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第二部

2-6.ムカつくあいつの外出事情

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 果てがないと思ってしまいそうな馬車の旅から戻ったロシュは、すぐに自室に戻っていた。
 それは確実に訪問が予定されている相手を待ち受けるためだった。

「おかえり。僕の休みを奪って強行した旅行は楽しかったかい?」

 げんなりした顔をしたクレメントは、今日も白衣姿のままロシュの部屋を訪ねていた。
 長期休暇に合わせて教師も休みになるはずが、彼に限ってそうではなかったからだ。

「嫌味かよ。問題なんて起こしてねぇのは知ってんだろ」

 監督という名の監視が居るロシュの遠出など、無条件で許されるはずがなかった。
 護衛という名の監視を付け、予定外の行動を取らないことでどうにか許可されたのだ。
 ロシュが度々そこかしこに目を向けていたのはそれが理由で、絶え間ない視線に辟易もしていた。
 幸いアリシアの部屋は死角になっていたようで、好き勝手に過ごせていたが。

「ずいぶん面白い見世物はあったようだけどね」

「あっちから吹っかけてきただけだろ。叩き潰すのが礼儀だ」

「あそこまでやる必要はなかったんじゃないかい? 彼の面子は丸潰れだ」

「んなもん知るか」

 自分よりも先に、自分よりも長くアリシアを見てきた男だ。
 そんな人物に対して情けをかける必要など感じず、むしろ再起不能にするべきだった。
 最終的に告白と断りを目の前で確認できたからよしとした。

「この学園は馬鹿しかいねぇけどな、外に出たら何が寄ってくるか分かんねぇだろ」

「こんな番犬がいたら誰も近寄らないだろうけどね」

 大げさに呆れるクレメントだがロシュが油断することはない。
 それほどにアリシアの存在は大きく、代えがたいものだからだ。

「そんなことより、リャナの様子はどうだったんだよ」

「マークくんの研究室でご満悦だったよ。
 少しでも暇に見えたら迫っていたから、彼は気を抜く暇がなかったんじゃないかな」

「さっさと落ちりゃいいんだよ。で、そのまま向こうで同居しちまえ」

「アリシアさんが付きっきりなのが不満なんだろう? 素直に言えばいいのに」

「あいつが可愛がってんだから仕方ねぇだろうが」

 実家で過ごしたことであの対応にも納得ができた。
 となれば、それを無理に止めることなどできない。
 不満はある程度口にする必要はあるが。

「ただ、リャナさんはしばらく寮から離れておいたほうがいいかもしれないね。
 そろそろ留学生が来るって知っているだろう?」

「ああ、あのめんどくせぇやつか」

「今回来る生徒は友好国の名門家系だ。ロシュくんとは面識もあることだし、無下にはしないようにね」

「大昔に会った奴のことなんて知るか」

 魔術師の家系は良くも悪くも繋がりの深いものだ。
 しかしクレメントもそれをロシュに求めるのも無理な話だと理解している。
 大きなため息を吐きながら部屋を出ていき、扉が閉まってからロシュはベッドに倒れ込んだ。
 あー……疲れた。
 初めての遠出に疲労があるのは当然だが、それ以上に得るものがあった。
 アリシアの両親との親交や、アリシア自身の思い出など。
 学園内に居るだけでは知ることのなかった事柄を頭に浮かべ、ごろりと寝返りをうつ。
 アリシアの両親は、ロシュの常識内のものとはかけ離れていた。
 周りを憚ることのない仲の良さや、娘に向ける大きすぎる愛情は初めて見たものだった。

「俺たちも、ああなれたらいいよな……」

 自分があれほどまでに開き直れるとは思えないし、アリシアも恥ずかしがりそうな気もする。
 窓の向こうからこちらを覗いていた幼なじみにとっては、同じように見えたかもしれないが。
 青年の心からの呟きは強い憧れそのものだったが、現実性は低すぎると誰もが分かるものだった。
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