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甘くなった身体にはスパイスを

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 奏輔さんのゴールデンウィーク初日は、時折恥ずかしい思いをしながらも、思ったより穏やかで楽しい時間になった。
 いつの間にか博己のことも忘れて、意外と下着をつけていないこともちょこちょこ忘れて(忘れた頃にいじめられるんだけど)、あっという間に夜がきてしまった。
 日が落ちると、さすがにちょっとひんやりする。
 夜は何か酒のつまみになりそうなお惣菜を買って帰ろうと食品売場を回ってきたので、余計に冷えてしまったかもしれない。

 帰宅して、買ってきたお惣菜を中心に食事の用意をする。といっても、奏輔さんは手際がいいので、私にはあまりすることがない。しまいには、
「どうぞ姫様は座っていてください」
と、座らされてしまった。
 仕方なく、座って部屋を見回す。
 一ヶ月前、初めて訪れた時にはだいぶ散らかっていたけれど、最近はわりときれいだ。私が毎週末居座っているのもあるだろう。
「久しぶりにやる?」
 奏輔さんが、ぼんやり眺めていた本棚から箱を持ってくる。
「なんだっけ、ナントカ杯」
「べく杯ね」
「そうそう、そんな名前だった。天狗とおかめとひょっとこの盃が付いてるやつ」
 ここに来た最初の日にやった『コマを回してお酒を飲ませるゲーム』だ。もっとも、お酒に強い奏輔さんとやっても正しいゲームにはならないのだけれど。
「私を酔わせてどうするんですか?」
「んー、姫様たるもの、お酒に酔って粗相をするだなんてあってはなりませんから、酔っちゃったらお仕置きですかね」
 そういえば、そんな描写があのエロゲーにもあった。ナタリアの調教がだいぶ進んで、少し酔っただけでも色香を振りまくようになっていて、隣国の皇子も介抱しようとした従者も惑わせてしまうという天然エロキャラになっていた。ハッピーエンドならあの皇子と婚姻を結ぶのでいいじゃないかとも思うが、そのルートでもとりあえず『お仕置き』イベントが待っている。
「じゃあ、姫たる者、お酒を飲む練習をしなきゃですね」
 ふふ、と笑いながら返すと、
「でも、とりあえず乾杯」
と、グラスにピンク色のカクテルを注いでくれた。まあ、カクテルといっても安い缶のものだけれど。
「あれ? 今日はグラス?」
 いつもなら、缶のまま飲むのに、今日はわざわざグラスを出してくれているなんて。おかげで見た目も楽しめる。
「今日の瑞姫は姫だしね」
 暗に「後でゲームみたいにエッチな調教をするよ」と言われている気がしてドキドキした。

 最初のグラスが空になるまでは普通に夕食を楽しんで、その後は日本酒でべく杯にチャレンジ。もちろん、あっという間に私の降参。天狗の杯で日本酒を飲んだら、もうそれだけでキャパオーバーだった。
 その後は、しばらく恥ずかしい命令が続いて、お酒で赤いのか羞恥で赤いのかわからなくなった頃、奏輔さんはトランプを持ってきた。
「それ……」
「ちょうどいいでしょ? これで罰ゲームを決めよう」
 あのトランプは、以前神経衰弱をした時のものだ。全てのカードに、エッチな命令が書かれている。
 今日は神経衰弱ではなくて、単純にカードを引いて使うらしい。
 べく杯のこまをまわして、私に近ければカードを引く。彼に近ければ、彼はまだ飲めるのでお酒を飲むだけだ。

 最初に引いたカードは、『洗濯ばさみ』。
 奏輔さんが、洗濯ばさみを持ってくる。
「どこに、いくつ留めようかな?」
 そうだった。このカードには、時間や個数、位置の制限がない。前も山ほど挟まれたのを思い出した。
 すでに露わになっている乳首をきゅっと摘むと、まずは一つ、洗濯ばさみを挟み込んだ。
「んんんんっっ!」
 途端に、強い快感が背筋を這い登ってきた。
(え……なに……? いつもよりだいぶ……)
「いつもより、気持ちいい?」
 思考が言語化する前に、奏輔さんに指摘される。反論や肯定の言葉も出ないうちに、奏輔さんは反対の乳首にも洗濯ばさみを留めた。
「やっ、んんんっ、ふ、あああ!」
 思考が追いつかない。
 ただただ、強烈な快楽が走る。
「昨日の夜からずっと、恥ずかしいことと気持ちいいことしかしなかったでしょ? 感度は上がってるのに、刺激は足りなかったんじゃない?」
 言いながら、胸にも洗濯ばさみを留めていく。
「このために今日一日我慢していたから、成功したみたいで嬉しいよ」
 この間にも、パチパチと洗濯ばさみが増えていた。そのたびに、私は身体をびくびくと震わせながら、高く甘い悲鳴をあげる。
 奏輔さんはあるだけ全部の洗濯ばさみを留めて立ち上がり、今度はガムテープを持ってきた。
「瑞姫の声、可愛くて好きなんだけど、さすがにちょっと大きいから塞ぐね」
 やっていることはかなり大胆でドSだというのに、奏輔さんの笑みは優しい。
 唇にちゅっとキスをしてから、持ってきたガムテープを貼り付けた。
 それがまた、ひどく倒錯的な気分になって、よけいに感じてしまう。
 恥ずかしくなって視線を落とすと、奏輔さんの股間が膨らんでいるのが目に入った。もうすっかりEDは克服してしまったらしい。慣れてきたのか、勃っても普通に理性を保っているように見える。
 まあ、理性を保った結果が超ドSなわけだから、それはそれで大変なのだけれど。

 べく杯のコマを回すのもまどろっこしいので、途中から単にトランプを引いていくことにした。
 ただでさえハードな内容のカードが多いのに、痛みがすべて快楽へとすり替わってしまう身体は、「もっと、もっと、」と刺激を求めてしまう。
 『乳首舐め10』で洗濯ばさみを外されるのが寂しく感じたくらいだ。カリッと歯を立てられたのは、たぶん私の気持ちを汲んでくれたからなのだと思う。奏輔さんは、私の欲求を簡単に察してしまうようだ。

 たっぷり三時間くらいいじめられて、ようやくハードな攻めが終了した。
 この一ヶ月で一度はしたことがある事ばかりだったのに、もう今日は感じすぎて頭が真っ白だ。指の一本を動かすのすら怠い。
 ゆっくりと口のガムテープを剥がしてくれた奏輔さんは、おでこにちゅっとキスをして、「おつかれさま」と微笑んでくれている。抱きつきたいけれど、腕を挙げるのはちょっとしんどい。
 そんな私をよそに、奏輔さんは温かい濡れタオルを持ってきて、私の身体を全部拭いてくれる。
(きもちいい……)
 こんなに尽くしてくれるのにドSだなんて。こんなに理想の人と出逢えるとは思ってもみなかった。
 片付けを終えて横に寝転ぶ彼の方へ、ころんと転がってみる。
 まだ少し怠いけれど、奏輔さんに擦り寄ってみるくらいはもう平気だ。
「ちょっといじめすぎた?」
 ふるふると首を振って、
「……気持ちよかった」
と、彼の胸に額をつけたまま答えた。恥ずかしいけれど、ここで嘘をつくと今後この気持ちよさは望めない。
 奏輔さんは、ゆっくり髪を梳くようにして頭を撫でてくれている。それがまた、気持ちいい。
「奏輔さんは?」
 顔をあげて見ると、幸せそうな顔をして見つめ返してくる。
「予想以上に可愛かったよ」
「うう……それは恥ずかしいんだけど」
「瑞姫が楽しんでくれたなら、それで満足」
「でも……奏輔さんは、よかった、の?」
 手を伸ばして、彼の股間に触れながら聞いてみる。かなり早い段階から勃っていたのに、結局しなかったことが気になっていた。
「挿れるより、今日の瑞姫にはこっちの方がよかったでしょ?」
 それはまあそうだ。もともと私は性交そのものには興味が薄いし、今日の感じ方だと痛かったり苦しかったりする方がたぶん気持ちよかったのだと思う。
(でも……)
「奏輔さんは、それでいいの?」
 心配そうな私を見ても、彼は「ははは、」とのんびり笑っている。
「瑞姫の中はもちろん気持ちいいけど、瑞姫をいじめてる時がいちばん興奮してるんだもん。大丈夫、無理に我慢したり、瑞姫に気を遣ったりしたわけじゃないよ」
 変わらず穏やかな笑みを湛える様子からは、特に嘘を言っているようには見えない。
 まあ、自分だってSEXにあまり興味を示さないのにこんな特殊プレイは大歓迎とかだし、そういうものなのかもしれない。

 こうして奏輔さんとの連休初日は、怒涛の快楽の中過ぎていった。
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