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第1話「猫だと紹介された女が俺の元カノなんだが……」
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「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
バタバタという足音とともに年の割に少し高い声が耳に届く。
あいつはまた家の中を走り回って、と思いながら振り返ると、タイミングよくドアが開いた。
そこには肩で息をした、俺の妹――桧山陽菜がいた。
「普段から部屋に入るときはノッ――」
お小言が長くなるのを知っているのか、「いいから、いいから」と言いながら陽菜は手を引き、駆け上がってきた時と同じ調子で階段を駆け降りる。
「どうしたんだよ、そんなに急いで」
「猫! 猫拾った!」
「猫? 猫ってあの?」
「そうあの猫、飼っていい?」
陽菜は目を少し潤ませながら上目遣いでそう尋ねてくる。
まったく、どこでそんな技覚えたんだか。
「いいか猫だけじゃなく動物ってのは一度飼ったら最期まで責任をもって面倒見ないといけないんだぞ」
我ながら来年大学受験を控えた妹にこんなことを言うのは恥ずかしい。
ただ小学生のようなテンションで話しかけてきた状況から察するに、猫を飼うことを、夕飯のデザートをねだるのと同列に考えている節が見られた。
「わかってるって、大丈夫」
絶対にわかってないし、大丈夫じゃない返事をしながら、さらに続ける。
「一度見たらお兄ちゃんもきっと気に入るから」
「そりゃ猫は嫌いじゃないけど……」
週に一度は猫カフェに行くぐらいの猫好きではあったが、自分で飼うとなれば話は別だ。
両親が多忙で家を空けがちな上、俺も陽菜も毎日決まった時間に帰れない。
それに日中一人ぼっちにしてしまうのも忍びなかった。
自分たちの世話で精一杯なこの状況で、誰が猫を責任もって飼えると言えようか。
「じゃ、じゃあ、びっくりしないでよ!」
短時間で家の中で走り回ったせいだろう、上がった息を整えると、ドアに手を掛けた。
「いや、猫だろ? もう知ってるって……」
大方どんな光景が広がるか予想は出来ていたし、満面の笑みでこちらを見つめてくる陽菜に早く開けるように促した。
「じゃじゃーん!」と自分で言いながら、ゆっくりをドアを開ける。
どうせ足元に箱に入った猫がいるのだろうと思い、下を見ていた俺の目に飛び込んできたのは、女物のスニーカーだった。
ああそうか、どこかの家の猫を引き取ることにしたのか。
それなら拾ったじゃなくて貰ったって言えよと思いながら、目線を上げる。
そこには見知った顔がいた。
元カノの千島茜だ。
忘れはしない三か月前、この人に振られた。
最近はようやく整理が付き始めたのにどうしてこのタイミングで……。
久しぶりに見る元カノをじっと観察していると、彼女の顔はなぜだか熟れ過ぎて押すとつぶれてしまうトマトぐらい真っ赤だった。
またその顔と同じくらい真っ赤に染まった布状のものが、手折れそうなくらい華奢な首に巻かれていた。
なんと声を掛けたらいいのだろうかと思案していると、彼女は突然消え入りそうな声を出す。
「……に、にゃあ~」
直後石のように下を向いて動かなくなってしまった。
こんな時どんな顔をしたらいいんだろうか。
助けを求めるように陽菜の顔を見ると、これでもかというくらいの満面のどや顔を披露してくれた。
そうか、お前が主犯か。
俺自身に落ち着けと呼びかけるよう、深く大きなため息を一つ吐く。
少しだけ冷静さを取り戻すと、極力感情を込めず陽菜に言った。
「捨ててきなさい」
バタバタという足音とともに年の割に少し高い声が耳に届く。
あいつはまた家の中を走り回って、と思いながら振り返ると、タイミングよくドアが開いた。
そこには肩で息をした、俺の妹――桧山陽菜がいた。
「普段から部屋に入るときはノッ――」
お小言が長くなるのを知っているのか、「いいから、いいから」と言いながら陽菜は手を引き、駆け上がってきた時と同じ調子で階段を駆け降りる。
「どうしたんだよ、そんなに急いで」
「猫! 猫拾った!」
「猫? 猫ってあの?」
「そうあの猫、飼っていい?」
陽菜は目を少し潤ませながら上目遣いでそう尋ねてくる。
まったく、どこでそんな技覚えたんだか。
「いいか猫だけじゃなく動物ってのは一度飼ったら最期まで責任をもって面倒見ないといけないんだぞ」
我ながら来年大学受験を控えた妹にこんなことを言うのは恥ずかしい。
ただ小学生のようなテンションで話しかけてきた状況から察するに、猫を飼うことを、夕飯のデザートをねだるのと同列に考えている節が見られた。
「わかってるって、大丈夫」
絶対にわかってないし、大丈夫じゃない返事をしながら、さらに続ける。
「一度見たらお兄ちゃんもきっと気に入るから」
「そりゃ猫は嫌いじゃないけど……」
週に一度は猫カフェに行くぐらいの猫好きではあったが、自分で飼うとなれば話は別だ。
両親が多忙で家を空けがちな上、俺も陽菜も毎日決まった時間に帰れない。
それに日中一人ぼっちにしてしまうのも忍びなかった。
自分たちの世話で精一杯なこの状況で、誰が猫を責任もって飼えると言えようか。
「じゃ、じゃあ、びっくりしないでよ!」
短時間で家の中で走り回ったせいだろう、上がった息を整えると、ドアに手を掛けた。
「いや、猫だろ? もう知ってるって……」
大方どんな光景が広がるか予想は出来ていたし、満面の笑みでこちらを見つめてくる陽菜に早く開けるように促した。
「じゃじゃーん!」と自分で言いながら、ゆっくりをドアを開ける。
どうせ足元に箱に入った猫がいるのだろうと思い、下を見ていた俺の目に飛び込んできたのは、女物のスニーカーだった。
ああそうか、どこかの家の猫を引き取ることにしたのか。
それなら拾ったじゃなくて貰ったって言えよと思いながら、目線を上げる。
そこには見知った顔がいた。
元カノの千島茜だ。
忘れはしない三か月前、この人に振られた。
最近はようやく整理が付き始めたのにどうしてこのタイミングで……。
久しぶりに見る元カノをじっと観察していると、彼女の顔はなぜだか熟れ過ぎて押すとつぶれてしまうトマトぐらい真っ赤だった。
またその顔と同じくらい真っ赤に染まった布状のものが、手折れそうなくらい華奢な首に巻かれていた。
なんと声を掛けたらいいのだろうかと思案していると、彼女は突然消え入りそうな声を出す。
「……に、にゃあ~」
直後石のように下を向いて動かなくなってしまった。
こんな時どんな顔をしたらいいんだろうか。
助けを求めるように陽菜の顔を見ると、これでもかというくらいの満面のどや顔を披露してくれた。
そうか、お前が主犯か。
俺自身に落ち着けと呼びかけるよう、深く大きなため息を一つ吐く。
少しだけ冷静さを取り戻すと、極力感情を込めず陽菜に言った。
「捨ててきなさい」
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