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第16話「冬木からのちょっかい」
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着替え終わり、スマホを立ち上げると茜からLINEが届いていた。
『着いたよ』
急いで外へ出ると、空を眺めながらうちのコーヒーを舐めるように飲んでいる彼女がいる。
「茜!」
呼びかけに気が付いたのか、小さく手を振ってきた。
「ごめん待たせて」
「大丈夫私も今来たところ」
「じゃあ、行く?」
そう歩き出そうとしたとき、背後からさっきさんざん聞いた声が届く。
「あれ達也クンまだ居たんだ」
「ねえ早く行こう?」
茜は不安そうに袖をつかみながらそう言ってくる。
なにか嫌なことを思い出したのか、その声は震えていた。
「はじめまして。冬木真帆って言いますよろしく」
怯える茜を無視して彼女は軽く微笑んだが、目は笑っていない。
対峙する二人が獲物を狙う鷹と、か弱い子猫のように見えた。
モデルのように高身長な冬木と、日本人の平均ぐらいしかない茜の身長差が余計そう感じさせるのかもしれない。
「千島茜です」
勇気を振り絞るようにそう言うと、キッっと冬木をにらみつけたように見えた。
何か本能的な危機感でも感じているのだろうか。
「達也クンの彼女さんですか?」
「……そうです」
少し考えたように間を置くと、見せつけるかのように腕に手を絡みつけそう言った。
あの間の時に自分が今は猫なのにとか考えたのだろうか。
「へーそう」
今まで見せたことがないような顔でにやにやと笑う。
「なんですか?」
「これからデートなんですか? おしゃれしてるみたいだし」
「そうですよ」
それを聞くと、品定めでもするかのように茜を観察する。
ちょっとすると勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「彼女とデートか、楽しそうでいいね」
「まあね、冬木はいいのかこんなところで油売ってて」
「タバコって言ってきたから平気」
そういうと思い出したように火をつけた。
蛍のように光る先端から一筋の煙が空に向かって伸び始める。
「三か月前はあんな泣いてたのによかったね、新しい彼女出来て」
時折煙を吐き出しながら含みある口調でそう言った。
「どういうことですか?」
茜は食い気味に突っかかった。
元カノが自分であるとわかっているはずなのに、語気からはだいぶイラついているのが伝わってくる。
「そのままの意味だよ、元カノに振られた日ずっと泣いてるから私が一晩中そばにいて忘れられるように慰めてあげたの。そういえば千島さんは元カノに似てるね」
実際酒を飲みながら夜通し愚痴っていただけだ。
ただ悪意の純度を極限まで高めて伝えれば、この言い方でも間違ってないだろう。
「元カノの代わりとして付き合ってるんじゃない」とでも言うように相変わらず煙を燻らせながら、作ったような笑顔で笑っている。
「おい!」
そんな態度に堪らず怒気を含ませた低い声を出す。
ただ本人には届いてないらしい。
「怒んないでよ、私の胸の中で泣いてたのは事実でしょ。なんだっけ『あいつと一緒になれない世の中なんか、存在する価値がない』だっけ?」
先ほどと全く変わらないトーンでにやにやと笑いながら話し続ける。
「私と夜通し一緒にいてすっきりできたって言ったのは達也クンじゃん、まああれから思い出すたびに求められたけど」
「愚痴聞いてただけだろ、わざとらしい言い方するなよ」
「そうだっけごめんね。けど私ですっきりした後にすぐ新しい彼女作るなんてよくやるね。なんか遊ばれたみたい」
タバコを地面に落すと、イラついているのか彼女は思い切り踏みつけた。
「茜行こう」
これ以上こいつと話しても埒が明かない。
そう思い立ち去ろうとしたとき、冬木が突然手首をつかんできた。
そして一気に耳元に近づくと、少しタバコの臭いが混ざる声で、そっと呟いた。
「あんまり女の子で遊んじゃダメだよ、そういうのがしたいなら私が付き合ってあげるから」
彼女の手を振り払うと、茜の手を引きできる限りの速足で歩き始めた。
あの耳元の囁きからすこしでも離れられるように。
『着いたよ』
急いで外へ出ると、空を眺めながらうちのコーヒーを舐めるように飲んでいる彼女がいる。
「茜!」
呼びかけに気が付いたのか、小さく手を振ってきた。
「ごめん待たせて」
「大丈夫私も今来たところ」
「じゃあ、行く?」
そう歩き出そうとしたとき、背後からさっきさんざん聞いた声が届く。
「あれ達也クンまだ居たんだ」
「ねえ早く行こう?」
茜は不安そうに袖をつかみながらそう言ってくる。
なにか嫌なことを思い出したのか、その声は震えていた。
「はじめまして。冬木真帆って言いますよろしく」
怯える茜を無視して彼女は軽く微笑んだが、目は笑っていない。
対峙する二人が獲物を狙う鷹と、か弱い子猫のように見えた。
モデルのように高身長な冬木と、日本人の平均ぐらいしかない茜の身長差が余計そう感じさせるのかもしれない。
「千島茜です」
勇気を振り絞るようにそう言うと、キッっと冬木をにらみつけたように見えた。
何か本能的な危機感でも感じているのだろうか。
「達也クンの彼女さんですか?」
「……そうです」
少し考えたように間を置くと、見せつけるかのように腕に手を絡みつけそう言った。
あの間の時に自分が今は猫なのにとか考えたのだろうか。
「へーそう」
今まで見せたことがないような顔でにやにやと笑う。
「なんですか?」
「これからデートなんですか? おしゃれしてるみたいだし」
「そうですよ」
それを聞くと、品定めでもするかのように茜を観察する。
ちょっとすると勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「彼女とデートか、楽しそうでいいね」
「まあね、冬木はいいのかこんなところで油売ってて」
「タバコって言ってきたから平気」
そういうと思い出したように火をつけた。
蛍のように光る先端から一筋の煙が空に向かって伸び始める。
「三か月前はあんな泣いてたのによかったね、新しい彼女出来て」
時折煙を吐き出しながら含みある口調でそう言った。
「どういうことですか?」
茜は食い気味に突っかかった。
元カノが自分であるとわかっているはずなのに、語気からはだいぶイラついているのが伝わってくる。
「そのままの意味だよ、元カノに振られた日ずっと泣いてるから私が一晩中そばにいて忘れられるように慰めてあげたの。そういえば千島さんは元カノに似てるね」
実際酒を飲みながら夜通し愚痴っていただけだ。
ただ悪意の純度を極限まで高めて伝えれば、この言い方でも間違ってないだろう。
「元カノの代わりとして付き合ってるんじゃない」とでも言うように相変わらず煙を燻らせながら、作ったような笑顔で笑っている。
「おい!」
そんな態度に堪らず怒気を含ませた低い声を出す。
ただ本人には届いてないらしい。
「怒んないでよ、私の胸の中で泣いてたのは事実でしょ。なんだっけ『あいつと一緒になれない世の中なんか、存在する価値がない』だっけ?」
先ほどと全く変わらないトーンでにやにやと笑いながら話し続ける。
「私と夜通し一緒にいてすっきりできたって言ったのは達也クンじゃん、まああれから思い出すたびに求められたけど」
「愚痴聞いてただけだろ、わざとらしい言い方するなよ」
「そうだっけごめんね。けど私ですっきりした後にすぐ新しい彼女作るなんてよくやるね。なんか遊ばれたみたい」
タバコを地面に落すと、イラついているのか彼女は思い切り踏みつけた。
「茜行こう」
これ以上こいつと話しても埒が明かない。
そう思い立ち去ろうとしたとき、冬木が突然手首をつかんできた。
そして一気に耳元に近づくと、少しタバコの臭いが混ざる声で、そっと呟いた。
「あんまり女の子で遊んじゃダメだよ、そういうのがしたいなら私が付き合ってあげるから」
彼女の手を振り払うと、茜の手を引きできる限りの速足で歩き始めた。
あの耳元の囁きからすこしでも離れられるように。
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