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4.バカ

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 お兄さんの部屋のピンポンがある場所はちょっと高い。僕は背伸びをしてピンポンのボタンを押した。

 ピンポーン。

 音がしただけ。お兄さんは出てこない。

 ピンポーン。ピンポーン。

 もう二回ピンポンしたら、お部屋の中から音が聞こえてきた。それで少し待っていたらガチャっとカギの音がしてドアが開いて……Tシャツにダボダボのズボンを履いたお兄さんが凄く怖い顔で立っていた。

「……昨日の今日で何しに来た?」

 顔だけじゃなくて声も怒ってるみたいだ。お兄さんは髪を結んでいなくて、顔のあたりの髪を邪魔そうに手でどかした。
……やっぱり怒ってるんだ。

 僕はあわててリュックを下ろしてチャックを開けようとした。
 お兄さんは家のなかをちらっと見た後、「あー……そうだな。とりあえず入れ」とめんどくさそうに言った。僕はお腹のとこでリュックを抱えたままお兄さんの部屋に入った。

 リビングには、知らない人が二人座っていた。
 テーブルの前。一人は女の人で、髪を後ろでギュッと縛っていて、その髪がお尻のとこよりも長くて床にくっついていた。もう一人は男の人だ。お兄さんよりも若くて大人の人なのか大人の人じゃないのかよくわらない感じがした。二人ともスーツを着ていた。
 僕を見つけた女の人は、びっくりした顔で「その子……」と言った。

……僕の知らない人。

 怖いから僕はお兄さんを見た。お兄さんは僕のことを見ていなくて、男の人と女の人のことを見下ろし、バカにしたみたいに口だけ笑っていた。――なんとなくわかった。お兄さんは二人のことが嫌いなんだ。
 お兄さんはテーブルを挟んでスーツの人たちの前にどすっと座ると、二人のことを見たままで僕に言った。

「座れよ、サクラ」

 僕はあわててお兄さんの隣に座った。そうするとお兄さんはようやく僕のことを見て、目の横にちょっと皺をつくるみたいにして笑ってた。

「そんなビビんなって。俺の仕事仲間みたいなもんだからさ」

 お兄さんの仕事……ヒーローのこと?

 首をかしげる僕の頭を上からガシッと掴んで、男の人たちのほうを向かせながら言った。

「ほら、お前も自己紹介しろよ。名前と――」

 僕の名前?
 ちょっとだけ考えて、僕は『おうじ』じゃなくて「さくら」と言った。

「で、お前は俺のなんだ?」
「おなほ」

 その瞬間、お兄さんがブッとふき出して笑った。スーツの男の人は目を大きくまるめて固まっていて、女の人は真っ赤な顔でバンっと机を殴った。

「お前!! 子供相手になにを言わせてる!?」
「別にぃ? 事実だって。コイツ馬鹿だからなんでもヤらせてくれんだよ。なあサクラ?」
「このゴミくず野郎が!!」

 女の人がお兄さんの首のところに掴みかかった。
 首がしまってしまいそうだけど、お兄さんは楽しそうに笑ったまま、抵抗しないで女の人に掴まれていた。

「最低なヤツだと思っていたがここまで最低だったとはな。まさか本当におかしな真似をしたわけじゃないだろうな?」
「したよ? でもそれがどうした? まさかお前、人間様が食用の家畜に突っ込むのまで犯罪だとか言わねえよな? どうせ腹に入れんだからむしろ有効活用でいいじゃねえか」
「家畜じゃない! 相手は人間だ! 私たちも人間で、お互い最低限の――」
 
 お兄さんは最後まで話を聞かなかった。

「ぎゃーぎゃーうっせえな」

 お兄さんが女の人の手首を掴み返す。
 女の人がびっくりしたように手を引っ込めようとするけど、お兄さんは無理矢理自分のほうに引き寄せて、女の人の顔に、鼻がぶつかりそうなくらい近くまで顔を近づけた。

「心配すんなよ。ヤんのに飽きたら一番にわけてやるって。いつも世話んなってるし――なあ?」

 さっきまでと全然違う。笑ってない……静かで重たくて、すごく冷たい声だった。
 女の人からもさっきまでの勢いは消えていて、おでこに汗をかきながら顔を引きつらせて、それでも震えた声を、女の人は絞り出した。

「……そういうことではなく……」
「お綺麗な生き方してると大変だよなぁ? でもな、いくら人間ヅラしたところで、テメェがガキの柔らか~い肉が大好物のバケモンなのは変わんねえんだよ」

 お兄さんは何も言えなくなっている女の人の手を離すと、バカにするように「俺といっしょ」と最後にハートマークが付きそうな声で言って笑った。
 女の人は何も言い返さずに下を向く。前髪のせいで顔が隠れて見えないけど、体が少し震えているように見えた。今まで黙っていた男の人が「カザネさん」と女の人の肩を叩くと、女の人は下を向いたまま立ち上がった。

「……桜次くん」

 元気がなくなった女の日との声が、突然僕の名前を呼んだ。
 女の人は泣くのを我慢しているような顔で僕を見下ろしていた。

「こんな男に会うのはやめたほうがいい。……君を思っての忠告だよ」

 僕にはこれまでの話はよくわからなかったけど、お兄さんが女の人のことが嫌いでいじめたことだけはわかった。だけど僕は、女の人に返事をしないでお兄さんの腕に抱き着いて顔を隠した。
 少しして、行くぞ、と女の人が言って、知らない二人はお兄さんの部屋から出て行った。僕とお兄さんの二人だけになると、お兄さんは急に大きな声で笑いだした。

「見たかよあのクソ女の顔! やべー超スッキリした。今まで散々人のこと見下してきやがって。自分だって同じ穴のムジナのくせにな」

 お兄さんが僕の頭をぐりぐり撫で始めたから、僕はお兄さんの腕に抱き着くのをやめてお兄さんを見た。お兄さんはやっぱり笑っていて、でもすぐに笑うのをやめて、眉毛をぎゅっとした顔をした。

「あー……お前さ。……体大丈夫か」

 よくわからなかったから僕は頷いた。

「痛いとことかないか」

 また頷いたけど、本当はお尻が痛い。でも黙っていた。
 お兄さんは「あっそ」と言って、急に怒った感じになって「何しに来たんだよ」と僕に聞いてきた。
 そうだ。僕がお兄さんのお部屋にきた理由。――僕は急いでリュックを開けて宝箱の缶を出した。

「なんだそれ。クッキー?」
「宝石」

 僕は缶の蓋を開けてお兄さんに見せた。
 缶の中には大きいのとか小さいのとかの石が七個入っている。真っ白くて丸いのもあるしピンクや水色の透明っぽい石もある。全部僕が公園で拾った宝石の石で、僕の宝物だ。

「これがダイヤでしょ、これがルビー、これが――」
「あほか。全部ただの石ころだろうが」
「一個あげる」
「は? いらねーよこんなゴミ」
「ゴミじゃないよ、宝石だよ」
「ゴミだろうが。どう見ても」

 どうしよう、と僕が困っていると、お兄さんが聞いてくれた。

「で、なんでその『ホーセキ』を俺に持ってきた?」
「怒らないでほしかったから」
「あ? 誰が?」
「お兄さん。昨日」

 お兄さんは変な顔をして黙った後、ちょっとしてから「怒ってねえだろ」とぼそっと言った。
 怒ってなかったの?
 でも、お兄さんは昨日急に冷たくなって、もう帰ってこなかった。もし怒ってなかったのなら、どうして急に変になったんだろう。

「つーか、仮に俺が腹立ててたとして、お前になんの不都合があんだよ? 別にいいだろ。あんなことされといてさ――もう二度と会わねえようにしとけよ」
「……会っちゃだめ?」
「ダメっつーか、怖いだろ、俺のこと」

 怖い? どうだろう? 僕はお兄さんが怖いのかな? ……よくわからない。
 答えられなくて、僕はお兄さんを見た。
 お兄さんも僕の目を見たまま、僕の手首をがしっと掴んできて――僕は宝物の缶を床に落としてしまった。

「あっ……」
「またお前に酷いことするかもしれねえぞ」

 そう言った、お兄さんの声は少し怖かった。

「酷いこと……?」
「また昨日みたいなことするかもしれねえだろ。お前が嫌がっても、痛いっつって暴れても無理矢理押さえつけて、お前のケツにチンコ入れて自分だけ気持ちよくなるかもしんねえぞ」
「……うん」

 昨日のことは……よくわからない。
 痛かったとは思うし、なんか気持ち悪かった気もする。だけどもうアレをしないでほしいとは思わない。だって、二人とも裸でくっついているとき、僕はすごくうれしかった。お兄さんは僕をぎゅーっとしてくれるから、うれしかった。

「嫌だろ。まだガキのお前に、あんなクソみてぇなこと……」

 僕は首を横に振った。「は?」とお兄さんが眉の間にすごく皺を寄せた。

「お前わかってんのか? レイプされてんだぞ、レイプ」
「……うん」
「いや、わかってねえだろ! 嫌だったって言えよ、普通に!」
「……うん」

 僕が返事すると、お兄さんはテーブルをがんっと蹴っ飛ばした。テーブルは転がるみたいにして部屋のすみまで吹っ飛んで、お兄さんは、急に僕の手を引っ張った。
 転びそうになった僕がお兄さんの胸に倒れこむ。
 突然、お兄さんは僕の肩に噛みついてきた。

「痛いっ!!」

 僕は叫んでいた。
 すごく痛かった。硬い歯が食い込んできて、肩のところをゴリゴリとつぶすみたいに食い込んできて――ぎりぎりっと体が痛む。

 びっくりした僕がお兄さんの体をいっぱいたたくと、お兄さんはやっと噛むのをやめてくれた。

「怖いだろ」

 お兄さんは言った。お兄さんの口元は、少しだけ笑っているように見えた。

「神社でのこと覚えてんだろ。お前のことも食うかもしんねえぞ」

 覚えてる。神社のことは。
 だけどお兄さんが食べるのは悪い奴で、僕は悪いことをしてないからお兄さんは僕を食べたりしない。
 そう言いたかったけど、うまく言葉が出て来なくて、つっかえながら僕がようやく言えたのは、「お兄さん」と「ヒーロー」の言葉だけだった。

「あ?」

 お兄さんは一瞬だけ変な顔をしたけど、すぐに「あー、そーだな」と笑っているような顔を作った。

「俺は確かに悪いやつを食う。けどな、悪モン以外を食えないってわけじゃない。あのとき女の腹を生きたまま食いちぎったみたいに、お前のことだって、その気になりゃ簡単に食い殺せんだよ」

 お兄さんの手が僕の服の中に入ってきて、僕のお腹を撫でる。

「お前、全部柔らけぇもんな。マジで簡単だぞ。肌のなかまで歯を立てて、中の肉を一気に食いちぎんだよ。……痛ぇぞ。血が噴き出すんだ。ブシャーってな。で、痛いとか助けてとか泣き叫んで暴れんだよ。でも無駄だ。俺は顎の力だけじゃなくて、全身の力が普通の人間よりずっと強い。暴れようが反撃しようが無理矢理押さえつけて、相手が死ぬまで肉を食い続ける。――そういう生き物だ」

 怖いだろ、と僕を見て、お兄さんは笑った。
 怖いと思った。
 だって、僕は痛いのも死んじゃうのも怖い。
 食べられるのは怖い。

「怖い……」

 泣きそうになって、僕が言うと、お兄さんは笑うのをやめた。
 お兄さんはすごく怖い顔をして、僕を睨んだ。

「だったら二度と俺に近づくな」

 怖い――だけど、それはいやだった。だから僕はお兄さんの服を引っ張った。

「あ?」
「きらい?」

 僕が聞いても、お兄さんは答えてくれなかった。
 もう一回お兄さんの服を引っ張って、それから急いで床に転がっていた白いダイヤを拾って――ルビーとサファイアも、それあと月の石と――お兄さんの両手を開いて、全部の宝石を乗せて、お兄さんの手をぎゅっと閉じた。

「……なんだよこれ」
「あげる」
「…………」
「ぜんぶ、あげる」
「……お前。俺のことが怖いんだろ?」

 怖い。
 お兄さんに食べられるのも、お兄さんのいつも怒っているみたいな顔も、怒っているみたいな喋り方も……お兄さんはヒーローでカッコいいけど、お兄さんはいつもだいたい怖い。
 だけど昨日、お兄さんと一緒にいたら嬉しいことばっかりだった。
 これから先の毎日が『昨日』だったらいいなと思った。

「怖いと……一緒にいちゃだめ?」

 お兄さんは何も答えてくれなかったけど、両手いっぱいに持っていた石を床に置いた。それで、空っぽになった手で、もう一度、両手いっぱいに石を持っていたときの形を作った。お兄さんにあげる宝石はもうなかったから、僕はお兄さんの手の上に僕の手を置いた。

 僕よりもずっと大きなお兄さんの手。
 お兄さんは僕の手をぎゅっと握って、怖い顔でその手を見下ろしたまま、人形みたいに動かなくなった。

 僕は少しだけお兄さんに近づいた。      
 お兄さんはやっぱり動かなくて、もう少し体を近づけて、それから、お兄さんの胸に顔をくっつけた。お兄さんの心臓が、ドン、ドン、と大きな音を立てていた。
 お兄さんが大きく息を吸った。
 
 手が離れた。

 次の瞬間、気が付いたら、僕はお兄さんにぎゅっと抱きしめられていた。息ができないくらい、僕はお兄さんの腕の中にいた。

「動くなよ」

 お兄さんは言った。あんまりくっつきすぎていて、お兄さんがどんな顔をしているのか見ることはできなかった。
 お兄さんが息をするのがわかる。
吸って、吐いて……お兄さんの体が静かに動く。

「動くなよ」

 お兄さんはもう一回言った。
 お兄さんの太ももの上に乗っかって、お兄さんの上に座っている僕のお尻に、変なごりごりしたのがあたっている。
 それが何か本当は分かっていたけど……わかっていないことにして、お兄さんの体にぎゅっとしがみついた。

「……動くなって。また昨日みたいなことになるぞ」
「服がないほうがくっつくよ」

 消えてしまいそうなくらい小さな声が、「わかってんのかよ」と聞いてきた。

 うん。

 でも、昨日……服を着ないでぎゅっとしてくれていたときのほうが、ずっと楽しかったから。

 僕はお兄さんの服の下のところを掴んで、上に引っ張った。お腹のところまでしか捲れなかったけど、すぐにお兄さんは僕から体を離して、自分で服を脱いだ。

 きっと、また痛いんだろうな。
 そう思ったら急にめんどうくさいみたいな気持ちになったけど、でもやっぱり、お兄さんにまた昨日みたいにぎゅってしてほしかった。だから僕も服を脱いだ。
 ズボンとパンツも脱いでいる僕を見ながら、お兄さんもパンツを脱いだ。お兄さんのおちんちんはやっぱり変な形だった。

「靴下は?」

 全部脱ぎ終わった僕にお兄さんが聞いてきた。
 僕は首を横に振る。

「変わってんな。俺は蒸れる感じが気持ち悪ぃからよっぽど寒く無けりゃサンダル派だわ」

 お兄さんはちょっと笑った。
 裸になったお兄さんは僕を抱っこしてベッドまで行って、僕を抱っこしたまま寝転がった。お兄さんの体の上に僕が寝っ転がる形だ。
 お兄さんの顎が僕の頭のてっぺんにあたっていて、僕は息が苦しくならないように横を向いた。さっきお兄さんに蹴られて壁まで吹っ飛んでいたテーブルが見えた。
 お兄さんは、はーはー息をしながら僕のお尻をぐにゃぐにゃつぶすみたいに、両手で何度も触った。それから、僕のお尻の穴に指を入れて来た。

「うー……」

 びっくりして、僕はお兄さんにしがみついた。
 お兄さんは片手で僕の頭を撫でてくれて、そうしながら、僕の穴の中を掻きまわすみたいに指を動かした。ぴりっと痛くて、なんだか気持ち悪くて、ちょっとだけ涙がでた。

「気持ちいいか?」

 聞かれたから、僕は「うん」と答えた。お兄さんの胸が大きく膨らんで、息を吐く大きな音と一緒に、胸が静かにしぼんだ。

「……怖ぇな」

 お兄さんが言った。
 ヒーローでこんな怖そうなお兄さんにも怖いのがあるの? と思って、僕が「怖いの?」と聞くと、お兄さんは僕を撫でるのをやめて、僕のおでこに手をあてて顔を持ち上げさせた。
 お兄さんを見下ろすと、お兄さんは眉の間に皺を寄せて、必死みたいな、怖い顔をしていた。

「口。キスしてみろよ。キス。分かるよな?」
「キス……」
「うまくできたらもっと気持ちいいことしてやるぞ」

 僕がお兄さんにキスをする……男同士なのに変なの。
 だけど僕はお兄さんの口に僕の口をちょっとだけくっつけた。お兄さんは笑った。

「お前さぁ……。もっとぶちゅーって感じだろ、普通。舌入れるとかさ」
「した?」

 お兄さんがベロをべーっと出した。
……とりあえず、舐めればいいのかな?

 もう一回お兄さんの口のところに口を近づけて……本当にいいのかなってお兄さんを見たら、お兄さんは目の横のところに皺を作る感じで、やっぱり笑っていた。

 お兄さんのベロの先っぽのとこを、ベロでちょんっとつついてみる。
 一瞬だけ。
 熱くて……なんかくすぐったい。
 変な感じがした。

 お兄さんを見ると、お兄さんはまだベロをべーっとしたままで、僕はもう一回……今度はベロの真ん中あたりをちょっとだけ舐めてみた。
 ベロとベロがちょっとぶつかってる。それだけなのに、なんかくすぐったい。お腹のあたりがむずむずする感じがして、もうちょっとだけ『これ』をしていたい感じがして、僕はもっといっぱいお兄さんのベロを舐めてみた。
 少しざらっとして……熱くて……口を開けて、歯があんまり強くあたらないように、お兄さんのベロをそっと咥えてみた。――お兄さんの手が、僕の頭の後ろをがしっと掴んだ。

 お兄さんは僕の頭を押してくる。
 僕の鼻や口はお兄さんのほうにぐっと押し付けられて、僕とお兄さんの鼻はつぶれる。お兄さんのベロは、僕の口の奥のほうにまで入ってきた。

 お兄さんが顔の位置を斜めにずらして、お互いにつぶし合っていた鼻が楽になる。
 口がたくさんぶつかっていて、お兄さんは僕を食べようとするみたいに口を少しぱくぱくさせるみたいに動かして、僕の口の中をベロでいっぱいに舐めてくる。

 ベロがぶつかっているだけと全然違う。
 口がちょっとぶつかっているだけとも全然違う。
 すごく熱くて、怖くて、食べられそうで、逃げたくて、逃げられなくて、体がぞくぞくするみたいな変な感じがする。

 これが……キスなんだ。

 僕も真似をした。顔をちょっと動かして、口をパクパクして、角度を変えるみたいにしながらお兄さんの口にいっぱい口を押し当てる。それで、お兄さんのベロを吸うみたいに、口の中いっぱいのお兄さんのベロを一生懸命舐める。

 お兄さんが鼻からいっぱい息を吐いた。
 キスをしながら、お兄さんの二本目の指が僕のお尻の中に入ってきた。二本の指が動き始める。
 中をぐいぐい押しながら、指の全部で僕の中をこするみたいにして、指を曲げたり、開いたり。
 くすぐったくて……ちんちんのところが熱い。

 僕は体をもぞもぞさせた。だけどそうすると、お兄さんの指はもっといじわるに僕の中でぐりぐり動いた。

「お……に、さん……」

 僕はもうキスをしていることもできなくて、口の隙間からお兄さんを呼んだ。
 お兄さんはなおさら強く僕の頭を押さえてきて、お尻の中をこするみたいに指を強く出したり入れたりしながら、もっともっと強く僕の口を塞いでキスをしてきた。僕はお兄さんを呼ぶこともできなくなった。

 お兄さんの腕にしがみつく。

 怖い。

 お兄さんの指が出たり入ったりするたび、僕の中から変なのが引っ張りだされていくような感じがする。
 むずむずして、ぞわぞわして、なんでもいいから、ちんちんを何かにこすり付けたいような変な感じがした。
 よくわかんないけど、僕はお尻をふるみたいに動かしていた。
 そうするとなおさらお兄さんの指が強く擦れて、頭の奥がしびれるような、変な感じになった。

 こわい。

 なんもかんがえられない。

 もっとおくをぐりぐりして。

 いつの間にか、僕は泣いていた。お兄さんの顔に、僕の涙がぽたぽた落ちていた。

「んううっ……!!」

 お尻のなかの奥のほうが、びりびりって変な感じがした。
 体が僕のじゃなくなったみたい。
 びくんびくんってした。

 あたまのなかが真っ白になって、おちんちんのところがぎゅってなった。
 よくわかんなくて、目のまえがチカチカして……それで、気づいたら僕とお兄さんの口は離れていて、僕はお兄さんの大きな体の上に倒れていた。
 それで……僕はお兄さんの上でおしっこを漏らしていた。

「あっ……う……」

 ごめんなさい、って言わなくちゃ。
 でも言葉が口からでてこない。
 体がびくん、びくんってして……自分のじゃないみたいに、ぜんぜん言うことをきかない。

 ぼくの目からはどんどん涙がでてきていた。それなのに、お兄さんは僕の頭を撫でてくれた。
 僕のおしっこが止まると体を起こして、お兄さんはベッドの上にあったタオルで僕のおちんちんのあたりをごしごし拭いてくれた。それから僕を転がすみたいにしてベッドに寝かせて、今度はお兄さんが上から被さって、僕の脚を掴んで開かせた。

「俺の前ではこうだ」

 汗で、お兄さんの長い髪が濡れている。
 ぐしゃぐしゃになって顔のほうに垂れてきた長い髪の間から、尖った細い目が僕を見下ろしてくる。

「黙って脚開いとけよ。お前なんかオナホでしかねえんだから」

 じっとりと……じりじりと、お兄さんの視線が僕を焼く。
 全身に絡みついて、縛って、僕に焼き付く。

 おなほの僕は、お兄さんのほうに手を伸ばして、お兄さんの胸に両手のてのひらをぴったり付けた。

 濡れてドクドクする胸を撫でる。

 お兄さんは口のあたりを手で隠して、乱暴に拭うみたいにして、それから両手で髪をぐいっとかき上げた。

「ただの穴が」

 お兄さんの声が怖かった。
 お兄さんはおっきなおちんちんを握って僕のお尻の穴にあてた。
 ぐっと押し込んで、ちょっと入ると、僕の両足を掴んでもっと脚を開かせて、ちんちんを僕の中に押し込んでくる。

「うぐぅ……!!」

 お兄さんのおちんちんはやっぱり苦しくて、怖くて、僕はちょっとのけ反ってしまった。
 お兄さんはのけ反った僕の背中に手を入れてきて、ぎゅっと僕を抱きしめて、僕の涙を舐めて、おでこを優しく噛んだ。
 こんなに苦しいのに、お兄さんのおちんちんはどんどん奥に入ってくる。
 指で触ってたとこよりずっと奥のところに。
 お兄さんで体を塞がれて、お兄さんでいっぱいになる。

「うー……!!」

 僕はお兄さんにしがみついた。
 お兄さんの体はおっきすぎて、両手をいっぱいにまわしても背中のはじっこを掴むことしかできない。
 だからお兄さんの背中のはじっこに指をつけて、ひっかくみたいにして必死でしがみつく。

 お兄さんは前と後ろに腰をがんがん振った。その度におっきな棒みたいなおちんちんが僕の中を出たり入ったりして、おちんちんで奥を叩かれる度、僕は死んじゃいそうになった。

「うあっ、あ、あう……!」

 涙が出た。
 涎も出た。
 体がぶんぶん揺さぶられて、お兄さんにしがみつくのに必死で……なんにも考えられないのに、頭の別のところで、なんでこんなことするんだろうって考えていた。

 苦しいのに、なんか変なのに、これをしないと、僕はお兄さんと一緒にいられないのかな。
 ――早く終わればいいのに。それでまた、ぎゅってしてくれたらいいのに……そう思っていたら、急に、お兄さんが僕の頭をぎゅってしてくれた。

「サクラ」

 怒ったみたいに、でもちょっと苦しそうに。
 お兄さんは顔を僕のおでこにすりつけながら、僕を呼んだ。

「サクラ。出そうだ。……出すぞ」

 お兄さんの顔はすごく熱くて、汗でべちょべちょで、髪が僕にも貼りついてくる。

 ……熱い。

 全身。

 全部。

 僕とお兄さんがくっついているところは全部熱くて、全部燃えるみたいで、全部濡れている。
 僕はお兄さんと、全部ひとつだった。

 そう思ったら、体の全部がぶわっとするような、じっとしていられないような感じがした。

「お、にい……さん」

 僕はお兄さんの背中に爪をさした。
 このまま全部――僕の体を全部、お兄さんのにしてほしかった。

「あー……無理。マジ出る」

 お兄さんがおちんちんで僕の中をぐりぐり押しながら言った。

 お兄さんの動きが止まる。
 僕の中で、お兄さんのおちんちんがびくんってした。

 熱いのがお尻の中でじわーっと広がっていく気がする。
 僕の中がぐちゃぐちゃになっていく。

 お兄さんはしばらく僕の奥のほうにビクビクするおちんちんをぎゅーっと押し付けていて、ちょっとしたら、はーっと息を吐きながらおちんちんを抜いてくれた。
 その後もはーはー息をしながら、汗でびしょびしょの髪をかきあげて僕をじーっと見下ろしていた。

「お前さあ」
「…………」
「俺にヤられて――よかったりすんの?」

 僕は頷いた。
 僕も汗がすごくて、お尻のなかも体の表面も全部ぐちゃぐちゃだった。
 ぐちゃぐちゃすぎて、頭がぼーっとして、僕は何も考えられなくて、お兄さんを見上げていた。

「……あっそ」

 お兄さんはちょっとだけ笑った。それから僕の隣に寝て、僕のことをぎゅーっとしてくれた。嬉しくて、僕もお兄さんにいっぱいぎゅーっとした。

「明日もうち来るか?」
「うん」
「来んならまた襲うぞ。お前みてぇなガキに付き合ってやるメリット、そんくらいしかねえだろ」
「うん」
「なんか食いもんもいるか。何かあるか? 食いたいの」
「あ」

 大事なことを忘れてた。
 僕が慌ててお兄さんの腕から出ようとすると、お兄さんは『逃がさない』というように、僕の頭にがぶっと噛みついてきた。

「あんだよ?」
「お兄さん。ありがとうしないと。中に出してくれて――」
「あー……」

 お兄さんが急に唸るみたいな声を出した。
 お兄さんも思い出したのかな? だけどお兄さんは僕をぎゅーっとしまま離してくれない。
 早くお尻を見せてお礼を言わないと――。

「おに――」
「あー」
「おにい――」
「あーあーあー」
「おにいさん」
「あーあーあーあーあーあー!!」

 怒鳴るような声にびっくりした僕が黙ると、お兄さんも「あー」をやめて、ちょっと黙った後で「いいよ」と言った。
 僕の頭を撫でて、僕をぎゅっとして、僕の頭に顔をぐりぐり押し付けて……お兄さんは言った。

「んなことしなくていいんだよ。お前は」
「いいの?」
「いいって。んなことより――」

 僕の頭からお兄さんの顔が離れた。
 顔を掴まれて、僕はお兄さんのほうを向かされた。こんなにいっぱいくっついているのに、お兄さんはなんだか悲しそうな顔をしていた。

「もう誰にも触らせんなよ。……裸になったり、そういうのも俺以外の前ではすんな。言ってること、わかるよな?」

 わかる……のかな? 
……わかんないかもしれない。
 僕が何も答えないで横を向こうとすると、また無理矢理お兄さんのほうを向かされた。お兄さんの顔を見れなくて、僕はぎゅっと目を閉じた。

「お前さぁ……。こういうときこそ、お得意の『うん』だろ」
「うん」
「遅ぇよ、バカ」

 お兄さんが笑う声がした。
こっそり目を開けるとお兄さんはやっぱり笑っていて、僕と目が合うと、「バーカ」と言って、また少しだけ悲しそうな顔をした。

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