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疑③
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「心当たりはない……という事でよろしいですか?」
識が尋ねると林田は頷いたが永沢の方はふと何かを思い出したように口を開いた。記憶を辿っているのだろう、その口調は少したどたどしかった。
「えと……去年? でしたかね? その日は確か……そう。二人の休憩時間がたまたま合って、それで……二人で定食屋に入ろうとした時に……視線を感じたんです」
「視線、ですか?」
「は、はい。視線です。物陰からというか、なんか……こう……見られている? そんな感覚がして久川に店の中に入ってから尋ねたんです。そしたら……ちょっと疲れた顔で『気にしない方が良い』と……」
「洋壱……失礼。彼がそう言ったと?」
「その、証明する術はありませんが……確かに言っていました」
ここまで聞いて識は顎に手を当てた。その様子を見て、横に座っている朝倉が識に向かって声をかけた。
「進藤さん、何か思い当たる事が?」
「永沢さんの証言通りであるなら、久川洋壱は何かのトラブルを抱えていた可能性が高いと思います」
「その根拠は?」
「根拠というにはあまりに乏しい話なんですが、アイツがそう言う時は大抵厄介な事に巻き込まれていて……だいぶ事が大きくなってから発覚するんです。俺もアイツの両親もそれで何度怒った事か……」
識の話を一通り聞いた朝倉は手にしていた三色ボールペンを顎に当てた。その表情は相変わらず穏やかそうで全く読めず、識は彼の感情を読み取ろうとするのを諦めた。数秒もなかっただろう、朝倉はすぐに口を開いた。
「証明するのは確かに難しい話ではあります。ですが、視線……何者なのでしょうね? 気になりますねぇ」
「朝倉刑事も気になりますか?」
「えぇ進藤さん。これは大事な手がかりの一つですしね? さて、では我々からお伺いしたい事は以上です。永沢さんと林田さんから何かありますか?」
話を振られ、林田が口を開いた。その声は先程よりも沈んだ感じがした。
「その……久川君の死の真相がわかる事を願っています」
「ありがとうございます、林田さん。永沢さんもありがとうございました」
「あ、は……い」
「何か腑に落ちない事でも?」
朝倉からの問いかけに、永沢が額の汗を拭いながら呟くように答えた。
「その、何か……何かを忘れているような……そんな気がしたんですが……思い出せなくて。すみません……」
「いえ、構いませんよ。では、何か思い出したらこちらまでご連絡下さい。林田さんもそれでよろしいですか?」
「勿論。ご協力させて頂きます」
「重ね重ねありがとうございます。それでは、進藤さん行きましょうか?」
「はい。では……ありがとうございました」
識が礼を言ったタイミングで、四人揃って立ち上がる。そして、林田が会議室の扉を開け、識、朝倉の順で会議室を出た。それから、林田の案内で受付前まで戻り、エレベーターが到着したのを確認して乗り込み、その場を後にした。
降りて行くエレベーターの中、識は深く息を吸って吐いた。予想以上に緊張していたらしい。そんな識の方へ朝倉が一瞬視線を向けるが、ちょうどエレベーターが目的である一階に到着したため、二人は降りてそのままビルの外に出た。
「いや~やはり冷えますねぇ」
「そうですね……」
「進藤さん、何か気になる事がおありで?」
「その……今更になりますが、洋壱の死は事件性が高いというの、公表してないんですね?」
「そうですねぇ。不審死として、自殺か事故か、事件かで調べている……というのが世間において報道されている所ですね。ちょうど今朝くらいからですかね?」
「今朝? 随分遅いですね?」
識の疑問に朝倉は食えない表情で静かに答えた。その声色はいつも通りだったが、どこか呆れが入っているようにも感じられた。
「事件を早期解決するために、情報統制が行われているんですよ。まぁ確かに、詳細を報道すれば好奇の恰好の的ではあります。ただ……動きにくくなるのも事実なのでね? さじ加減が難しく、困りものなのですよ」
識が尋ねると林田は頷いたが永沢の方はふと何かを思い出したように口を開いた。記憶を辿っているのだろう、その口調は少したどたどしかった。
「えと……去年? でしたかね? その日は確か……そう。二人の休憩時間がたまたま合って、それで……二人で定食屋に入ろうとした時に……視線を感じたんです」
「視線、ですか?」
「は、はい。視線です。物陰からというか、なんか……こう……見られている? そんな感覚がして久川に店の中に入ってから尋ねたんです。そしたら……ちょっと疲れた顔で『気にしない方が良い』と……」
「洋壱……失礼。彼がそう言ったと?」
「その、証明する術はありませんが……確かに言っていました」
ここまで聞いて識は顎に手を当てた。その様子を見て、横に座っている朝倉が識に向かって声をかけた。
「進藤さん、何か思い当たる事が?」
「永沢さんの証言通りであるなら、久川洋壱は何かのトラブルを抱えていた可能性が高いと思います」
「その根拠は?」
「根拠というにはあまりに乏しい話なんですが、アイツがそう言う時は大抵厄介な事に巻き込まれていて……だいぶ事が大きくなってから発覚するんです。俺もアイツの両親もそれで何度怒った事か……」
識の話を一通り聞いた朝倉は手にしていた三色ボールペンを顎に当てた。その表情は相変わらず穏やかそうで全く読めず、識は彼の感情を読み取ろうとするのを諦めた。数秒もなかっただろう、朝倉はすぐに口を開いた。
「証明するのは確かに難しい話ではあります。ですが、視線……何者なのでしょうね? 気になりますねぇ」
「朝倉刑事も気になりますか?」
「えぇ進藤さん。これは大事な手がかりの一つですしね? さて、では我々からお伺いしたい事は以上です。永沢さんと林田さんから何かありますか?」
話を振られ、林田が口を開いた。その声は先程よりも沈んだ感じがした。
「その……久川君の死の真相がわかる事を願っています」
「ありがとうございます、林田さん。永沢さんもありがとうございました」
「あ、は……い」
「何か腑に落ちない事でも?」
朝倉からの問いかけに、永沢が額の汗を拭いながら呟くように答えた。
「その、何か……何かを忘れているような……そんな気がしたんですが……思い出せなくて。すみません……」
「いえ、構いませんよ。では、何か思い出したらこちらまでご連絡下さい。林田さんもそれでよろしいですか?」
「勿論。ご協力させて頂きます」
「重ね重ねありがとうございます。それでは、進藤さん行きましょうか?」
「はい。では……ありがとうございました」
識が礼を言ったタイミングで、四人揃って立ち上がる。そして、林田が会議室の扉を開け、識、朝倉の順で会議室を出た。それから、林田の案内で受付前まで戻り、エレベーターが到着したのを確認して乗り込み、その場を後にした。
降りて行くエレベーターの中、識は深く息を吸って吐いた。予想以上に緊張していたらしい。そんな識の方へ朝倉が一瞬視線を向けるが、ちょうどエレベーターが目的である一階に到着したため、二人は降りてそのままビルの外に出た。
「いや~やはり冷えますねぇ」
「そうですね……」
「進藤さん、何か気になる事がおありで?」
「その……今更になりますが、洋壱の死は事件性が高いというの、公表してないんですね?」
「そうですねぇ。不審死として、自殺か事故か、事件かで調べている……というのが世間において報道されている所ですね。ちょうど今朝くらいからですかね?」
「今朝? 随分遅いですね?」
識の疑問に朝倉は食えない表情で静かに答えた。その声色はいつも通りだったが、どこか呆れが入っているようにも感じられた。
「事件を早期解決するために、情報統制が行われているんですよ。まぁ確かに、詳細を報道すれば好奇の恰好の的ではあります。ただ……動きにくくなるのも事実なのでね? さじ加減が難しく、困りものなのですよ」
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