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プロローグ

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 まずは自己紹介をしよう。私の名前はユウ。かつて勇者をしていた。
 私の住む世界は魔王が討伐された後、ユートピアと呼ばれるようになった。人々の関心は平和と繁栄に向かい、それらの願いを叶える為に何処からか"賢者たち"と呼ばれる組織なのか個人なのかも分からない者が現れ、"一〇〇人委員会"を組織し旧トュルクメニア王国を拠点に誰も死なない世界征服を開始した。彼らは博愛と平等の名の下に、今まで人類が戦って来た飢餓、疾病、そして戦争の根絶を目標とし、何処で手に入れたのかも不明な謎の技術や魔術で一〇年かけてそれら全てをほぼ完全に克服してしまった。
 しかし"賢者たち"と委員会、所謂は驚くことに犯罪者に対しては自由を与え賢者たちと委員会は法の一切を適用しない治安維持システムを生み出した。それは犯罪者は野放しになる一方で完全な社会からの追放を意味した。財産権は無いため身包みは剥がされ、例え殺されそうになっても誰も助けることはない。社会から孤立した犯罪者たちは周りの襲撃に怯えて大人しく暮らすか或いは政府の広大な直轄区から出て行くしかなくなった。政府は強固な監視社会を作ることで治安さえもコントロール下に置いたのだった。
 この様にして安定した平和と繁栄を築いた"賢者たち"は政府への指示を盤石なものとして更なる拡大を続けている。
"賢者たち"が現れる前、私にはお姉ちゃんがいた。とはいっても実の姉ではない。勇者一族の村が魔王軍に焼かれて王都に逃げてきた所謂戦災孤児だったストリートチルドレンの私を拾って育ててくれた人だ。
 お姉ちゃんは武器職人として王国の首都トュルクメニアの商業区の外れで鍛冶屋をしていた。決して職人としての腕は素人目から見ても大したことはなかったけれど、当時はまだ魔王軍と連合軍が戦いを続けていたこともあり、王国軍が国中の武器を集めていた。その為、お姉ちゃんの店は勇者の一族の子供一人を育てるのには困らない程度は余裕があった。けれど終戦後、お姉ちゃんはある日出かけたきり突然帰ってこなかった。
 何があったかは分からない。都中、四方探したけど見つからなかった。政府にもお姉ちゃんの行方は掴めなかったようで、戦後の混乱の中で死亡したと断定された。遺されたのは小さな店と僅かなお金だけだった。天涯孤独だったお姉ちゃんの店を引き取る人はおらず、私が店を継ぐことになった。
 けれど当然、鍛冶の知識や技術なんて無い。だから私はお姉ちゃんがいつか帰ってくる時まで雑貨屋をすることにした。
 お姉ちゃんを待つ内に一年が経ち二年が経ち、やがて五年六年と月日が過ぎる毎に寂しさと痛みを忘れるように記憶が霞がかって、お姉ちゃんと同じ歳になる頃にはもう顔も声もはっきりと思い出せなくなってしまった。
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