連帯責任なんて聞いてないっ！ 淫魔の呪いを解くためにムカつくあいつと関係を持つことになってしまった

第一部

４－４．ムカつくあいつの切なる思い

　一日の授業が終わった教室で、ロシュは帰宅の賑わいを避けるようにその場にとどまった。
　ほとんどの生徒が席を立ったころ、白衣姿が隣に座る。

「真面目に授業に出るなんてどうしたんだい？　何かあるんじゃないかって、先生方が困惑してるよ」

「生徒が授業に出て何が悪いんだよ」

「日頃の行いのせいだろうね」

　不満げなロシュの前には一日分の教材が積み重なっている。
　ノートにはびっしり内容が書き込まれ、自分のためではない文字は丁寧だった。

「あいつ、頭硬ぇから授業通りにしたがるんだよな。必要な科目くらい俺でも教えられるってのに」

　救護室で呪いを和らげてからも、アリシアの身体は調子を取り戻さなかった。
　今日は欠席を命じられてしまい、真面目なアリシアにとっては歯がゆい思いだろう。

「ほんと、アリシアさんに対してだけは健気だよね。その気持ちをさっさと伝えればいいのに」

「は？　気持ちも何もねぇし」

　呆れた様子のクレメントを睨みつけ、顔を背けるように頬杖をついた。
　呪いがかけられてる状態で、何を言っても無駄だろ。
　自分でふてくされていると分かっているからこそ口にする気にはならなかった。

「サキュバスの呪いを解いたらどうするつもりだい？」

「あいつはインキュバスだって思ってんだから口に出すなよ」

「ああ、そうだったね。聞いてなかったけど、なんでわざわざ違う精霊を教えたんだっけ？」

「大した理由じゃねぇよ。いくら精霊っつっても、男に取り憑かれるなんて嫌に決まってんだろ」

「君ってさ……告白すら出来ないくせに、気遣いと独占欲だけは一人前だね」

「あ？　てめぇ、今すぐ淫魔の餌にしてやろうか」

「はいはいごめんね。これから医者の診察があるから、お見舞いに行くならそのあとにしてよ」

　苦笑を浮かべて出ていく背中を睨みつけ、誰も居なくなってから机に伏せた。
　窓から差し込む夕日は昨日の夕方を思い出させ、身体の芯に熱を灯す。
　瞳を潤ませ頬を染め、喘ぎながらキスを求めるアリシアは凶悪なほどに可愛かった。
　生気の受授に関係ない行為を求められたことに心の底から歓喜した。
　いっそ誘惑に負け、その唇を奪ってしまおうかとも思った。
　しかし焼ききれそうな理性をどうにか保ち、濡れた唇を指で塞いだ。
　結局、熱く柔らかな舌にさらなる欲情を掻き立てられてしまったが。
　アリシアが持っている感情は呪いの影響でしかない。
　そんな弱みに付け込んで、呪いを治めるために必要ではない行為をするわけにはいかなかった。
　
「……俺だってしてぇよ、馬鹿」

　好きな相手に乞われて嬉しくないはずがない。
　青年の切なる思いのこもった呟きは、がらんとした教室に響いた。