15 / 62
第15話「バイト仲間からの質問」
しおりを挟む
「あぶねー何とか間に合った」
着替えを終え、更衣室から出るとそうほっと呟く。
「今日はギリギリだね、達也クン」
タイミングよく女性用更衣室から出てきた同僚――冬木真帆にそう話しかけられた。
「おはよー」といいながら小さく手を振っている。
「おはよう、ちょっと寝坊しちゃって」
「へー珍しい、達也クンが寝坊とかあるんだ」
などと言いながらおかしそうにクスクスと笑う。
「冬木も今日早いじゃん、いつも遅刻してるくせに」
「いつもじゃないよ、まれにだよ」
そう言って遅刻した回数を指で数え始めた。
「いやーまれに遅刻する人は半年連続ワースト遅刻数をたたき出さないし、よくでしょ」
「えーそうかな。あ、そうだ」
思い出したようにポケットを探ると、スマホを取り出す。
「なに?」
「遅刻で思い出したけど、今月の最多遅刻者の写真貼るっていうから取ってきたの。可愛くない?」
画面を見せてくるが、ほどほどに盛られたその写真は確かにかわいかった。
「ただあんま加工したわりに顔に変化ない?」
何度かスマホと彼女の顔を見比べるが、ほぼ違いが見つからなかった。
「だって元がいいから」
満面の笑みを見せた冬木は、お世辞抜きでもかわいいと言える顔をしていた。
実際何度かファッション雑誌から声がかかったことがあるらしい。
それにうちの店にも彼女目当てで来ているのだろうという人が何人もいた。
「あーそうだね、そろそろ時間だし行こうぜ」
時計を指さすと、すでに就業時間の五分前ほどになっていた。
これ以上ここで話に付き合っていると、本当に遅刻になってしまいそうだ。
「達也クン私のことかわいいって言ってくれないよね、聞きたいな~」
そう言いながら彼女は何種類もの写真を見せてくる。
よっぽど撮るのが好きなんだろう、どんなに見せても彼女の写真が尽きる様子がなかった。
「はいはいあとでね」
適当にあしらいながら、「ほら行くぞ」と呼びかける。
◇
あと少しで終わりか。
シフト交代まであと少しであることを確認すると、小さく伸びをした。
客足を見る限り残業しなくて良さそうだ。
「よかった……」
「ねえなにがいいの?」
フウッと気を抜くと、突然冬木が話しかけてきた。
気を抜きすぎて心の声まで漏れていたらしい。
「いやなんでもないよ」
「そんなことないでしょ、今日ずっと時計見てたの知ってるから」
見られてたのか。
「で、仕事終わりの時間を熱心に気にする達也クンの予定はなに?」
「なんもないって」
じっと見つめてくる視線に耐えられず、堪らず目を逸らした。
「あ、嘘ついてる」
「ついてないって」
彼女に追及されているとき、なぜか頭には嬉しそうに「わかった、じゃあ明日ね」と笑う茜が浮かんだ。
「うーんあんな時間気にするってことは誰かとデートかな」
「デートじゃないって」
実際にただ荷物を取りに行くだけだし、デートでも何でもない。
自分にそう言い聞かせるようになんとか平静を装ってそう答えた。
ただバレバレだったらしい。
「にやついたし当たってそう。めっちゃうれしそうな顔してるよ」
「教えても幸せは減らないぞ~」などと言いながら、人差し指でみぞおちの上あたりをそっと押す。
「いやーほんとなんでもないって」
「なら今日一緒に帰ろう?」
さっきのふざけた態度から一遍、急にまじめな顔になりそう言った。
「冬木は今日一日の日だろ、無理だって」
「大丈夫だよ、適当に誤魔化すから」
そう言って店長の所に行こうとする彼女の腕を慌てて掴む。
茜と先約がある以上一緒に帰れないし、なるべく誤解を招くようなことはしたくなかった。
「今日は無理」
「えーなら彼女さんとデートとかなら諦めるけど、なんで無理なの?」
「彼女……、ではないけど……」
茜のことをなんと説明したらいいかわからなかった。
復縁したわけではないので彼女ではない。
ただあの関係を元カノというのはなんか違う気がしたし、猫とは口が裂けても言えない。
「うーん言う気がないならいいや、なら別の日にご飯食べ行こう」
絡み飽きたのか、これ以上言っても無駄だとわかったらしい。
急に素っ気ない態度になりそう言った。
「それなら……、まあ」
それすら拒否すると彼女が何を言ってくるかわからなかったので、受け入れざるを得ない。
まあ後で理由をつけてキャンセルすればいいだろう、冬木には悪いけど。
「じゃあまた後でね、私は仕事戻るから」
「わかった、お先です」
そう話を切り上げると、一人薄暗いバックヤードへ向かって歩き始めた。
着替えを終え、更衣室から出るとそうほっと呟く。
「今日はギリギリだね、達也クン」
タイミングよく女性用更衣室から出てきた同僚――冬木真帆にそう話しかけられた。
「おはよー」といいながら小さく手を振っている。
「おはよう、ちょっと寝坊しちゃって」
「へー珍しい、達也クンが寝坊とかあるんだ」
などと言いながらおかしそうにクスクスと笑う。
「冬木も今日早いじゃん、いつも遅刻してるくせに」
「いつもじゃないよ、まれにだよ」
そう言って遅刻した回数を指で数え始めた。
「いやーまれに遅刻する人は半年連続ワースト遅刻数をたたき出さないし、よくでしょ」
「えーそうかな。あ、そうだ」
思い出したようにポケットを探ると、スマホを取り出す。
「なに?」
「遅刻で思い出したけど、今月の最多遅刻者の写真貼るっていうから取ってきたの。可愛くない?」
画面を見せてくるが、ほどほどに盛られたその写真は確かにかわいかった。
「ただあんま加工したわりに顔に変化ない?」
何度かスマホと彼女の顔を見比べるが、ほぼ違いが見つからなかった。
「だって元がいいから」
満面の笑みを見せた冬木は、お世辞抜きでもかわいいと言える顔をしていた。
実際何度かファッション雑誌から声がかかったことがあるらしい。
それにうちの店にも彼女目当てで来ているのだろうという人が何人もいた。
「あーそうだね、そろそろ時間だし行こうぜ」
時計を指さすと、すでに就業時間の五分前ほどになっていた。
これ以上ここで話に付き合っていると、本当に遅刻になってしまいそうだ。
「達也クン私のことかわいいって言ってくれないよね、聞きたいな~」
そう言いながら彼女は何種類もの写真を見せてくる。
よっぽど撮るのが好きなんだろう、どんなに見せても彼女の写真が尽きる様子がなかった。
「はいはいあとでね」
適当にあしらいながら、「ほら行くぞ」と呼びかける。
◇
あと少しで終わりか。
シフト交代まであと少しであることを確認すると、小さく伸びをした。
客足を見る限り残業しなくて良さそうだ。
「よかった……」
「ねえなにがいいの?」
フウッと気を抜くと、突然冬木が話しかけてきた。
気を抜きすぎて心の声まで漏れていたらしい。
「いやなんでもないよ」
「そんなことないでしょ、今日ずっと時計見てたの知ってるから」
見られてたのか。
「で、仕事終わりの時間を熱心に気にする達也クンの予定はなに?」
「なんもないって」
じっと見つめてくる視線に耐えられず、堪らず目を逸らした。
「あ、嘘ついてる」
「ついてないって」
彼女に追及されているとき、なぜか頭には嬉しそうに「わかった、じゃあ明日ね」と笑う茜が浮かんだ。
「うーんあんな時間気にするってことは誰かとデートかな」
「デートじゃないって」
実際にただ荷物を取りに行くだけだし、デートでも何でもない。
自分にそう言い聞かせるようになんとか平静を装ってそう答えた。
ただバレバレだったらしい。
「にやついたし当たってそう。めっちゃうれしそうな顔してるよ」
「教えても幸せは減らないぞ~」などと言いながら、人差し指でみぞおちの上あたりをそっと押す。
「いやーほんとなんでもないって」
「なら今日一緒に帰ろう?」
さっきのふざけた態度から一遍、急にまじめな顔になりそう言った。
「冬木は今日一日の日だろ、無理だって」
「大丈夫だよ、適当に誤魔化すから」
そう言って店長の所に行こうとする彼女の腕を慌てて掴む。
茜と先約がある以上一緒に帰れないし、なるべく誤解を招くようなことはしたくなかった。
「今日は無理」
「えーなら彼女さんとデートとかなら諦めるけど、なんで無理なの?」
「彼女……、ではないけど……」
茜のことをなんと説明したらいいかわからなかった。
復縁したわけではないので彼女ではない。
ただあの関係を元カノというのはなんか違う気がしたし、猫とは口が裂けても言えない。
「うーん言う気がないならいいや、なら別の日にご飯食べ行こう」
絡み飽きたのか、これ以上言っても無駄だとわかったらしい。
急に素っ気ない態度になりそう言った。
「それなら……、まあ」
それすら拒否すると彼女が何を言ってくるかわからなかったので、受け入れざるを得ない。
まあ後で理由をつけてキャンセルすればいいだろう、冬木には悪いけど。
「じゃあまた後でね、私は仕事戻るから」
「わかった、お先です」
そう話を切り上げると、一人薄暗いバックヤードへ向かって歩き始めた。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
桜の旅人
星名雪子
ライト文芸
ー聴力を失った僕が代わりに得たのは、桜の声が聞こえる、という能力ー
時代は昭和から平成へと移り変わったばかり。主人公・野樹咲人は子供の頃、病で聴力を失った。その代わりに「桜の声を聞くことができる」という不思議な能力を得る。咲人はそれを活かして全国の桜と人間の心を繋ぐ旅をしている。人々は彼のことを「桜の旅人」と呼んでいる。
信州の山奥にある小さな村。そこに生息する老木「ヤヨイ様」は咲人が初めて言葉を交わした桜であり、村人達からこよなく愛されている。その小さな村は時代の移り変わりに伴って隣町との合併が決まった。寿命を迎えようとしているヤヨイ様と、もうすぐなくなってしまう村に住む人々はそれぞれ「最後に思い出を作りたい」と、咲人に依頼をする。彼らの願いを叶えようと咲人は奮闘する。
咲人は果たして彼らの願いを無事に叶えることができるのか?そして、ヤヨイ様が最後に起こした奇跡とは……?
もうすぐ寿命を向かえる桜と、桜を愛する人間達が心を通わせる物語。
※カクヨムに投稿していたものに若干加筆しました※
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる