7 / 62
第7話「茜の食事」
しおりを挟む
「ねえ、何してるの?」
茜にキスされている間中、リビングからゆっくりと歩いてくる陽菜の足音が頭に響く。
どうにか離れようと少し頭を振るが、しっりかりと押さえられ、全くと言っていいほど動かない。
もういっそ、このまま見られてしまってもいいのかもしれない。
溶解しきった脳みそでそんなことを考えていると、満足したのかようやく唇が離れた。
コンマ数秒遅れてリビングにつながるドアのノブがゆっくりと動き始める。
そのギギギという音で急に現実に引き戻され、慌てて叫ぶ。
「ごめん待ってて! 今すぐ行くから!」
「……、わかったよ」
少し考えたかのようにゆっくりとドアノブが元の位置に戻ると、ドアから遠ざかる足音が聞こえた。
「あーあー、行っちゃったね達也」
残念そうにそう言うと満面の笑みでつづけた。
「バレたらもっとドキドキできたのに」
「見られたら猫になるんじゃないのか?」
陽菜を目の前にした、びくびくと怯える彼女を思いだす。
「あっちの方が人かもよ?」
そう意味ありげに笑うと、リビングのドアを開ける。
リビングに足を踏み入れた瞬間、先ほどの妖艶で積極的な雰囲気は一気に消え失せ、びくびくとした猫のような雰囲気を纏っていた。
「遅い! なにしてたか知らないけど、遅れるならお兄ちゃんの分はもう作らないよ」
「ごめん、もう遅れない」
説明できないことをしていた上、待たせたのが事実な以上、何も言わずただ頭を下げることしかできなかった。
「まあいいや、早く食べよう」
そういわれてテーブルを見ると、”二人分”の食事が用意されていた。
そしてフローリングの上にはなにか見たことない白い粉が掛かったシーチキンのようなものが鉢に入り置かれている。
「これは、一体……」
「こっちは私たち二人のごはん、これは茜ちゃんの」
「これでも栄養バランスとか考えたんだからね」などと言っているが、茜用と言われたものはどう見ても人が食べるものではなかった。
「なあ陽菜、さすがに食事ぐらいは茜も座って食べさせないか?」
どうせ手は使わせてもらえないんだろうし、床が汚れることや、食事中にそんな惨めな姿の彼女を見ると考えると、どうしても食欲が沸く気がしなかった。
せめて食事くらいは人らしく食べさせてあげてほしい。
「お兄ちゃん料理の約束覚えてる?」
「ああ、分担するって決めた時に約束したやつだろ?」
陽菜がある程度大きくなった時、家事の分担とその際のルールを決めた。
「料理は確か、相手の作ったものに文句は言わない、要らない場合はあらかじめ言う、片付けまで含めて料理、じゃなかったか?」
「よかったちゃんと覚えてて、なら何も文句はないよね?」
「いやだけど――」
不満を言おうとしたが、それはすぐに遮られた。
「ならこれからお兄ちゃんがごはん作って、それなら私も文句は言わない!」
あんな約束をしてしまった以上、茜のもちゃんと作れと文句を言うことはできない。
いや言ったところで大した効果があるとは思えない。
なら解決策はそれしか無いだろう。
「わかった……今日以降は全部俺が作るよ……」
「私も必要なら手伝うから言って」
裾を軽く引っ張り気を引くと、茜はそう言ってきた。
「ありがと」
「あーなんか私が拾ってきたのに、お兄ちゃんに取られちゃうな~」
このやり取りを見ていた陽菜は皮肉たっぷりの口調でそう言ってきた。
取られるって……、ちゃんと人として扱えばこんなことしないわ。
「おいそんな言い方」
「だって実際そうでしょ、発情期の半ノラみたいなことしてるくせに」
そう言いながら自分の右鎖骨の上を辺りを指で何度か叩く。
そこはさっきキスマークを付けた位置とちょうど一致していた。
「まあいいよ、茜ちゃんがそういうのだってのは拾った時からわかってたし。もういいから早く食べよう」
そう言って座るように言ってきたが、その日の夕飯は日常の光景の中に猫がいる異様なものだった。
茜にキスされている間中、リビングからゆっくりと歩いてくる陽菜の足音が頭に響く。
どうにか離れようと少し頭を振るが、しっりかりと押さえられ、全くと言っていいほど動かない。
もういっそ、このまま見られてしまってもいいのかもしれない。
溶解しきった脳みそでそんなことを考えていると、満足したのかようやく唇が離れた。
コンマ数秒遅れてリビングにつながるドアのノブがゆっくりと動き始める。
そのギギギという音で急に現実に引き戻され、慌てて叫ぶ。
「ごめん待ってて! 今すぐ行くから!」
「……、わかったよ」
少し考えたかのようにゆっくりとドアノブが元の位置に戻ると、ドアから遠ざかる足音が聞こえた。
「あーあー、行っちゃったね達也」
残念そうにそう言うと満面の笑みでつづけた。
「バレたらもっとドキドキできたのに」
「見られたら猫になるんじゃないのか?」
陽菜を目の前にした、びくびくと怯える彼女を思いだす。
「あっちの方が人かもよ?」
そう意味ありげに笑うと、リビングのドアを開ける。
リビングに足を踏み入れた瞬間、先ほどの妖艶で積極的な雰囲気は一気に消え失せ、びくびくとした猫のような雰囲気を纏っていた。
「遅い! なにしてたか知らないけど、遅れるならお兄ちゃんの分はもう作らないよ」
「ごめん、もう遅れない」
説明できないことをしていた上、待たせたのが事実な以上、何も言わずただ頭を下げることしかできなかった。
「まあいいや、早く食べよう」
そういわれてテーブルを見ると、”二人分”の食事が用意されていた。
そしてフローリングの上にはなにか見たことない白い粉が掛かったシーチキンのようなものが鉢に入り置かれている。
「これは、一体……」
「こっちは私たち二人のごはん、これは茜ちゃんの」
「これでも栄養バランスとか考えたんだからね」などと言っているが、茜用と言われたものはどう見ても人が食べるものではなかった。
「なあ陽菜、さすがに食事ぐらいは茜も座って食べさせないか?」
どうせ手は使わせてもらえないんだろうし、床が汚れることや、食事中にそんな惨めな姿の彼女を見ると考えると、どうしても食欲が沸く気がしなかった。
せめて食事くらいは人らしく食べさせてあげてほしい。
「お兄ちゃん料理の約束覚えてる?」
「ああ、分担するって決めた時に約束したやつだろ?」
陽菜がある程度大きくなった時、家事の分担とその際のルールを決めた。
「料理は確か、相手の作ったものに文句は言わない、要らない場合はあらかじめ言う、片付けまで含めて料理、じゃなかったか?」
「よかったちゃんと覚えてて、なら何も文句はないよね?」
「いやだけど――」
不満を言おうとしたが、それはすぐに遮られた。
「ならこれからお兄ちゃんがごはん作って、それなら私も文句は言わない!」
あんな約束をしてしまった以上、茜のもちゃんと作れと文句を言うことはできない。
いや言ったところで大した効果があるとは思えない。
なら解決策はそれしか無いだろう。
「わかった……今日以降は全部俺が作るよ……」
「私も必要なら手伝うから言って」
裾を軽く引っ張り気を引くと、茜はそう言ってきた。
「ありがと」
「あーなんか私が拾ってきたのに、お兄ちゃんに取られちゃうな~」
このやり取りを見ていた陽菜は皮肉たっぷりの口調でそう言ってきた。
取られるって……、ちゃんと人として扱えばこんなことしないわ。
「おいそんな言い方」
「だって実際そうでしょ、発情期の半ノラみたいなことしてるくせに」
そう言いながら自分の右鎖骨の上を辺りを指で何度か叩く。
そこはさっきキスマークを付けた位置とちょうど一致していた。
「まあいいよ、茜ちゃんがそういうのだってのは拾った時からわかってたし。もういいから早く食べよう」
そう言って座るように言ってきたが、その日の夕飯は日常の光景の中に猫がいる異様なものだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
叔父と姪の仲良しな日常
yu-kie
ライト文芸
社会人になった葉月魅音(ハヅキミオン)はひとり暮しするならと、母の頼みもあり、ロッティー(ロットワイラー:犬種)似の叔父の悪い遊びの監視をするため?叔父の家に同居することになり、小さなオカンをやることに…
【居候】やしなってもらう感じです。
※同居と意味合いが違います。なので…ここでは就職するまで~始め辺りから順に同居と表現に変えて行きます(^^)/
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる