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第五章 フィアンセ交代?!

私、もう負けそうですわ

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「ったく、いつまでも子供のままなんだから……」

 と彼は苦笑いする。

「……っ」

 遠くから二人の様子を見ていたシャーロットは、我慢できずにその場から駆け出した。表情は暗く、きつく結んだ唇は紫だ。

(ダナさん、もう止めて……。これ以上私を苦しめないで)

 ――どうかオリヴァー様を諦めて……。フィアンセ交代だなんて絶対に嫌よ……!

 シャーロットに追い打ちをかけるように、とうとう冷たい雨が降り出した。一気に勢いを増し、彼女をぐっしょりと濡らす。

「……きゃっ!」

 雨を吸って重くなったドレスに足を取られた。バシャン! と水たまりに顔面から突っ込む。

「……っ……」

 どろどろに汚れたシャーロットは、起き上がると地面に座り込んだ。両手でぶるぶる震える身体を抱きしめる。綺麗に結ってもらった髪は乱れ、化粧もぐちゃぐちゃだ。いつも澄んだサファイアの瞳から悲しみの涙が溢れ、頬を濡らしていく。

(オリヴァー様……オリヴァー様……)

 ――私、もう負けそうですわ。

「……っ、ふ……うっ、ひっ、く……うぅっ……っ」

 雨音に紛れて彼女は嗚咽を漏らした。
 一方、試合会場では、ダナがシャーロットのいた方を向いて、こっそりと意地悪な笑みを浮かべていた。


 ☆~☆~☆~☆~☆



 ダナが突然オリヴァーの屋敷押しかけてきたのは、一ヶ月前だった。強い風の吹く嵐の日である。
 ダナは両親と西の都の別荘に滞在中、魔物に襲われ怪我をしたらしい。怪我と言ってもかすり傷でさほど大事ではない。だがしばらくは怖くて眠れないので、騎士であるオリヴァーの側にいたいという理由でやって来た。
 シャーロットとオリヴァーは、応接間でダナと会った。高級なソファセットが置かれた落ち着いた部屋である。
 重い雲のせいで室内は暗く、打ち付ける雨風に窓がガタガタと鳴っていた。

「オリヴァーお兄様~っ!」

 応接間に入ってくる彼を見るなり、ダナはソファから立ち上がった。左腕に大げさな包帯を巻いている。ダナはオリヴァーの逞しい首にしがみつき、おいおいと泣いた。

(えっ!? 何、この娘{こ}は……?)

 シャーロットは驚いて固まってしまった。

「ダナ、大丈夫だったか? 怪我をしたと聞いたが……。心配していたんだぞ」

 オリヴァーが言った。

「お兄様ぁ、怖かったですぅ。魔王ギリェルモがダナの心臓を取ろうとしていたんですよー。ダナ必死で逃げたんですよぉ」
「何? 魔王ギリェルモが?」

 オリヴァーが眉根を寄せた。

「はいぃ。『黒ノ猟犬ノ血縁ノ娘……美味ソウダナ』と言ってダナを攫{さら}おうとしたんです……ああん怖かった、今思い出しても震えてしまいますぅ……!」

 黒の猟犬とは、オリヴァーの二つ名である。

「とうとう俺の親戚にまで手を出すとは……。他に何か言っていなかったか」
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