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疑⑤

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 洋壱の自宅であるマンションは、練馬区内の閑静な住宅街の中にある。狭い路地を二人を乗せた車が走る。見知った道だというのに、今日は何故か景色が遠い地にいるように思えた。
 
(よく景色が色あせて見えるだの言うもんだが……存外、こういうのを言うのかもな)
「もうじき着きますが……進藤さん、心の準備はよろしいですか?」
「今更、それを訊くんですか? 人が悪い」
「はは、否定できないですねぇ」

 あえてなのか、素なのか判別出来ない朝倉の態度に早くも慣れて来た自分に戸惑いつつ、識は話題を切り替える事にした。その方がまだ気分的に楽だと判断したからだ。

「それで? 入室許可があるとして……俺は何をすればいいんですか? 金品等の貴重品の確認とかです? でも、それは遺族と警察のやる事ですよね?」
「おっしゃる通り、貴重品等に関しては既にご遺族に確認して頂いています。なので、進藤さんには他の所を見て頂きたいのですよ」
「他の所……?」
「そうです。……さて、着きましたねぇ」

 視界に入ったのは、規制線とその警備に当たる警察官と……報道陣の姿だった。洋壱の不審死はやはり世間の好奇心を煽ったらしい。それに不快感を覚えながらも、識は朝倉誘導のもと車を降りた。報道陣の間を器用に避けて進んで行く朝倉の後に識も続く。朝倉が近くの警察官に警察手帳を見せ、小声で話しかけると警察官は一瞬ため息を吐きながら識の方へ視線を向け、規制線の中へ入る事を許可した。

「さぁ行きますよ、進藤さん。好奇の目に向き合う必要はないのでね?」
「それもそうですね……」
「あぁ、中へ入る前にこれを」
「手袋ですね。まぁ確かにややこしくなりますし、何より下手に指紋を付けたら迷惑になる」
「そこまで言ってはいませんが、ご理解感謝します」

 二人して白い手袋をはめて規制線の中に入ると、何人かの警察官や鑑識官と思しき人達とすれ違った。皆自分の仕事に集中しているためか、またはのか……こちらへ視線を向ける者は誰一人としていなかった。

「さて、ここですねぇ」

 あっという間に件の洋壱の部屋までたどり着いた。五階建ての鉄筋コンクリート造りながら少々古めな印象を与える建物の最上階。その真ん中503号室の前に立つと朝倉が扉を二回ノックした。洋壱の住んでいたマンションにはインターフォンがないのだ。数秒して、中からややハスキーな女性の声が響いてきた。

「はぁ……朝倉刑事? そのわざとらしい律儀な態度、止めてもらえるかしら?」
「はは、手厳しいですねぇ。鑑識官の貴女を頼りにしているからこその対応だというのに」
「まぁ、確かにあんたくらいな者ね……女でありながら出世している私へ不純でない好意的な態度とそれを上回る人使いの荒さはね?」
「誉め言葉として受け取らせて頂きますよ。では、失礼ながら中へ入りますが……同行者がいるのも把握済みですよね?」
「聞いているわよ……はぁ、まさか被害者の友人に協力要請するなんてそんなのあんたくらいなもんよ。ま、成果を出しているからこそ許されているのだけど……だからこそあんたには敵も味方も多いのよ? 気を付けなさいな?」
「ご忠告どうもです。さて、では改めて入りましょうか? 進藤さん」
「え? あ、はい」

 突然名指しされてつい驚いてしまった識だったが、気を取り直し覚悟を決めて扉を開けた朝倉の後に続き、洋壱の部屋へと足を踏み入れた。
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