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彼女が出ていくその前は

護衛は嘘を一つ、つきました

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 ユカリナ様が倒れた。

 急に騒がしくなった食堂の扉を開け中を確認する。食堂は一階にある。庭から侵入者でも入ったのではないかと思ったからだ。

 侵入者はいなかったが、血だまりとなった床に倒れているユカリナ様が目に入る。ディラン様が執事に医者を呼ぶよう取り仕切っている中、ディラン様の腕の中にいたユカリナ様は、苦悶の表情でシェリー様を見ていた。シェリー様は何が起こったのか分からない顔をして、ただ震えていた。


 ユカリナ様がディラン様によって他の部屋に運ばれた直後、料理人の一人が駆け込んできた。毒草を入れた本人だと言う。ユカリナ様とディラン様に謝罪をと今にも床に頭を付きそうになっていたその男を、護衛長は拘束した。荒々しく護衛長がその男を部屋を連れ出す瞬間見てしまった。料理人とシェリー様が視線を合わせるのを…確かに見た。

 その直後シェリー様は顔を青くされ、床に座り込んでしまった。そして私は確信した。あの噂は本当だったのだと。

 『シェリー様がユカリナ様を亡き者にしようとしていると言う噂がある。警護をおこたらないように』

 護衛長から数日前に言われたばかりだったのに…


 護衛長はあの男の取り調べをしている。私はユカリナ様を守るべく、彼女が診察を受けている部屋の警護に回った。3時間程たった時、医師の男がでてきた。執事に馬車まで送るようにと指示を受けた。ユカリナ様の状態を聞いたら、子供はダメだったがユカリナ様はなんとか無事だったと言われた。なんという事だ…私は言葉を無くしてしまった。

 そして、医師に告げられる。ユカリナ様をディラン様と合わせない方が良いと。確かにそうだ。子供を亡くした失意の中、ディラン様と顔を合わせるのはつらいだろう。

 医師を見送ると、私は護衛長の元に向かった。毒草を盛った男と他の料理人にも話を聞いた結果、これは不運な事故であると判明したと言われた。その男はその日のうちに屋敷をでた。

 これは事故ではなく事件だ!!



 翌日以降、ディラン様は何度もユカリナ様の部屋を訪れた。しかし私は嘘をいて追い返していた。

「医師より、面会謝絶と指示を受けております」

 医師や、彼女の家族は通しているけどね。

「今は心の平穏が大切だと」

 内緒にしてくれと言われているから言わないけれど。

「ディラン様とお会いになると」

 意識が戻られてから、ユカリナ様はうわごとのようにディラン様の名を呼んでいる。

「精神的に不安定になり、危険であると」

 いつもと違うユカリナ様。きっと気持ちが不安定な証拠。

「それより第2夫人の元に向かわれてはいかがですか?」

 気が付いてください。

「また食事も食べれていないと聞いております」

 演技に惑わされないで。 

「同じ妊婦が子を堕ろしたのです」

 あの女が犯人です。

仲良く・・・していた料理人も屋敷を離れ」

 真実に気が付いて。

「さぞ心細いでしょう」

 
 ディラン様は別邸に向かわれた。私の心の声に気が付いて下さっただろうか。


そうしてディラン様がご出立される日まで、私はユカリナ様を守り通した。
 
 
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