41 / 62
第41話「茜のお願い」
しおりを挟む
「ねえ本当に平気?」
「大丈夫だよ、会う時までにはいつも通りに戻す」
恋人を偽装するストレスのせいもあるのだろうが、あの姉の発言はこうかばつぐんだった。
急いで記憶の蓋を閉じたが、あの茜に似た苦しそうな声が振られたときのことを思い出させたのかもしれない。
なんか一気に精神のヒットポイントほぼゼロまで削られた気がするな。
枕に突っ伏しながらそんなことを考えていると、体を重ねたような重さが背中から伝わってきた。
「ずっと隠してきてごめんね……、私のお姉ちゃんいつもあんな感じなんだ」
「いつもって、本当なの?」
「まああそこまでひどいことは言わないかな……、告られそうになると私の知らないところで牽制してたみたいだし」
「あはは」と声では笑っているが、泣きそうな顔をしていることぐらい直接見なくてもわかった。
それに茜自身もすごく心配しているんだろう。
ぎゅっと手を握ってきたが、その手が心配そうに震えているのがわかった。
「嫌じゃないの?」
「うーんそれ聞いた時はいい気分じゃなかったけど、そのおかげで初めての彼氏が達也になったし嫌ではないかな。別れたのもお姉ちゃんのせいじゃないしね」
「そう考えると不幸中の幸いなのかな?」
初めての彼氏になれたのは悪い気はしないが、それでもあのいきなり決めつけてくるような言い方は心に刺さるな。
「そうだけど、お姉ちゃんのせいで離れなきゃいけなくなったら不幸しか残らないよ」
「なら真剣に付き合ってるって騙せるように、今日みたいなへまはしない様にしないとね」
「あれはタイミングが悪かったじゃん」
タイミングね……。
まあその通りではあるけど、ちゃんと準備が出来てればタイミングが悪いなんてことはないだろうからな。
ただ母さんはあの感じで偽装してれば問題なさそうだし、茜の姉に会う予行練習だと思えば悪くなかったかな。
「あのさ達也、やっぱ明日会うのやめる?」
「会うよ、ここで会わないことにしたらどんどん事態が悪化する気がするし」
今まで彼氏ができないように動いていたなら、下手に会うのを引き延ばすとなにをされるのかわからない。
もしかしたら茜を連れ去られて二度と会えなくなると言うこともあるかもしれない。
もちろん引き延ばせば色々準備が出来るが、それは相手も同じなのでそれならこんな状態でもさっさと蹴りをつけてしまったほうが気が楽だ。
「けど、最近ずっとストレス続きだったし無理しないほうが」
「大丈夫、これが終わったら温泉でゆっくりするから少しぐらいの無茶ならなんとかなる」
「ならいいけど」
よかった温泉券もらっておいて。
ご褒美があると思えば頑張れる。
それにこれ以上茜に不安を覚えてほしくはなかった。
ただ、明日会うのはいいけどなるべく不利になりそうなことは隠しておかないとな。
「あのさ明日はちゃんと準備したいんだけど、今から首輪とか指輪外しておいていい?」
「ダメ、絶対ダメ」
「首輪ばれたらなんて言い訳すればいいの?」
指輪は仲がいいからふざけてと言えなくもない、ただ首輪は本当に言い訳が思いつかない。
母さんが触れないでくれたからよかったが、あそこで追及されたら明らかにしどろもどろになり、態度で「いけないことをしています」と自白してただろう。
「飼い主ですって言ってくれていいよ、私だけの達也になったんだし」
「言ってもいいけど、あの感じだと攻撃されるのは全部俺だし、茜は可哀そうな妹って目でしか見られないじゃん」
「なら首輪は外してもいいよ、けど指輪はダメ。どっちも外したら飼われてるって実感できなくなっちゃう」
母さんと違って指輪だけでも逆鱗に触れそうだけどな。
ただ逆に着けてないと覚悟もないのに付き合ってとか言われるか?
着けるべきか外すべきかわかんなくなってきた。
「それにさ、指輪は結婚するつもりがあるから付き合ってますって言えるよ。そっちのが遊びじゃないって言えるぶん怒られないんじゃない?」
まるで悪魔が囁くように耳元でそう言われると、自分の中からどんどんとつけないという選択肢が消えて行くのがわかった。
「ならわかったなら指輪だけはつけておくよ……」
「ありがとう、大丈夫だよ恋人の振りするんだし指輪なら不自然じゃないよ」
「恋人の振りね……」
「それに達也がなにか言われても私が着けたいって言ったって言う。だから心配しないで」
今後もしお姉さんと会うことになって、実はあの時見せた指輪は恋人の振りをするためのカモフラージュでしたって言ったらどうなるんだろう。
それを言った時点で死ぬほど怒られそうだし、これは死ぬまで内緒にしないとダメかな。
「ねえ達也、恋人の振りが嫌ならさ……」
「どうした?」
茜はそう言いかけると、突然石のように押し黙ってしまった。
確か母さんが来た時もそんなことを言いかけてたよな。
「あかね?」
「ごめん……、なんでもない。忘れて」
「わかった」
「もう少しだけこのままでもいいかな?」
「いいよ」
その言葉を聞いて安心したのか、消え入りそうな声で「ありがとう」と言うと、小さな寝息を立て始めた。
茜も緊張してたのかな。
いや、動きすぎたせいかな。
なんてことを考えながら壁のシミを眺めていると、だんだんと意識が遠のいてきた。
子守歌のような寝息を聞きながらゆっくりと意識が溶けていくのを感じた。
「大丈夫だよ、会う時までにはいつも通りに戻す」
恋人を偽装するストレスのせいもあるのだろうが、あの姉の発言はこうかばつぐんだった。
急いで記憶の蓋を閉じたが、あの茜に似た苦しそうな声が振られたときのことを思い出させたのかもしれない。
なんか一気に精神のヒットポイントほぼゼロまで削られた気がするな。
枕に突っ伏しながらそんなことを考えていると、体を重ねたような重さが背中から伝わってきた。
「ずっと隠してきてごめんね……、私のお姉ちゃんいつもあんな感じなんだ」
「いつもって、本当なの?」
「まああそこまでひどいことは言わないかな……、告られそうになると私の知らないところで牽制してたみたいだし」
「あはは」と声では笑っているが、泣きそうな顔をしていることぐらい直接見なくてもわかった。
それに茜自身もすごく心配しているんだろう。
ぎゅっと手を握ってきたが、その手が心配そうに震えているのがわかった。
「嫌じゃないの?」
「うーんそれ聞いた時はいい気分じゃなかったけど、そのおかげで初めての彼氏が達也になったし嫌ではないかな。別れたのもお姉ちゃんのせいじゃないしね」
「そう考えると不幸中の幸いなのかな?」
初めての彼氏になれたのは悪い気はしないが、それでもあのいきなり決めつけてくるような言い方は心に刺さるな。
「そうだけど、お姉ちゃんのせいで離れなきゃいけなくなったら不幸しか残らないよ」
「なら真剣に付き合ってるって騙せるように、今日みたいなへまはしない様にしないとね」
「あれはタイミングが悪かったじゃん」
タイミングね……。
まあその通りではあるけど、ちゃんと準備が出来てればタイミングが悪いなんてことはないだろうからな。
ただ母さんはあの感じで偽装してれば問題なさそうだし、茜の姉に会う予行練習だと思えば悪くなかったかな。
「あのさ達也、やっぱ明日会うのやめる?」
「会うよ、ここで会わないことにしたらどんどん事態が悪化する気がするし」
今まで彼氏ができないように動いていたなら、下手に会うのを引き延ばすとなにをされるのかわからない。
もしかしたら茜を連れ去られて二度と会えなくなると言うこともあるかもしれない。
もちろん引き延ばせば色々準備が出来るが、それは相手も同じなのでそれならこんな状態でもさっさと蹴りをつけてしまったほうが気が楽だ。
「けど、最近ずっとストレス続きだったし無理しないほうが」
「大丈夫、これが終わったら温泉でゆっくりするから少しぐらいの無茶ならなんとかなる」
「ならいいけど」
よかった温泉券もらっておいて。
ご褒美があると思えば頑張れる。
それにこれ以上茜に不安を覚えてほしくはなかった。
ただ、明日会うのはいいけどなるべく不利になりそうなことは隠しておかないとな。
「あのさ明日はちゃんと準備したいんだけど、今から首輪とか指輪外しておいていい?」
「ダメ、絶対ダメ」
「首輪ばれたらなんて言い訳すればいいの?」
指輪は仲がいいからふざけてと言えなくもない、ただ首輪は本当に言い訳が思いつかない。
母さんが触れないでくれたからよかったが、あそこで追及されたら明らかにしどろもどろになり、態度で「いけないことをしています」と自白してただろう。
「飼い主ですって言ってくれていいよ、私だけの達也になったんだし」
「言ってもいいけど、あの感じだと攻撃されるのは全部俺だし、茜は可哀そうな妹って目でしか見られないじゃん」
「なら首輪は外してもいいよ、けど指輪はダメ。どっちも外したら飼われてるって実感できなくなっちゃう」
母さんと違って指輪だけでも逆鱗に触れそうだけどな。
ただ逆に着けてないと覚悟もないのに付き合ってとか言われるか?
着けるべきか外すべきかわかんなくなってきた。
「それにさ、指輪は結婚するつもりがあるから付き合ってますって言えるよ。そっちのが遊びじゃないって言えるぶん怒られないんじゃない?」
まるで悪魔が囁くように耳元でそう言われると、自分の中からどんどんとつけないという選択肢が消えて行くのがわかった。
「ならわかったなら指輪だけはつけておくよ……」
「ありがとう、大丈夫だよ恋人の振りするんだし指輪なら不自然じゃないよ」
「恋人の振りね……」
「それに達也がなにか言われても私が着けたいって言ったって言う。だから心配しないで」
今後もしお姉さんと会うことになって、実はあの時見せた指輪は恋人の振りをするためのカモフラージュでしたって言ったらどうなるんだろう。
それを言った時点で死ぬほど怒られそうだし、これは死ぬまで内緒にしないとダメかな。
「ねえ達也、恋人の振りが嫌ならさ……」
「どうした?」
茜はそう言いかけると、突然石のように押し黙ってしまった。
確か母さんが来た時もそんなことを言いかけてたよな。
「あかね?」
「ごめん……、なんでもない。忘れて」
「わかった」
「もう少しだけこのままでもいいかな?」
「いいよ」
その言葉を聞いて安心したのか、消え入りそうな声で「ありがとう」と言うと、小さな寝息を立て始めた。
茜も緊張してたのかな。
いや、動きすぎたせいかな。
なんてことを考えながら壁のシミを眺めていると、だんだんと意識が遠のいてきた。
子守歌のような寝息を聞きながらゆっくりと意識が溶けていくのを感じた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
クラスで一人だけ男子な僕のズボンが盗まれたので仕方無くチ○ポ丸出しで居たら何故か女子がたくさん集まって来た
pelonsan
恋愛
ここは私立嵐爛学校(しりつらんらんがっこう)、略して乱交、もとい嵐校(らんこう) ━━。
僕の名前は 竿乃 玉之介(さおの たまのすけ)。
昨日この嵐校に転校してきた至極普通の二年生。
去年まで女子校だったらしくクラスメイトが女子ばかりで不安だったんだけど、皆優しく迎えてくれて ほっとしていた矢先の翌日……
※表紙画像は自由使用可能なAI画像生成サイトで制作したものを加工しました。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い
うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。
浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。
裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。
■一行あらすじ
浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる