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彼女が出ていくその前は
次男は嘘を一つ、つきました
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私達はエルバート侯爵家の次男。将来、兄が侯爵家を継いだら不要となり、ただの騎士として生涯を戦争に費やさなければならない、ただのスペア。
ここは王城。今日は先の戦争の祝勝会。いつもよりも豪華なのは、今回の闘いが熾烈を極め、たくさんの犠牲を出しながらも勝利した、王から私たち騎士への感謝の気持ちの現れなのだろう。きらびやかな会場に次々と名を呼ばれ迎え入れられていく貴族達。爵位順のため、順番を待っているがすぐ呼ばれるであろう私達に、同じように並ぶ貴族たちの目線は何かを伺うようだった。当然だった。兄は第2夫人を伴っていたからだ。
私の前には兄がいる。それに続くのは私達夫婦。三男・四男はまだ未婚であるため伴う者がおらず、最後にまとめて呼び入れられる。
「お前と顔を合わせるのは初めてだな。紹介しよう。妻のシェリーだ」
挨拶を交わす。こういう場は慣れていないのか、煌びやかな宮殿をキョロキョロと物珍しそうに見ていた第2夫人に、私の妻が話しかけていた。私は久しぶりに兄弟で話をした。妙に声を潜めたのは、他の者に声が漏れないようにとの配慮だ。兄の恥は侯爵家の恥なのだから。
「父上はお許しになったのですか?ユカリナ姉様ではなく、第2夫人を伴う事を」
「お許しは頂いていないがきっと分かって下さるさ。シェリーはこの戦争を、戦地で影ながら支えていてくれたんだ。祝勝会で会いたい顔ぶれも多いだろう」
「しかし…」
「シェリーを伴うのは今回だけだ。今後は当然ユカリナを伴うさ」
まだ問い詰めたい気持ちはあるが、入場の順番がきてしまった。
「シェリーこちらへ。次、呼ばれるぞ」
第2夫人は兄の横にたった。兄が腕を出すと、嬉しそうな顔でその手をとっていた
全ての貴族が入場して、祝勝会は開催された。国王が、勝利を祝う言葉を口にして、戦没者に黙祷をささげた。
晩餐会までの談話の時間、兄は学生時代の友人たちが集まっている輪に入っていったが、当然の反応をされていた。
「本当に第2夫人を連れてきのか…」
「私もアナウンスを聞いた時には耳を疑ったよ」
「今回だけさ。お前はシェリーに会いたがっていただろう?」
兄は一番の親友である侯爵家の男に、助けを求めるように話を振った。
「冗談に決まっているだろう。まさか本当にシェリーと伴ってくるなんて思うはずない。この会場でお前だけだぞ。正妻以外を伴ったのは」
二人は友人の言葉に唖然としていた。
ここまで聞いて、私達夫婦はその場を離れた。失笑が起こっているのを背中で感じた。
私は酒を飲んで顔が火照ったと言う妻と、テラスにでた。初夏のとは言え夜はまだ涼しいので、やたらと高揚していた私の熱をさげてくれた。
「第2夫人を伴うなんて、義兄様はどうされてしまったのかしら」
本当にどうかしてるよ。
「先ほど、戦場で自分を支えてくれたなんて仰っておりましたが」
これで兄には、一つ汚点が出来た。
「正妻が家でのんびりとしていたと言われたように感じましたわ」
今回だけなんて言い訳は通用しない。
「私ども妻だって、必死で家を守り」
犯した過ちは消えないのだから。
「夫の無事を祈っておりましたのに」
私は少し困ったような顔をして見せると、妻の肩を抱いてテラスから続く階段を下り、庭に降りてベンチへと誘う。もう一組テラスに出てきたからだ。
「そう言ってやるなよ」
上位貴族である君は知らないだろうけど
「兄は激戦地で指揮をとっていたんだ」
結構あるんだよ。
「擦り減っていく気持ちを」
戦場での、燃え上がる恋は。
「癒してくれる存在が」
この戦争中、私も経験したからね。
「必要だったんだろう」
男爵家の彼女は結局、他の男を選んだけど。
「確かに現地では兄を支えていたのかもしれないが」
相手は伯爵家の嫡男だった。
「戦争は終わったんだ」
私の方が爵位は上だが、家督を継いで家に残れる嫡男には敵わない。
「目は覚めるさ」
弱点など見当たらなかった兄が、唯一犯したこの騒動。チャンスは巡ってきた。兄が死なずとも、家督を継げる可能性。騎士の給金は高い。しかし嫡男は後継者として領地収入の一部を与えられるが、次男以降の子供にはこない。妻を複数持つと、ギリギリの生活だ。それに戦功をたてて自力で爵位を得なければ、子供は平民となる。それほどに、嫡男と次男以降には差がある。優秀とはいえ、先に産まれただけで家督を継げる、兄という存在。
私にこんな野心があることなど、君はまだ知る必要はない。これは男の闘いだから。
だから私は嘘をつく。
「私には戦場で現を抜かす男の気持ちは分からないけどね」
ここは王城。今日は先の戦争の祝勝会。いつもよりも豪華なのは、今回の闘いが熾烈を極め、たくさんの犠牲を出しながらも勝利した、王から私たち騎士への感謝の気持ちの現れなのだろう。きらびやかな会場に次々と名を呼ばれ迎え入れられていく貴族達。爵位順のため、順番を待っているがすぐ呼ばれるであろう私達に、同じように並ぶ貴族たちの目線は何かを伺うようだった。当然だった。兄は第2夫人を伴っていたからだ。
私の前には兄がいる。それに続くのは私達夫婦。三男・四男はまだ未婚であるため伴う者がおらず、最後にまとめて呼び入れられる。
「お前と顔を合わせるのは初めてだな。紹介しよう。妻のシェリーだ」
挨拶を交わす。こういう場は慣れていないのか、煌びやかな宮殿をキョロキョロと物珍しそうに見ていた第2夫人に、私の妻が話しかけていた。私は久しぶりに兄弟で話をした。妙に声を潜めたのは、他の者に声が漏れないようにとの配慮だ。兄の恥は侯爵家の恥なのだから。
「父上はお許しになったのですか?ユカリナ姉様ではなく、第2夫人を伴う事を」
「お許しは頂いていないがきっと分かって下さるさ。シェリーはこの戦争を、戦地で影ながら支えていてくれたんだ。祝勝会で会いたい顔ぶれも多いだろう」
「しかし…」
「シェリーを伴うのは今回だけだ。今後は当然ユカリナを伴うさ」
まだ問い詰めたい気持ちはあるが、入場の順番がきてしまった。
「シェリーこちらへ。次、呼ばれるぞ」
第2夫人は兄の横にたった。兄が腕を出すと、嬉しそうな顔でその手をとっていた
全ての貴族が入場して、祝勝会は開催された。国王が、勝利を祝う言葉を口にして、戦没者に黙祷をささげた。
晩餐会までの談話の時間、兄は学生時代の友人たちが集まっている輪に入っていったが、当然の反応をされていた。
「本当に第2夫人を連れてきのか…」
「私もアナウンスを聞いた時には耳を疑ったよ」
「今回だけさ。お前はシェリーに会いたがっていただろう?」
兄は一番の親友である侯爵家の男に、助けを求めるように話を振った。
「冗談に決まっているだろう。まさか本当にシェリーと伴ってくるなんて思うはずない。この会場でお前だけだぞ。正妻以外を伴ったのは」
二人は友人の言葉に唖然としていた。
ここまで聞いて、私達夫婦はその場を離れた。失笑が起こっているのを背中で感じた。
私は酒を飲んで顔が火照ったと言う妻と、テラスにでた。初夏のとは言え夜はまだ涼しいので、やたらと高揚していた私の熱をさげてくれた。
「第2夫人を伴うなんて、義兄様はどうされてしまったのかしら」
本当にどうかしてるよ。
「先ほど、戦場で自分を支えてくれたなんて仰っておりましたが」
これで兄には、一つ汚点が出来た。
「正妻が家でのんびりとしていたと言われたように感じましたわ」
今回だけなんて言い訳は通用しない。
「私ども妻だって、必死で家を守り」
犯した過ちは消えないのだから。
「夫の無事を祈っておりましたのに」
私は少し困ったような顔をして見せると、妻の肩を抱いてテラスから続く階段を下り、庭に降りてベンチへと誘う。もう一組テラスに出てきたからだ。
「そう言ってやるなよ」
上位貴族である君は知らないだろうけど
「兄は激戦地で指揮をとっていたんだ」
結構あるんだよ。
「擦り減っていく気持ちを」
戦場での、燃え上がる恋は。
「癒してくれる存在が」
この戦争中、私も経験したからね。
「必要だったんだろう」
男爵家の彼女は結局、他の男を選んだけど。
「確かに現地では兄を支えていたのかもしれないが」
相手は伯爵家の嫡男だった。
「戦争は終わったんだ」
私の方が爵位は上だが、家督を継いで家に残れる嫡男には敵わない。
「目は覚めるさ」
弱点など見当たらなかった兄が、唯一犯したこの騒動。チャンスは巡ってきた。兄が死なずとも、家督を継げる可能性。騎士の給金は高い。しかし嫡男は後継者として領地収入の一部を与えられるが、次男以降の子供にはこない。妻を複数持つと、ギリギリの生活だ。それに戦功をたてて自力で爵位を得なければ、子供は平民となる。それほどに、嫡男と次男以降には差がある。優秀とはいえ、先に産まれただけで家督を継げる、兄という存在。
私にこんな野心があることなど、君はまだ知る必要はない。これは男の闘いだから。
だから私は嘘をつく。
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