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疑⑦
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「進藤さん、他に気づいた点等はありませんか?」
「他ですか? 後は……特に変わりはないかと」
「ありがとうございます。しかし、ふむ。ラグですか……何故なくなったのでしょうねぇ?」
「そこまでは流石に……この段階ではわからないですね」
「そうですねぇ。とりあえずはこの謎の女性について調べたい所ですねぇ」
「俺もそう思います」
「では……森野さん、髪の毛について調べ終わったら連絡をお願いします」
話を振られた森野は、軽く息を吐くと静かに口を開く。その表情からは呆れと……それでいてどこか期待のような物が込められているように感じられた。
「はいはい、わかっているわ。任せておいて頂戴」
「助かります。では、進藤さん行きましょう」
「わかりました。あの、失礼します」
先を行く朝倉の後を追うように、識も森野に一礼して洋壱の部屋を出る。一瞬振り返ると森野は既に自分の業務へ戻っていた。このまま見ていると辛くなると判断した識は、目の前の朝倉が靴に被せていたビニールを取っているのをマネし、彼に続いて今度こそ洋壱の部屋を後にした。
マンションの玄関を閉め、そのまま階段で一階まで降りて行く。今時珍しくエレベーターがないのだ。降りている最中、朝倉から声をかけられた。
「進藤さん、お尋ねしても?」
「なんですか?」
「久川さんはよくトラブルに合われていたと仰っていましたが、最近はどうでしたか?」
「わかりません……。先程も言った通り、アイツは本当に大事になってから話すので」
「抱え込む性格だったようですね、久川さんは」
「そうです……」
階段を降りつつ、識は外へ視線をやる。憎いくらいの青空が広がっている。
(こんなにも青い空が……眩しくてしんどいなんてな……。知りたくなかったぜ……)
「それで……朝倉刑事? もう午後も良い時間ですが?」
強引に話を振れば朝倉が自身の腕時計に視線をやる。そして、静かに口を開いた。
「そうですね、お腹も空きましたし……。食事にしましょうか」
「ちなみになんですが……食事の後はどうするんです?」
「それは食べてから考えましょう。空腹では頭も回りませんからねぇ」
「それもそうですね……」
一階まで到着した二人はそのまま出入口へ向かい外に出た。相変わらず他の捜査員達は各自仕事に集中しているようだった。
(不気味なくらい、俺の事を気にしねぇな? 一人くらい文句でも言いそうなもんだが……)
識が改めてそう思っていた時だった。中年の恰幅の良い男性が近づいてきた。白髪交じりの黒髪をオールバックにしているその男性の服装はカーキ色の上着に、紺色のスーツにノーネクタイの白いワイシャツ姿だ。眼光鋭いその男性は二人と対峙すると朝倉の方へ視線を向けて声をかけてきた。
「よぉ~朝倉? 相変わらず突飛な事をしているみたいだな?」
「そちらこそ、情報が早いですねぇ? 流石は竹田さん、抜け目がないですねぇ」
「そいつはこっちの台詞だわな。お前さんほど手段を選ばず成果を出す奇特な奴ぁいねぇさ」
「竹田さんにそう言って頂けるとは光栄ですねぇ」
「言うねぇ~。食えない奴め」
只ならぬ空気を漂わせている二人の会話に入れない識は、静かに息を飲む。竹田の気配に威圧されている事に気づいたからだ。
(刑事ってのは、皆こうなのか? やっぱり俺には……向いてねぇ)
「他ですか? 後は……特に変わりはないかと」
「ありがとうございます。しかし、ふむ。ラグですか……何故なくなったのでしょうねぇ?」
「そこまでは流石に……この段階ではわからないですね」
「そうですねぇ。とりあえずはこの謎の女性について調べたい所ですねぇ」
「俺もそう思います」
「では……森野さん、髪の毛について調べ終わったら連絡をお願いします」
話を振られた森野は、軽く息を吐くと静かに口を開く。その表情からは呆れと……それでいてどこか期待のような物が込められているように感じられた。
「はいはい、わかっているわ。任せておいて頂戴」
「助かります。では、進藤さん行きましょう」
「わかりました。あの、失礼します」
先を行く朝倉の後を追うように、識も森野に一礼して洋壱の部屋を出る。一瞬振り返ると森野は既に自分の業務へ戻っていた。このまま見ていると辛くなると判断した識は、目の前の朝倉が靴に被せていたビニールを取っているのをマネし、彼に続いて今度こそ洋壱の部屋を後にした。
マンションの玄関を閉め、そのまま階段で一階まで降りて行く。今時珍しくエレベーターがないのだ。降りている最中、朝倉から声をかけられた。
「進藤さん、お尋ねしても?」
「なんですか?」
「久川さんはよくトラブルに合われていたと仰っていましたが、最近はどうでしたか?」
「わかりません……。先程も言った通り、アイツは本当に大事になってから話すので」
「抱え込む性格だったようですね、久川さんは」
「そうです……」
階段を降りつつ、識は外へ視線をやる。憎いくらいの青空が広がっている。
(こんなにも青い空が……眩しくてしんどいなんてな……。知りたくなかったぜ……)
「それで……朝倉刑事? もう午後も良い時間ですが?」
強引に話を振れば朝倉が自身の腕時計に視線をやる。そして、静かに口を開いた。
「そうですね、お腹も空きましたし……。食事にしましょうか」
「ちなみになんですが……食事の後はどうするんです?」
「それは食べてから考えましょう。空腹では頭も回りませんからねぇ」
「それもそうですね……」
一階まで到着した二人はそのまま出入口へ向かい外に出た。相変わらず他の捜査員達は各自仕事に集中しているようだった。
(不気味なくらい、俺の事を気にしねぇな? 一人くらい文句でも言いそうなもんだが……)
識が改めてそう思っていた時だった。中年の恰幅の良い男性が近づいてきた。白髪交じりの黒髪をオールバックにしているその男性の服装はカーキ色の上着に、紺色のスーツにノーネクタイの白いワイシャツ姿だ。眼光鋭いその男性は二人と対峙すると朝倉の方へ視線を向けて声をかけてきた。
「よぉ~朝倉? 相変わらず突飛な事をしているみたいだな?」
「そちらこそ、情報が早いですねぇ? 流石は竹田さん、抜け目がないですねぇ」
「そいつはこっちの台詞だわな。お前さんほど手段を選ばず成果を出す奇特な奴ぁいねぇさ」
「竹田さんにそう言って頂けるとは光栄ですねぇ」
「言うねぇ~。食えない奴め」
只ならぬ空気を漂わせている二人の会話に入れない識は、静かに息を飲む。竹田の気配に威圧されている事に気づいたからだ。
(刑事ってのは、皆こうなのか? やっぱり俺には……向いてねぇ)
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