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第二章 ドキドキの同居生活

お試し婚約

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 ――分かりましたわ。オリヴァー様。
 ――いずれ、君の心の準備が出来たら。今日はゆっくりお休み、俺の天使。

 と、オリヴァーはシャーロットの滑らかな額にくちづけた。

 ――~~ッ……!

 シャーロットはボンと顔を赤らめ、しばらく固まってしまったのだった。

(ああ、オリヴァー様……)

 回想を終えたシャーロットは、洗顔したばかりの自身の額をそっとなぞる。
 あれから毎日オリヴァーは甘い言葉をささやいてくれた。そのバリエーションは多岐に渡り、「可愛い」なんて当たり前で、「薔薇よりも美しい」とか、「欲しいものは何でもプレゼントしよう」とか、「俺の心を奪った女性は君が初めてだ」と言ってくれる。
 他にも「おはよう、俺の天使」や、「おや、天使が散歩しているぞ」とか、「天使さん、今夜も空に帰らないで自分のベッドで寝てくれよ」などと通称天使シリーズで口説いてきたりする。まるで自分を好いてくれているような彼の言動に流されそうだ。

(きゃーーーっ!)

 思い出すだけで顔から火が出そうだ。

(ダメ、ダメ)

 ――ダメよ、シャーロット。本気にしちゃ。全部、社交辞令なんだから。

 と彼女は自分に言い聞かせる。

(これはお試し婚約よ。オリヴァー様が満足すればきっと解消になるわ。私みたいな貧乏な娘との結婚が上手くいくはずないじゃない)

 シャーロットはこのお試し婚約が失敗する気がしていた。それは自分が没落貴族の娘だから、というだけではない。オリヴァーは素晴らしい男性で、彼のような完璧な殿方が、自分のような平凡な娘を愛すはずがないと信じ込んでいたからだ。
 不幸な境遇だったせいか、シャーロットは自信がなく、いつも悪い未来ばかり予想する癖がついてしまった。そうして心を備えておけば、いざ残念な結果になった時、それほど傷つかなくて済むような気がするからだった。
 けれどそれはもちろん彼女の本心ではない。正直にいえば、大好きなオリヴァーと結婚したかった。彼に愛され、幸せになりたかった。

(いつか、仮の花嫁じゃなくて本当の妻になれたらいいな)

 ぼうっと蒼い大きな瞳を潤ませながらシャーロットは想う。

(そんな日が来るわけないってわかっているけれど、オリヴァー様に愛されたい、大事にされたい)

 ――だって私はオリヴァー様が好きなのですもの。

(ずっとずっと、大好きだったのですもの……)

 シャーロットは湯浴みの間中、ずっとそんなことを考えていた。
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