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第60話「陽菜の詰問」
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「おかえり」
スーツケースを玄関まで運び入れると、計ったかのように陽菜が降りてきた。
「ただいま。茜は?」
「寝ちゃった」
「そっか、まあお姉さんに会うっていうので緊張してたかな」
失礼な言い方だけど、母さんに会わせるのですら緊張してたわけだし、あのお姉さんと会うって考えたら緊張もするよな。
「それもあるかもしれないけどさ、ちょっといい?」
いつになく真剣な表情の陽菜はリビングを指差しながらそう言ってきた。
「いいよ」
断ることが出来なそうな雰囲気の中、ソファーに腰かけると陽菜はゆっくりと口を開いた。
「あのさ、いつまで茜ちゃんのこと猫として扱うわけ?」
「いつまでって、決めてないけど……」
「なんで今日茜ちゃんが泣いたかわかってる?」
「……わかってないけど」
「なら散々他人に思わせぶりなこと言ったりやったりしてるくせに本人には好きも何も言ってないの自覚ある?」
矢継ぎ早に飛んでくる陽菜の尋問のようなこの状況にたじろいでいると、どんどんと機嫌が悪くなっていくのがわかった。
色々わかってたり、決まってたらそれに向かって動いてるって……。
こっちだっていまいちどうするのが正解かわかってないんだよ。
そう言いたいのをぐっと堪え、なるべく平静を装って尋ねた。
「どうしたんだよ急に」
「あのさお兄ちゃんは振った側の気持ちとか考えたほうがいいと思うよ」
「振った側の気持ちってなんだよ」
「まだわからないの?」
心底呆れたような顔をすると、大きなため息をつきながら言った。
「不安になって。自暴自棄になって。けどそれでも嫌いになれなくて。やっと会えてお互いの気持ちまでわかってるのに自分から絶対進展させられない気持ちがわかる?って聞いてるの」
「さっさと告れってこと?」
「そうだよ。それともまた茜ちゃんに振られたい?」
「いやそれは嫌だけど……」
三か月前に振られたときはこの世の終わりかと思ったし、あの時よりも濃い関係になった分、もう茜とは離れたくない。
「なら旅行の時なにしたらいいかわかるよね?」
「……わかったよ」
諦めたようにそう言ったのがお気に召したらしい。
いつものトーンに戻ると、夕飯のおかずでもリクエストするように言ってきた。
決して怒っているわけではないが限りなく命令に近い提案の声だ。
「茜ちゃんの寝顔見てくれば? かわいいよ」
「そうする」
まあかわいいのは事実だし、何回見ても飽きるものではないからな。
ドアから入る明かりだけを頼りに茜の顔を覗くと、目の周りは赤いが安心したような顔で寝息を立てていた。
陽菜に話でも聞いてもらえたのかな。
何度か頭を撫でてもピクリともしないくらい熟睡しているようにみえる。
「気が付かなくてごめん、大好きだよ茜」
◇
「ねえ達也起きて!」
「まだ八時じゃん、もうちょっと寝かせて」
スマホを立ち上げるが、アラームとしてセットした時間まであと二時間ほどある。
あの後、夕飯作って洗濯して自分の荷物とか用意してたら結局寝たの二時だったしな。
全然昨日の疲れが取れてる気がしない。
お姉さんは片付いたけど今度は茜に告らないといけないしな。
猫として扱ってきたせいか、面と向かって好きというのは新鮮で、なかなかいい言い方が思いつかない。
「旅行の準備しようよ」
「俺のはもう出来てる」
「早くない?」
「昨日茜が寝てるうちに全部やっちゃった。二人で一緒にやるとバタバタしそうだし」
二度寝しようと思ったけど、話してるとどんどん頭さえてくるな。
どうしても眠くなったら昼寝でもすればいいか?
「あーまあそうだね」
「顔洗ってくる」
「私も行く」
若干不満そうな茜を他所に洗面所まで向かおうとするが、なぜか付き合いたての頃みたいにべたべたとくっついてくる。
くそっ、こっちは旅行で告白するって決めてからずっと緊張しっぱなしで、頭の中に心音が鳴り響いてるのに。
こんな状態でいつも通り保たなきゃいけないとか拷問だろ。
かといってさっさと告白して終わりみたいな味気ないことしたくないしな。
「あのさ、機嫌いいみたいだけどなにかいいことあった?」
「え、なにもないよ。ただスーツケースも借りれたしこれから旅行いけるって思ったら嬉しくって」
「そういうことね」
もう茜と旅行なんていけると思ってなかったし、三か月ぶりに完全に二人きりになれると思えば確かにうれしいよな。
修学旅行によくあるテンプレイベントさえ控えて無ければ……。
告白について考えなくてよければ同じテンションで楽しめるんだけどな。
じっと鏡の中の自分を見つめながら物思いにふけっていると、茜も同じように俺の顔を見ていた。
「なんかついてる?」
「へっ! ついてないよ、なんで」
素っ頓狂な声を出した茜は顔を真っ赤にしながらそう言った。
「いや、なんでもないけど。昨日茜の顔見に行ったとき起きてた?」
まさかとは思うけど、好きって言ったのを聞いてたからテンション高いわけじゃないよね?
そんな疑念を払しょくするためどうせ寝てただろうとの思い出聞いたが、そのまさかだったらしい。
「ずっと寝てたよ……、ずっと……。あ、私も荷物詰めちゃうね」
それだけ言い残すと、ロボットのように不自然にカクカクと動きながら逃げるように二階に消えてしまった。
「あー寝てたと思ってたんだけどな……。これで逃げられなくなったな」
スーツケースを玄関まで運び入れると、計ったかのように陽菜が降りてきた。
「ただいま。茜は?」
「寝ちゃった」
「そっか、まあお姉さんに会うっていうので緊張してたかな」
失礼な言い方だけど、母さんに会わせるのですら緊張してたわけだし、あのお姉さんと会うって考えたら緊張もするよな。
「それもあるかもしれないけどさ、ちょっといい?」
いつになく真剣な表情の陽菜はリビングを指差しながらそう言ってきた。
「いいよ」
断ることが出来なそうな雰囲気の中、ソファーに腰かけると陽菜はゆっくりと口を開いた。
「あのさ、いつまで茜ちゃんのこと猫として扱うわけ?」
「いつまでって、決めてないけど……」
「なんで今日茜ちゃんが泣いたかわかってる?」
「……わかってないけど」
「なら散々他人に思わせぶりなこと言ったりやったりしてるくせに本人には好きも何も言ってないの自覚ある?」
矢継ぎ早に飛んでくる陽菜の尋問のようなこの状況にたじろいでいると、どんどんと機嫌が悪くなっていくのがわかった。
色々わかってたり、決まってたらそれに向かって動いてるって……。
こっちだっていまいちどうするのが正解かわかってないんだよ。
そう言いたいのをぐっと堪え、なるべく平静を装って尋ねた。
「どうしたんだよ急に」
「あのさお兄ちゃんは振った側の気持ちとか考えたほうがいいと思うよ」
「振った側の気持ちってなんだよ」
「まだわからないの?」
心底呆れたような顔をすると、大きなため息をつきながら言った。
「不安になって。自暴自棄になって。けどそれでも嫌いになれなくて。やっと会えてお互いの気持ちまでわかってるのに自分から絶対進展させられない気持ちがわかる?って聞いてるの」
「さっさと告れってこと?」
「そうだよ。それともまた茜ちゃんに振られたい?」
「いやそれは嫌だけど……」
三か月前に振られたときはこの世の終わりかと思ったし、あの時よりも濃い関係になった分、もう茜とは離れたくない。
「なら旅行の時なにしたらいいかわかるよね?」
「……わかったよ」
諦めたようにそう言ったのがお気に召したらしい。
いつものトーンに戻ると、夕飯のおかずでもリクエストするように言ってきた。
決して怒っているわけではないが限りなく命令に近い提案の声だ。
「茜ちゃんの寝顔見てくれば? かわいいよ」
「そうする」
まあかわいいのは事実だし、何回見ても飽きるものではないからな。
ドアから入る明かりだけを頼りに茜の顔を覗くと、目の周りは赤いが安心したような顔で寝息を立てていた。
陽菜に話でも聞いてもらえたのかな。
何度か頭を撫でてもピクリともしないくらい熟睡しているようにみえる。
「気が付かなくてごめん、大好きだよ茜」
◇
「ねえ達也起きて!」
「まだ八時じゃん、もうちょっと寝かせて」
スマホを立ち上げるが、アラームとしてセットした時間まであと二時間ほどある。
あの後、夕飯作って洗濯して自分の荷物とか用意してたら結局寝たの二時だったしな。
全然昨日の疲れが取れてる気がしない。
お姉さんは片付いたけど今度は茜に告らないといけないしな。
猫として扱ってきたせいか、面と向かって好きというのは新鮮で、なかなかいい言い方が思いつかない。
「旅行の準備しようよ」
「俺のはもう出来てる」
「早くない?」
「昨日茜が寝てるうちに全部やっちゃった。二人で一緒にやるとバタバタしそうだし」
二度寝しようと思ったけど、話してるとどんどん頭さえてくるな。
どうしても眠くなったら昼寝でもすればいいか?
「あーまあそうだね」
「顔洗ってくる」
「私も行く」
若干不満そうな茜を他所に洗面所まで向かおうとするが、なぜか付き合いたての頃みたいにべたべたとくっついてくる。
くそっ、こっちは旅行で告白するって決めてからずっと緊張しっぱなしで、頭の中に心音が鳴り響いてるのに。
こんな状態でいつも通り保たなきゃいけないとか拷問だろ。
かといってさっさと告白して終わりみたいな味気ないことしたくないしな。
「あのさ、機嫌いいみたいだけどなにかいいことあった?」
「え、なにもないよ。ただスーツケースも借りれたしこれから旅行いけるって思ったら嬉しくって」
「そういうことね」
もう茜と旅行なんていけると思ってなかったし、三か月ぶりに完全に二人きりになれると思えば確かにうれしいよな。
修学旅行によくあるテンプレイベントさえ控えて無ければ……。
告白について考えなくてよければ同じテンションで楽しめるんだけどな。
じっと鏡の中の自分を見つめながら物思いにふけっていると、茜も同じように俺の顔を見ていた。
「なんかついてる?」
「へっ! ついてないよ、なんで」
素っ頓狂な声を出した茜は顔を真っ赤にしながらそう言った。
「いや、なんでもないけど。昨日茜の顔見に行ったとき起きてた?」
まさかとは思うけど、好きって言ったのを聞いてたからテンション高いわけじゃないよね?
そんな疑念を払しょくするためどうせ寝てただろうとの思い出聞いたが、そのまさかだったらしい。
「ずっと寝てたよ……、ずっと……。あ、私も荷物詰めちゃうね」
それだけ言い残すと、ロボットのように不自然にカクカクと動きながら逃げるように二階に消えてしまった。
「あー寝てたと思ってたんだけどな……。これで逃げられなくなったな」
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