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冷やしたり、熱くしたり

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 トイレから出てきた彼女は、ようやくスイッチが切れたようだった。
 ぷう、と膨れながら、僕の胸に顔を埋めて、ポカポカと僕を叩く。
「ほんっとに痛かったんですよっっ!」
「僕はちゃんと、本気で嫌ならやめていいって言いましたよ?」
「言った、け、ど……あんな風に言われたら……」
「姫はドMだもんねぇ」
「むう、専属執事のくせにナマイキ」
「姫の専属S執事ですから」

 それから、女体盛りで使わなかった刺し身と、冷凍の唐揚げを肴に、日本酒を飲み、しばらくまったりしたところで、本日の第三ラウンドを告げた。
「ところで姫、二回目のゲームの罰ゲームがまだなんだけど、どうする? 僕が入れたから、姫に選択権があるけど」
 数時間前のことを思い出したのか、ぱっと顔が赤くなって、目線を泳がせる。
「お尻を叩くのと叩かれるの、どっちがいいの?」
「叩かれる、の……」
「叩かれたいんですか?」
「叩かれ、たい、です……」
「じゃあ、お願いしてみませんか? 叩いてください、って」
「あ……ん……、私のお尻を、叩いてください……」
 彼女のスイッチが入るのがわかる。同時に、僕の嗜虐心もむくむくと膨れあがった。
「口だけじゃわからないな。叩かれる時には、どうするの?」
 意地悪く言ってやると、彼女は立ち上がって机の前まで行き、机に手をついた。今日も着ている僕のYシャツの裾を捲くり、尻を突き出す。
「私のお尻を、叩いてください」
「そんなに叩いて欲しいんだ」
 顔を真っ赤にしている彼女は、本当にかわいい。
「じゃあ、一回じゃかわいそうだよね。何回叩いて欲しい?」
 彼女のむき出しのお尻を撫でながら問うと、少し考えて「じゃあ、五回」と答えた。
「おねだりは?」
 半開きの唇から、熱い息が漏れる。
「私のお尻を、五回、叩いてください……」
 言い終わるか終わらないかのタイミングで、バチン、と叩く。最初はもっと手加減していたが、彼女の好みの力加減がわかってきて、最初からかなり思い切り叩けるようになった。
 甘い悲鳴が聞こえて、お尻がふわっと赤みを帯びる。
 二回、三回、四回。
 両方二回ずつ叩いたお尻は、もう真っ赤だ。
 最後の一回は、お尻を撫でながら、少し焦らしてから叩いてやった。

 上体を起こそうとする彼女を片手でとどめて、僕は彼女の秘部へと手を伸ばした。
 そこは、ぐしょぐしょに濡れている。
「あれ、どうしてこんなに濡れているのかな?」
 しらじらしく彼女に問うと、彼女は「汗……かも?」と嘘を言う。嘘をついた罰だともう一回叩いても良かったし、彼女もそれを期待していたのかもしれないが、僕はその嘘に乗ることにした。
「そっか、汗か。じゃあ、ちょっと冷やさないとね」
 そう答えて、ベランダの窓をカラカラと開ける。
 踏み台を持ってきて、彼女をベランダへと誘った。
 先週はこの踏み台に登らせてピンチハンガーで乳首を留めて立たせていたが、今日は踏み台に座らせる。お尻を叩いたばかりなので、座るだけでも熱い息を漏らす。着ていたYシャツのボタンを外して脱がせて全裸にし、脚を大きく開かせた。
「や……」
 小声で抵抗する彼女の唇に指を当てて、声を出さないようにと示す。
 彼女の耳元で、「だって、汗をかいているんでしょう?」と言ってやる。
 さらに、開いた脚をビニールテープで踏み台に縛り付けた。テラテラと光る秘部が丸見えでの恥ずかしい格好だが、これで彼女は脚を閉じられない。
 よほど恥ずかしいのか、手で隠そうとするので手首もビニールテープでくるくると巻き、頭上の物干し竿に吊るすように固定した。ついでに、胸もビニールテープで縛ってやる。
 まったく身動きが取れなくなった彼女をじっと見ていると、じわじわと愛液が溢れてきた。
 僕は無言で部屋に戻り、氷を持って戻ってきた。
 最初はベランダでお酒でも飲むと思ったのだろう。特に意に介さなかった彼女だが、僕が氷を手にとって秘部に近づけると、ひゅっと息を飲んだ。
「まだだいぶ汗をかいているみたいだから、冷やしてあげるね」
 そう言ってから、氷を下の口に飲ませる。氷は溶けながら、彼女の中につるりと入っていった。
 彼女は、出せない声を必死に我慢している。
 僕は、さらに氷を取って、また彼女の中に押し込んだ。
 氷は次々に溶けるので、グラス一杯の氷はすべて彼女の中に入った。指を入れて中をさぐると、中にはまだ氷がゴロゴロと入っていて、僕がかき混ぜると彼女の中で氷が躍った。
 我慢してはいるが、彼女は「あっ、んっ、」と時折声を漏らす。
「うん、ずいぶん冷えましたね。ああ、でも氷を使い切ってしまいました。僕、近くのコンビニまで行って買ってきます」
 「え?」と小さく答えた彼女に、「行ってきます」と告げてベランダを出る。財布とスマホを持って、部屋を出た。
 氷がなくなったというのは、もちろん嘘だ。そもそも、うちの氷は製氷皿で作っているので買う必要はない。いわゆる放置プレイというやつだ。今回は座らせているので、外から見えることはまずないだろう。隣の住人がベランダから身を乗り出したりすれば別だが、それこそ万に一つくらいの可能性だ。
 とはいえ、まだ夜風は冷たい。早めに帰ってやろう。
 コンビニで、明日の朝食に良さそうなものをいくつか買って、急ぎ足で戻る。ベランダに出ると、彼女はほっとしたような顔をした。
 顔は紅潮しているが、身体はやはり少し冷えたようで、触ると少し冷たい。物干し竿に固定しているビニールテープと、踏み台に固定しているビニールテープだけを外して立たせた。氷が溶けたのもあって、彼女の股はびしょびしょだ。タオルで拭って、まだ胸と手首を縛ったままの彼女を部屋へと招き入れた。

「今度はちょっと冷えすぎましたね。少し温めることにしましょうか」
 そう告げると、彼女はピクリと身体をこわばらせた。次にしようとしていることを予想したのだろう。
 僕はまず、ベッドの上に耐火性のシーツを広げた。椅子の上に上がって、天井の火災報知器を取り外し、電池を抜く。油分の多いアロマオイルを用意して、彼女を呼んだ。
 胸のビニールテープは取り去り、彼女の手首を拘束しているビニールテープには新しいビニールテープを通し、ベッドに固定する。アロマオイルを身体にかけて、優しく塗り拡げる。
 これで準備はできた。
 僕は、真っ赤な蝋燭を手に、彼女に見せた。
 この蝋燭は、彼女が自分で選んだものだ。先週、浣腸の道具を見ていた時に、一緒に買ったものだった。
 彼女の希望だが、彼女も実際に使うのは初めてらしい。
 好きか嫌いかすらわからないが、興味はあるというので「やってダメならすぐやめる」ということになっている。
 たった三週間でかなりいろいろやってきたつもりだが、さすがにこれは僕も緊張する。かなりSM色が強いプレイだと思う。でも……、やりたい。
 その気持ちは、彼女も同じようだった。
 少し照明を落として、蝋燭に火を点ける。芯の周りにロウを少し溜めて、彼女の胸にポタリ、と垂らした。
 彼女の身体が、ぴくん、と跳ねる。陸にあげられた魚みたいだ。
 さらに胸にポタポタと落としていくと、彼女は大きく声を上げながら跳ねた。
 一度蝋燭を置いて、彼女の口をガムテープで塞ぐ。深夜にこの声は、さすがにちょっとまずい。
 今度は、太腿にポタリ、と落としてみる。
 「んんっ!」と、出ない声をあげて、また跳ねる。
 ちょっと慣れてきたところで、
「乳首にも落とすよ」
と伝えると、彼女はゴクリ、と喉を鳴らした。ここまでは、敏感な部分は避けて、脂肪の多い部分にだけ垂らしていた。
 乳首にポタリ、とロウが落ちると、彼女はひときわ大きく「んんんっっ!」と哭いた。「やめる?」と聞くと、ふるふると首を振る。どうやら、気持ちいいらしい。
 意思確認をしたところで、また乳首にロウを落とす。反対の乳首にも、真っ赤になるまでロウを落とした。
 一度火を消して、肩で大きく息をする彼女をうつ伏せにさせる。アロマオイルを塗り拡げると、肌が敏感になっているのか、それだけで「んっ、」と声が聞こえた。
 今度は、お尻にロウを落とす。
 乳首よりは幾分平気そうなので、少しだけ蝋燭を肌に近づける。プレイ用の低温蝋燭とはいえ、あまり近づけると熱すぎるので、少しずつ、だ。
 もう一度仰向けにして、脚を大きく開かせる。
 アロマオイルを手に取り、豆を優しく触りながら、「ここはどうする? やってみる?」と聞くと、少し悩んでから、こくり、と頷いた。
 デリケートな部分なので、しっかり距離をとって上から落とす。一度目は、豆には当たらなかった。距離があるので難しい。位置を修正しながらポタリ、ポタリ、と落としていくと、彼女が大きく哭き、脚を閉じようとした。「やめる?」と尋ねると、ふるふると頭を振るので、「じゃあ、脚を開いて」と言うと、大きく脚を開いた。

 終えた時には、身体のあちこちに赤い点が散らばっていて、彼女は涙目になりながら大きく浅く息をしていた。やはり、蝋燭はなかなかにハードなものらしい。
 そんな状態の彼女に、「今、お尻叩いてもいい?」と訊く僕は、立派にサディストなのかもしれない。
 彼女を四つん這いにさせると、僕は、ロウで赤くなっている彼女のお尻を、思い切り叩いた。まだ口にガムテープを貼っている彼女が、大きく唸る。叩いた衝撃で、ロウのいくつかが弾け飛んだ。
「ねえ、十回、叩いてもいい?」
 彼女は目を見開いた。十回なんて、これまでに一度もやったことがない。ましてや、たった今、蝋燭責めというハードなプレイをしたばかりだ。
 しかし彼女は、少し逡巡して、頭を縦に振った。たぶん彼女も、未知の領域に足を突っ込んでしまったのだ。なにか、もう後戻りはできないような、倒錯した気持ちがあった。
「いーち、にーい、さーん、」
 数えながら、彼女のお尻を叩く。叩くたびにロウが散り、彼女が哭く。
 十回叩き終えた時には、ロウはほとんど残っていないのに、彼女のお尻は真っ赤に染まっていた。

「お尻、痛くない?」
「ん、大丈夫。まだピリピリはしますけど」
 妙な興奮に取り憑かれていた僕らだったが、今はまるで普通のセックスのピロートークのような雰囲気だった。
「蝋燭はやばいね、いろんな意味で」
「ですね」
 顔を見合わせて笑い合う。
 『色んな意味で』というのは、プレイのハードさと倒錯感の強さもだけれど、その後の片付けも含めての話だ。
 予習して知ってはいたけれど、身体のロウを剥がしていくのは、意外と手間がかかる。きちんとオイルを塗っていたのでマシだったが、それでも大変だ。しかも、剥がす時に肌の産毛を一緒に抜いてしまうので、剥がすたびに彼女は身体を跳ねさせて喘ぐ。一度剥がした口のガムテープを新しく貼り直したほどだ。
 まあ、姫の方は片付けの大部分もずっと刺激を受け続けていたわけだから、どちらかというとハードさの方が大変だったんだろう。
「でも、またやりたい、かな……」
 顔を赤らめて小さくつぶやく姫が、愛おしく感じる。不思議と、プレイ中に感じる嗜虐的な気持ちではなく、献身的に尽くしたいような種類の気持ちだ。
「今日はいろいろやったけど、嫌だったことはない?」
 そう、蝋燭が強烈過ぎたが、実は今日は昼間はバイブを仕込んで外出し、午後は浣腸しながらかなり痛そうなゲームをし、さらにベランダで放置プレイまでしているのだ。今更ながら、これはかなり変態なレベルだと思う。
「おトイレに行かせてくれなかった時のは、ちょっと大変だった、かな」
「無理なら行ってもいいって言ったのに」
「それも、だけど、……洗濯ばさみが、けっこう強くて……」
 「もうしない?」と聞くと、「ダメ、じゃ、ない、けど」と俯いて答える。結局、大変ではあったけれど、嫌いではないということだ。
 隣にいる彼女へ手を伸ばし、服の上から乳首を触る。
「もう痛くない?」
「ん、もう、平気」
 痛みが残っていないことを確認して、乳首を軽く摘んで引っ張る。
「縛ってる時よりも、胸の形変わってたもんね。ぎゅーっと引っ張られて、形が変わって……めちゃくちゃエッチだったよ」
「あっ、んっ、思い出しちゃ、や、だ……」
「乳首引っ張られてるのはいいんだ」
「んっ、いじわるっ、あんっっ」
「姫は『痛すぎるのは無理』って言ってたけど、自分が思ってる以上に痛いこと好きだと思うよ。僕も針とか傷の残ることはしようと思わないけど、そうでなければ、もっと痛いことできそう」
「そ、んな、こと、あっ、んっ」
「痛いこといっぱいしたし、熱いこともしたし、ああ、今日は冷たいこともできたよね」
 ゆるく乳首を摘んだり引っ張ったりしながら、会話を続ける。
「保冷剤にも耐えてたし、こっちは氷も飲み込んでたし」
 言いながら、空いていた手で股に手を伸ばした。
「んっ、保冷剤、す、ごく、冷たくて、んあっ、」
「でもほら、あの方が女体盛りも美味しいかなって」
「美味しかった、けどっ、んんっ」
 姫のスイッチが入り切らない程度に、ゆるゆると刺激を加えていく。これはこれで、ちょっと楽しい。
「ベランダもっ、急に、放置して、出かけちゃう、しっ、」
「姫が汗だとか嘘言うんだもん」
「う……、言った、け、どっ、外で、とか、恥ずかしく、てっ」
「恥ずかしさなら、夜のベランダより昼の繁華街でバイブ入れてることの方が上じゃない?」
「あれ、も、恥ずかしかった、もんっ、ああっ」
「じゃあ、もうしないの?」
「や、ん、時々、な、ら……」
 あ、これ以上やると、スイッチが入りそう。
 そう思って、姫の上下を刺激していた手を放す。
「や、ん……」
 「もう終わり?」とでも言いたげな顔で、こちらを見てくる。すでにわりとエッチなスイッチは入ってしまっているようだ。
「これ以上続けると、朝まで寝かせないよ?」
「それじゃ、誘ってるようにしか聞こえないんですけど」
 せっかく我慢したのに、姫が煽ってくる。マゾなスイッチが入っているわけではないのに、無自覚に煽ってくる辺りたちが悪い。
 姫の執事は、どうやら体力が必要らしかった。
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