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13話 トロールの中の人スカウトされる

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わらわが異世界からの転生者に会ったのは、いまから百五十年前。この地にオーガ退治にきた日本からの転生者を名乗り、後にワ国を統一した百田朗ひゃくたろうが最後です」
悪韋のあなたは転生者か?という問いにアルテミスはそう答えた。
それまで魏府国の劣化版だったワ国の文化が独自のものに変化したのも百田が自分の世界の文化を持ち込んだのが理由である。
またマッサチン国の冒険者ギルドも百年ぐらい前にきた異世界人が設立したものだ。

「悪韋殿がワ国に縁のある者と聞いて鑑定して貰いたいものがあるのですが」
ナオはオズオズと以前アルテミスに刀だと鑑定した剣と弓を悪韋に差し出す。

「弓は鑑定するまでもなく和弓ですね。刀は、見た目は」
悪韋は刀に手を伸ばしてゆっくりと抜こうとするが、刀はトロールの力をしても抜けない。

「ふむ」
柄の目釘を爪で器用に押し出しトンと叩く。
するとあっさりと抜けてなかごには作者名らしい百の文字が刻まれていたのが確認された。

「柄の造り、竹製の目釘、なかごに刻まれた作者の銘。刃のほうは解りませんがアルテミスさんの鑑定で間違いないと思います。いいなぁ、いつかワ国に行ってみたいなぁ」
悪韋は組み立てなおした刀をかざして呟く。
長さが百二十二センチある刀だが三メートル近いトロールが持つとショートソードである。

「ところで悪韋殿。うちで働く気はありませんか?今後、村の建設にはトロールあなたのような種族の力が必要なんですよ」
刀を眺めていた悪韋に対しアルテミスが誘いをかける。
異世界人の有用性はアルテミスもよく知っていた。

上手くいけばこのソウキ領は文化的にも技術的にもかなり大きく発展する可能性がある。
逆に言えば他国に流出する事態だけは避けなければならない。

「月に大銀貨五枚の俸給。住宅はいまはありませんが用意します。あと耕作用の土地を100m×100m。労働力としてスケルトン四体を供与しましょう」
「大銀貨五枚の価値が解らないがソロ活動に限界を感じていたのは確かだし、しばらく厄介になるよ。ところでスケルトン四体ってなんだい?」
アルテミスは大銀貨五枚がソロモンという都市なら大部屋なら日に二回の食事付きで一か月は暮らせる金額だと告げる。(当然のことだけだが二人部屋なら割高になる)
またスケルトンはコストのかからない労働力で、貢献次第でスケルトンの数を増やすこととスケルトンも経験を積むと進化することを教える。
そして契約書を交わしたのちソウキ領の領主であるリュウイチとの謁見。
スケルトンに命令することのできる指輪の貸与があることがあることも。

「ナオ。転生者との交渉に関し貴女の功績は素晴らしいものがあります。ソウキさまの許可が下り次第、貴女の村のエルフ全員の経済奴隷の契約を解除しましょう」
「ほ、本当ですか?」
思わぬ大盤振る舞いにナオはぽかんと口を開ける。

「え、俺そんなに価値あるの?」
「まともな意思疎通ができるトロールというのは労働力としても戦力としても貴重です。それ以上に妾が悪韋殿に期待するのは知識ですが」

「え?俺そんなに賢くは・・・」
「悪韋殿の常識が我々にとって黄金に勝る知恵であることもあるのです。刀があのように分解できるとは思いませんでした。そして価値がある知識は高い報酬にて報いるつもりです」
骸骨なのに凄みのある微笑みを浮かべてアルテミスは頭を下げた。
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