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第18話「茜と思い出」
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「あーさっぱりした」
水分を含んだ髪を丁寧に拭いながら茜は風呂場から出てきた。
「じゃあ髪乾かして少し落ち着いたら荷物まとめちゃう?」
時刻は四時ちょっと前。
これから買い物して帰ることを考えるとちょうどいい時間だった。
「ほしい荷物はもう持ったから充分だよ」
「もう持ったって……」
風呂上がりの彼女をじっと観察するが、タオルと今着ている下着以外とくに何か持っているように思えなかった。
「まとめたの間違いじゃなくて?」
「ほらこれ」
そう言うと自慢するように左手を見せてきた。
薬指の指輪がきらりと光る。
「それを持っていきたかったのか」
「そうだよ。猫として受け入れられたら着けようと思ってたから。けどよかった達也がこれ捨ててなくて。せっかく着けるってなっても一人でつけるのは寂しいし」
こう言ってもらえるのであれば、陽菜に重いと言われてまで預かってもらった価値はあったんじゃないだろうか。
まあその時はこんな関係になるなんて想像すらしなかったが。
「ただ勘違いしてないからね。薬指につけてもらったけど、そういう意味ではないのはわかってる。猫として飼われてる私が達也とそういう関係を望んでいいとは思ってない。これはただの虫よけと、首輪の代わり」
「茜だって望んでいい」という言葉がのどまで出かかったが、実際に声にする事は出来なかった。
元カノではなく猫とならと、なし崩し的に同棲をはじめ、彼女が望んでるとは言え飼い主を演じている人間がどうして望んでいいと言えるだろうか。
「だから達也も嫌じゃなければ付けてほしいな。あの人への牽制になりそうだし、私がいないところでも指輪を見て飼ってるって思い返してほしい」
「わかった」
「あ、あとそうだ、またこれ着けたいんだけどいいかな?」
そう言うとクローゼットの奥から小さな箱を取り出してた。
「これは?」
「中見ていいよ」
恐る恐る中を開けると、少しチープなデザインのネックレスが出てきた。
間違いない、初めてあげたプレゼントだ。
「よくこんなの取ってあったね……。別れた時に捨てられたと思ってた」
「捨てられるわけないじゃん、好きな――」
そこまで言いかけると突然黙りこくってしまった。
「どうした?」
「好きなデザインだったからね」
「そっか、気に入ってくれたならよかった」
彼女が何を言おうとしたかはわからない。
たださっき似たようなことをしたときに追及しないでくれたので、問い詰めようとは思わなかった。
「だからまたつけていいかな? 自分のわがままで振ったのに、もらった物は使い続けるってなんかもうしわけなかったんだよね」
「いいよ、そんなこと気にしないで茜が着けたいなら好きな時に着けなよ」
「よかったー」
ほっとした表情を浮かべると、手慣れた様子でネックレスを付け始めた。
数か月ぶりにつけたネックレスを姿見で確認する彼女の様子はとても楽しそうで、不思議と俺まで幸せな気分になった。
「茜がよければまた何か贈ろうか?」
「え、そんなの悪いよ」
「悪くないよ、猫として飼われることになった記念ってことでもいいからさ」
「こういうのとかどう?」と適当なAmazonのページを見せる。
「ねえ、これ首輪じゃん」
心底おかしそうにけらけらと笑った。
「そうだよ」
つられて笑いながらそう答える。
「けど達也が着けてほしいってのがあればそれは欲しいかな」
「日本語話す猫にあげるのはないかも」
それを聞くと、彼女は俺の胸にボスンと顔を埋めた。
そうとう恥ずかしのか、耳まで夕焼け色に染まっていた。
一つ大きな深呼吸をすると、茜は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で小さく鳴いた。
「にゃあ……」
水分を含んだ髪を丁寧に拭いながら茜は風呂場から出てきた。
「じゃあ髪乾かして少し落ち着いたら荷物まとめちゃう?」
時刻は四時ちょっと前。
これから買い物して帰ることを考えるとちょうどいい時間だった。
「ほしい荷物はもう持ったから充分だよ」
「もう持ったって……」
風呂上がりの彼女をじっと観察するが、タオルと今着ている下着以外とくに何か持っているように思えなかった。
「まとめたの間違いじゃなくて?」
「ほらこれ」
そう言うと自慢するように左手を見せてきた。
薬指の指輪がきらりと光る。
「それを持っていきたかったのか」
「そうだよ。猫として受け入れられたら着けようと思ってたから。けどよかった達也がこれ捨ててなくて。せっかく着けるってなっても一人でつけるのは寂しいし」
こう言ってもらえるのであれば、陽菜に重いと言われてまで預かってもらった価値はあったんじゃないだろうか。
まあその時はこんな関係になるなんて想像すらしなかったが。
「ただ勘違いしてないからね。薬指につけてもらったけど、そういう意味ではないのはわかってる。猫として飼われてる私が達也とそういう関係を望んでいいとは思ってない。これはただの虫よけと、首輪の代わり」
「茜だって望んでいい」という言葉がのどまで出かかったが、実際に声にする事は出来なかった。
元カノではなく猫とならと、なし崩し的に同棲をはじめ、彼女が望んでるとは言え飼い主を演じている人間がどうして望んでいいと言えるだろうか。
「だから達也も嫌じゃなければ付けてほしいな。あの人への牽制になりそうだし、私がいないところでも指輪を見て飼ってるって思い返してほしい」
「わかった」
「あ、あとそうだ、またこれ着けたいんだけどいいかな?」
そう言うとクローゼットの奥から小さな箱を取り出してた。
「これは?」
「中見ていいよ」
恐る恐る中を開けると、少しチープなデザインのネックレスが出てきた。
間違いない、初めてあげたプレゼントだ。
「よくこんなの取ってあったね……。別れた時に捨てられたと思ってた」
「捨てられるわけないじゃん、好きな――」
そこまで言いかけると突然黙りこくってしまった。
「どうした?」
「好きなデザインだったからね」
「そっか、気に入ってくれたならよかった」
彼女が何を言おうとしたかはわからない。
たださっき似たようなことをしたときに追及しないでくれたので、問い詰めようとは思わなかった。
「だからまたつけていいかな? 自分のわがままで振ったのに、もらった物は使い続けるってなんかもうしわけなかったんだよね」
「いいよ、そんなこと気にしないで茜が着けたいなら好きな時に着けなよ」
「よかったー」
ほっとした表情を浮かべると、手慣れた様子でネックレスを付け始めた。
数か月ぶりにつけたネックレスを姿見で確認する彼女の様子はとても楽しそうで、不思議と俺まで幸せな気分になった。
「茜がよければまた何か贈ろうか?」
「え、そんなの悪いよ」
「悪くないよ、猫として飼われることになった記念ってことでもいいからさ」
「こういうのとかどう?」と適当なAmazonのページを見せる。
「ねえ、これ首輪じゃん」
心底おかしそうにけらけらと笑った。
「そうだよ」
つられて笑いながらそう答える。
「けど達也が着けてほしいってのがあればそれは欲しいかな」
「日本語話す猫にあげるのはないかも」
それを聞くと、彼女は俺の胸にボスンと顔を埋めた。
そうとう恥ずかしのか、耳まで夕焼け色に染まっていた。
一つ大きな深呼吸をすると、茜は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で小さく鳴いた。
「にゃあ……」
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