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69話 菜緒虎、僧操孟徳本人と会う
しおりを挟む「おお、貴殿が菜緒虎殿ですな、僧操孟徳だ」
拠点に帰ってきた菜緒虎を迎えたのは、白に僅かな栗色が混じる髪に鷲のように鋭い紺色の瞳。僅かに皴はあるがキリリと整っている顔の壮年の男性。
頭の上にある熊人の特徴である熊耳がカッコよさを1割ほど下げている。
僧操孟徳50歳。人間寄りの熊人の男性。
20歳で魏府国の科挙、いわゆる公務員試験に合格し尚書省に入省。
工部をはじめとした六部すべてに在籍し、47歳の時に沛郡の太守に任じられた。
ちなみに劉美に出会ったのは礼部に所属していた46歳の時である。
名称は古代中国の組織と同じだが、内容は違いがあるので魏府王国の政治体制について簡単に説明しておこう。
興味がない人は魏府国には門下省、尚書省、中書省の三省と吏部、戸部、礼部、兵部、刑部、民部の六部があると覚えて二つ目の☆に進んで欲しい。
☆
まず頂点は魏府王。現在の王は壇羽十二世。
魏府王の下には門下省、尚書省、中書省の三省がある。
門下省は王の三等親以内の一族が所属する組織。中書省から上がってきた政策法案を王に上奏したり、王から出た政策や法案にアドバイスを行う顧問団。別名一門衆。
中書省は尚書省から上がってきた要望を法案化して門下省に提案。また門下省から降りてきた政策や法律を精査し、問題があれば門下省に差し戻す部門。
尚書省は中書省が法制化したものを基に政治を行う部門。
尚書省の下には更に吏部、戸部、礼部、兵部、刑部、民部の六部と呼ばれる組織が存在する。
吏部は官僚の仕事を評価する人事部。
戸部は簡単に言えば国の財政を管理する財務省。
礼部は教育や宮廷での礼儀作法を教える日本でいう宮内庁と他国の作法に詳しいため外交も行う外務省をあわせた組織。
兵部は軍を統括する国防省。
刑部は裁判と警察機構を統括する司法省。
民部は地方行政を行う組織。
東呉州、西蜀州、南晩州、北涼州、中魏州を治める五人の州牧がそれぞれの州の意見要望を持ち寄って協議し、中書省に陳情をを上げるのが主な仕事だ。
☆
「菜緒虎です」
肯定しつつ右手を差し出す。
僧操の風貌は、クレで預かっている孫の僧植にそっくりだ。
「子建(僧植)は元気にしているかね」
「はい。劉美殿が文を関翅殿と張緋殿が武を叩き、いえ、指導を受けております」
菜緒虎は、乾いた笑いを浮かべて答える。
「ところで、この地まで司令部を下げた理由をお聞きしても宜しいでしょうか」
漫寵がモミ手をしながら尋ねる。
洪水で率いていた部隊の後方に控えていた輜重隊に損害が発生し、司令部を下げたという話は聞いているのだが、直接聞きたいのだろう。
「王都に食糧支援の要請をしている。集積されるのはこの街だ」
僧操の言葉に漫寵の目が点になる。
「ちなみに、どのくらいの量が?」
「2万5千を1か月維持できる」
さらに漫寵の顔がみるみると蒼くなり、そして死んだ魚のようになる。
漫寵は、近い将来に始まるデスマーチを覚悟したようだ。
「な、菜緒虎さま。ご相談したいことが・・・」
その顔つきから、単純な労働力として生きた鉄像を借り受けたいのだと察知する。
休むことなく荷物を所定の位置に運んでくれるという労働力を確保しない手は無いのだ。
「菜緒虎殿、儂からも依頼がある。ここから建業城までの道路整備をお願いしたい」
もともと山野を生活圏とする獣を祖とする獣人が多い魏府国では、国防の関係もあって道路が余り整備されていない。
そこに、今回の地震と大雨による洪水で致命的に破壊されたのだという。
「よくここまで撤退出来ましたね」
「そこは熊人であるこの体に感謝だな」
僧操は、口角を上げて笑う。
もっともそのおかげで、道路整備の重要性を体感したらしい。
「いくら出せるかを提示してください。本国と相談しますので」
「それは構わんが時間は」
「配下のロック鳥で伝書すれば、往復で二日とかからないでしょう」
菜緒虎は笑って提案をする。もっとも連絡そのものはメッセージで直接アルテミスに連絡すれば結論が出るのに半日もかからないのだが。
「そうだな。手付で大金貨5枚(青銅貨で500万)。白金貨で5枚(青銅貨で5千万)を5年払いでどうか」
即座に値段が提示される。どうやら道の整備云々は、ここにくるまでの道のりのかなり早い段階で検討していたということが窺えた。
「では、本国に問い合わせ致しますのでお時間をいただけますか?」
「良い返事をお待ちしています。さて、返事が来るまでに、清皇の外周に巡らされた堀と土塁の見学をさせて貰おうか」
ポンと膝を叩いて僧操は立ち上がった。
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