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火炙りになった元聖女

私の力はやっぱり私のものです

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 リチャードの家で暮らし始めて数週間、私は段々と加護を取り戻していった。
 始めは花の回復から。
 ちぎった花弁をくっつけたり、枯れかけた花を満開の状態に戻したり、加護の制御がうまくできなかった時の練習をひたすら繰り返す。

 強すぎる治癒は対象を余計に傷付けてしまうし、弱すぎると全く治らないから加減が肝心だ。
 聖女だったころは無意識にやっていたことも、しばらくやらないだけで大分できなくなる。
「習得する3倍の速さで忘れるってほんとなのね」

 ただ、最近は何とか勘も戻ってきて、今は食肉などに付けた傷を治す練習をしている。
 植物と動物ではまた勝手が違って難しい。
 私が今日の昼食の材料兼練習台である鶏肉と格闘していると、ドアを叩く音が聞こえた。

「はーい!」
 誰だろう?
 今日は来客の予定なんてなかったはずなのに?
「お久しぶりです、フローレンス様!」
 ドアを開けるとそこには従者だったアンリがいた。

「え、嘘! アンリ? どうしてここに!」
「仕事でこの近くまで来たので、つい寄っちゃいました」
 アンリはテヘっと舌を出して笑ってみせた。

「けど私どこに行くとか言ってないわよね?」
 加護調べの後、有無を言わさず王宮から放り出されたので、アンリと話す時間なんてなかったか。
 どこに行ったとかは知らないはずだ。

「最後の夜、リチャードの手紙を受け取った時点でここに来るって予想はしてましたよ。それに、ここにいなくても彼なら何か知ってると思っていたので」
 アンリはいぇーい!とブイサインをしてみせた。
「大当たりだったってわけね」
 やっぱアンリにはかなわないな……。

「上がっていくでしょ? アンリはお茶とコーヒーどっちがいい?」
「あ、すみません。今日中に上げたい仕事があるので、今日はこれで失礼させてもらいます」
 アンリは残念そうにうつむいた。

「そっか……。ならまた都合のいい時に来て! 加護がまた使えるようになったから、アンリにも見せたいし!」
「え? 加護は失ったんじゃないんですか?」
 心底驚いた様子でアンリは私に詰め寄ってきた。
 まあそれもそうか、私もついこの間まで加護を取り戻せるなんて知らなかったし。

「う、うん……」
「試しに私のあかぎれを治してくれませんか?」
 アンリの手を見せてもらったが、ささくれやあかぎれで酷い様子だった。
 私が追放された後、アンリもいろいろと苦労しているのね。

「やってみるわね!」
 さっき格闘していた鶏肉と同じようにそっとアンリの手を包んで祈ると、みるみる治っていった。
 やった!
 生身の人間でも治る!
 やっぱり加護が戻ってきたんだ!

「はい終了!」
「え? もうですか? すごい!」
 アンリが驚いたように私の治癒スピードは力を失う前より早くなっていた。
 これも、毎日地道に練習しているおかげだろうか?

 アンリは綺麗きれいになった手を宝石でもながめるかのようにうっとりと見ていた。
「ありがとうございますフローレンス様! また時間あるときに絶対来ますから」
「うん、ありがとう! 絶対来て!」
「あ、そうそう。私が今日ここに来たことは、リチャードに内緒にしておいてください」
 最後アンリは私の耳元でそっとそうささやくと、忙しそうに帰っていった。
「内緒に、か」
 なんでだろう?
 まあアンリにも都合があるんだろうし、別にわざわざリチャードに言わなくてもいいか。
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