1 / 2
プロローグ
しおりを挟む
まずは自己紹介をしよう。私の名前はユウ。かつて勇者をしていた。
私の住む世界は魔王が討伐された後、ユートピアと呼ばれるようになった。人々の関心は平和と繁栄に向かい、それらの願いを叶える為に何処からか"賢者たち"と呼ばれる組織なのか個人なのかも分からない者が現れ、"一〇〇人委員会"を組織し旧トュルクメニア王国を拠点に誰も死なない世界征服を開始した。彼らは博愛と平等の名の下に、今まで人類が戦って来た飢餓、疾病、そして戦争の根絶を目標とし、何処で手に入れたのかも不明な謎の技術や魔術で一〇年かけてそれら全てをほぼ完全に克服してしまった。
しかし"賢者たち"と委員会、所謂政府は驚くことに犯罪者に対しては自由を与え賢者たちと委員会は法の一切を適用しない治安維持システムを生み出した。それは犯罪者は野放しになる一方で完全な社会からの追放を意味した。財産権は無いため身包みは剥がされ、例え殺されそうになっても誰も助けることはない。社会から孤立した犯罪者たちは周りの襲撃に怯えて大人しく暮らすか或いは政府の広大な直轄区から出て行くしかなくなった。政府は強固な監視社会を作ることで治安さえもコントロール下に置いたのだった。
この様にして安定した平和と繁栄を築いた"賢者たち"は政府への指示を盤石なものとして更なる拡大を続けている。
"賢者たち"が現れる前、私にはお姉ちゃんがいた。とはいっても実の姉ではない。勇者一族の村が魔王軍に焼かれて王都に逃げてきた所謂戦災孤児だったストリートチルドレンの私を拾って育ててくれた人だ。
お姉ちゃんは武器職人として王国の首都トュルクメニアの商業区の外れで鍛冶屋をしていた。決して職人としての腕は素人目から見ても大したことはなかったけれど、当時はまだ魔王軍と連合軍が戦いを続けていたこともあり、王国軍が国中の武器を集めていた。その為、お姉ちゃんの店は勇者の一族の子供一人を育てるのには困らない程度は余裕があった。けれど終戦後、お姉ちゃんはある日出かけたきり突然帰ってこなかった。
何があったかは分からない。都中、四方探したけど見つからなかった。政府にもお姉ちゃんの行方は掴めなかったようで、戦後の混乱の中で死亡したと断定された。遺されたのは小さな店と僅かなお金だけだった。天涯孤独だったお姉ちゃんの店を引き取る人はおらず、私が店を継ぐことになった。
けれど当然、鍛冶の知識や技術なんて無い。だから私はお姉ちゃんがいつか帰ってくる時まで雑貨屋をすることにした。
お姉ちゃんを待つ内に一年が経ち二年が経ち、やがて五年六年と月日が過ぎる毎に寂しさと痛みを忘れるように記憶が霞がかって、お姉ちゃんと同じ歳になる頃にはもう顔も声もはっきりと思い出せなくなってしまった。
私の住む世界は魔王が討伐された後、ユートピアと呼ばれるようになった。人々の関心は平和と繁栄に向かい、それらの願いを叶える為に何処からか"賢者たち"と呼ばれる組織なのか個人なのかも分からない者が現れ、"一〇〇人委員会"を組織し旧トュルクメニア王国を拠点に誰も死なない世界征服を開始した。彼らは博愛と平等の名の下に、今まで人類が戦って来た飢餓、疾病、そして戦争の根絶を目標とし、何処で手に入れたのかも不明な謎の技術や魔術で一〇年かけてそれら全てをほぼ完全に克服してしまった。
しかし"賢者たち"と委員会、所謂政府は驚くことに犯罪者に対しては自由を与え賢者たちと委員会は法の一切を適用しない治安維持システムを生み出した。それは犯罪者は野放しになる一方で完全な社会からの追放を意味した。財産権は無いため身包みは剥がされ、例え殺されそうになっても誰も助けることはない。社会から孤立した犯罪者たちは周りの襲撃に怯えて大人しく暮らすか或いは政府の広大な直轄区から出て行くしかなくなった。政府は強固な監視社会を作ることで治安さえもコントロール下に置いたのだった。
この様にして安定した平和と繁栄を築いた"賢者たち"は政府への指示を盤石なものとして更なる拡大を続けている。
"賢者たち"が現れる前、私にはお姉ちゃんがいた。とはいっても実の姉ではない。勇者一族の村が魔王軍に焼かれて王都に逃げてきた所謂戦災孤児だったストリートチルドレンの私を拾って育ててくれた人だ。
お姉ちゃんは武器職人として王国の首都トュルクメニアの商業区の外れで鍛冶屋をしていた。決して職人としての腕は素人目から見ても大したことはなかったけれど、当時はまだ魔王軍と連合軍が戦いを続けていたこともあり、王国軍が国中の武器を集めていた。その為、お姉ちゃんの店は勇者の一族の子供一人を育てるのには困らない程度は余裕があった。けれど終戦後、お姉ちゃんはある日出かけたきり突然帰ってこなかった。
何があったかは分からない。都中、四方探したけど見つからなかった。政府にもお姉ちゃんの行方は掴めなかったようで、戦後の混乱の中で死亡したと断定された。遺されたのは小さな店と僅かなお金だけだった。天涯孤独だったお姉ちゃんの店を引き取る人はおらず、私が店を継ぐことになった。
けれど当然、鍛冶の知識や技術なんて無い。だから私はお姉ちゃんがいつか帰ってくる時まで雑貨屋をすることにした。
お姉ちゃんを待つ内に一年が経ち二年が経ち、やがて五年六年と月日が過ぎる毎に寂しさと痛みを忘れるように記憶が霞がかって、お姉ちゃんと同じ歳になる頃にはもう顔も声もはっきりと思い出せなくなってしまった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?
そんなに幼馴染の事が好きなら、婚約者なんていなくてもいいのですね?
新野乃花(大舟)
恋愛
レベック第一王子と婚約関係にあった、貴族令嬢シノン。その関係を手配したのはレベックの父であるユーゲント国王であり、二人の関係を心から嬉しく思っていた。しかしある日、レベックは幼馴染であるユミリアに浮気をし、シノンの事を婚約破棄の上で追放してしまう。事後報告する形であれば国王も怒りはしないだろうと甘く考えていたレベックであったものの、婚約破棄の事を知った国王は激しく憤りを見せ始め…。
異世界でゆるゆる生活を満喫す
葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。
もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。
家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。
ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。
婚約破棄された令嬢は、嫌われ後妻を満喫する
ユユ
恋愛
王子に婚約を破棄され
田舎子爵家の後妻となるよう
命じられた。
冷たい夫に生意気な子供達。
ド田舎での孤独な生活のはずが……。
* 作り話です
* そんなに長くしないつもりです
会えないままな軍神夫からの約束された溺愛
待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー
数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった!
それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。
夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?!
努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。
※完結まで毎日投稿です。
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
婚約破棄計画書を見つけた悪役令嬢は
編端みどり
恋愛
婚約者の字で書かれた婚約破棄計画書を見て、王妃に馬鹿にされて、自分の置かれた状況がいかに異常だったかようやく気がついた侯爵令嬢のミランダ。
婚約破棄しても自分を支えてくれると壮大な勘違いをする王太子も、結婚前から側妃を勧める王妃も、知らん顔の王もいらんとミランダを蔑ろにした侯爵家の人々は怒った。領民も使用人も怒った。そりゃあもう、とてつもなく怒った。
計画通り婚約破棄を言い渡したら、なぜか侯爵家の人々が消えた。計画とは少し違うが、狭いが豊かな領地を自分のものにできたし美しい婚約者も手に入れたし計画通りだと笑う王太子の元に、次々と計画外の出来事が襲いかかる。
※説明を加えるため、長くなる可能性があり長編にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる