、まだよかった。
「な、何をしていますの…?」
聞き覚えのある声に私とアルミラが二人同時にバッと振り向くと、そこにはローザが立ち尽くしていた。
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