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第34話「達也の意地悪」

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 ああこれか。
 足として呼び寄せたタクシーの中でスマホを確認すると、GPSアプリなどは使わないが削除できないアプリなどがまとめてあるフォルダに紛れ込ませてあった。
 削除。
 これも削除っと。
 これでもうあいつに監視されることはないかな。
 一応全てのフォルダを確認したが、これ以上怪しいアプリは見つからなかった。
 今更いまさらながら全部監視されてたと思うと、一言に恐怖じゃ片付けられないくらいの気味悪さがあるな。

「ねえ達也たつや?」
「なに?」

 俺がスマホを置いたのを確認したのか、さっきから不機嫌そうな様子で風景をながめていた茜が話しかけてきた。

「ねえあの人じゃなくて私でいいの?」
あかねがいいんだけど」
「別に気を使わなくてもあそこに残れば二人で仲良くできたのに」
「あいつは恋愛対象じゃないんだけど」

「ふーん、そっか」と言いながら乗ってからずっと握っていた手に思い切り爪を突き立ててくる。

「痛いっ! ねえ茜痛いって!」
「知ってる、痛くしてるの」

 茜は不機嫌そうな声でそう言う。
 なんで?と思いつつも痛みから逃れるように振りほどくと、爪の痕に混じって少し血がにじんでいた。

「ねえ手放さないでよ、繋がないと迷子になるでしょ」
「なんないし、痛くするじゃん」
「そうだけど離さないでよ」

 少し泣きそうな声でそう言うと無理やり手をつないできた。
 直後一瞬だけ力を入れられたが、すぐにいつも通りのつなぎ方に戻った。
 そんなことをしながら互いに別の窓から風景を見る。
 タクシーから見る夜景はなんだかアニメのワンシーンのようで、キラキラと輝く街灯が宝石のようだった。

 何度かあくびをしながら外をながめていると、茜の指が触手の様にうねうねと動き出す。
 それに少し強く握ったりして反応すると、満足そうに鼻息を漏らした。
 街頭によって時折ときおり浮かび上がるその横顔はとてもきれいだった。


「着きましたよ」

 少し暑いくらいの暖房のなかうつらうつらしていると、ドライバーの声で現実へ引き戻される。
 茜もいつの間にか俺の肩に体を預けながら気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「おいくらですか」
「二千四百円です」

 陽菜ひなも寝ていたのか、歩道へ出ると大きなあくびをしながら伸びをしてる。

「先家入ってていいよ」

 本当は茜を連れて行ってもらえばと思ったが、全く動かない。
 それどころか少し腕を動かすと、逃がさないとでも言うようにしっかりを腕を押さえてきた。

「じゃあこれでお願いします」

 ぴったりの金額をトレーへ置くと、茜を支えながら外へ出る。
 もう演技なのか本気で眠いのかはわからないが、俺が離れようとする素振りを見せなけば問題なく動くことができた。
 まあ動いてくれさえすればなんでもいい。

「あ、お兄ちゃんちょっといい?」
「ごめん起きてからにして、今頭回ってないから無理」
「あーわかった、なら明日言う。おやすみ」

 あの短時間で着替えたのか、いつの間にか部屋着に変わっていた陽菜に「おやすみ」と告げると茜を背負って階段を上がる。

「一人で着替えられる?」
「着替えられない」

 部屋に着き着替えを出している間も茜は子供の様にべったりとくっついてくる。
 このころには完全に起きていたのか、口の方はいつも通りの茜に戻っていた。

「ねえ着替えさせてよ」
「今日だけだぞ」

 俺が答えるよりも早く脱がせやすい体勢になったので、「ほら脱いで」と言いながら丁寧にボタンを外す。

「ペットの身だしなみを整えるのは飼い主の仕事じゃないの? 毎日やってよ」

 そう言いながらこれ見よがしに真っ白な首に映える赤い首輪を自慢してくる。
 こいつは。
 そのしぐさを少しかわいいと思いつつも寝不足ゆえの不機嫌のせいでイラっとする。
 ちょっとさっきの仕返しでもするか。

「ならもう飼い主やめようかな」

 そっと首元に手を回すと、その首輪を奪い取る。
 茜はなにが起ったかわからないような顔をしながら首輪と顔を交互に見てきた。

「え?」
「陽菜に飼うのやめるって言ってくるから、今日から陽菜の部屋で寝て」

 開け放たれたドアの横に立ちそう言う。

「ねえ、待って」
「同性の方が身だしなみとか整えやすいでしょ」
「ごめんなさい、捨てないでください」

 今にも泣きそうな声で声でそうすがってきた。
 ちょっと薬にしては強すぎたかな?
 さっきまで余裕そうな顔をしていた茜が一瞬でこんな変わるとは想像できなかった。
 ちょっとゾクゾクするけど、申し訳なさもあるな。

「ごめんね、捨てたりしないよ」

 さっきあった位置に首輪を戻すと、力いっぱい抱きしめる。
 同じぐらいの力で抱き返してくると、涙声で何度も「よかった」と耳元で言っていた。

「ねえ茜こういう時飼い猫ならなんて言うんだっけ?」

 大粒の涙を浮かべながら俺の手をしっかりと握りながら言った。

「にゃぁ」
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