はかい荘のボロたち

コダーマ

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第4話 ゲロ事件

今さらなボロ

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~~~変にチャレンジャー~~~
   ※リストバンド中崎・魂のポエムその4


小さいころ
鼻に小さなビーズをいっぱいつめた
         ぎっしりつめた
どのくらい入るのかと思って

片鼻で50コほど入った記憶がある
1つがどうしても取れずに
数日後 ノドから出てきた

少し大きくなって
鼻にアズキつめた みっちりつめた
         ギチギチにつめた
どのくらい入るのかと思って

かなりの数入ったと思う
鼻の奥に1コ残ったのが
今度はどうしても取れなかった

耳鼻科に行ったら麻酔かけて手術すると告げられ
ビビって近所の内科に行った
ピンセット突っ込んで取ってくれた
かなり鼻血でた
さすがに反省した

いつかジャガイモつめたい ハナのアナ
小さいやつでいい ハナのアナ
そして写真を撮るの
それがささやかな夢 そして今年の目標


   ※  ※  ※



 ゴミ袋を三つ抱えてはかい荘の階段を降りる。
 玄関先の掲示板に貼られたボロ紙が風にはがれそうだ。
 ひどい劇画に、震える字で「YOUはショック!」と書いてある。
 オレはその前にゴミ袋を置いた。

 学生は冬休みの、午前六時。
 あのゴミ溜めの中で、リストバンド中崎とボンジュールちゃんは毛布にくるまってぐっすり寝ている。
 フトンもあったらしいが、今やゴミの彼方。

 アソコは人間の住む環境じゃないよな。
 そう思う。せめて、もうちょっと……と思って目についたゴミを拾い集めて捨てにきたのだ。
 中崎のヤツ、三十回使った紅茶のティーバッグをまだ捨てずにとってやがるんだ。捨てたらお母さんが怒るんだよ、とかワケの分からないことを言いやがる。

 そういやヤツの母さんってどんな人なんだろ。この家に厄介になって一週間。未だ会ったことがない。
 大して気にも留めなかったが、一体何をしてる人なんだろう。仕事が忙しいにしても、高校生の息子を置いて、ちっとも帰ってこないのは変だ。
 お父さんはいないのかな。ヤツに聞いてもあまり話したがらない。

「まぁ、いっか」

 お母さんがいたら、たとえ三百円払ったって体のデカいオレがあの部屋に泊まるなんて無理だろうな。
 ましてボンジュールちゃんなら尚更だ。
 あの子がちょっとアレなもんだから気にならなかったが、考えたら金髪の元キャバ嬢が半一人暮らしの高校生の部屋に寝泊りしてるわけだ。
 これ以上に刺激的なことはないだろ。

 朝からちょっとニヤつきながら、部屋に戻る。
 今日はバイトは休みだ。
 よし、二人を叩き起こしてうまい朝食を作ってやろう。
 この家で、おれはすっかり家政婦さんと化していた。

 機嫌よく玄関の扉を開けた瞬間。

「何やってんだよ!」
「やめっ……!」

 ガシャン! 怒鳴り声と共に物凄い音がした。

「大丈夫か、中崎っ?」

 オレは部屋に飛び込んだ。
 玄関に中崎が倒れている。先程のは中崎が玄関の扉にぶつかった音に違いない。頭を振りながら、尻を押さえて呻いている。

 ──強盗か? まさか、この悲惨な家に?
 ある意味、変にチャレンジャーだ。
 オレは倒れた中崎の前に立ちはだかった。

「何だい、アンタは!」

 強盗の正体は女だ。派手な服着たビンボウそうなオバサン。
 いや、意外と若いのかもしれない。年齢不詳だ。
 ドスのきいた声で威嚇して、オレを睨みつけてくる。

「オ、オマエこそ! 人んちで何やってんだ! 警察呼ぶぞ!」

 中崎が「うぅ……」と呻いて身を起こす。

「よせ、シン……。お母さんも一か月ぶりに帰ってきて、いきなり怒り出すことないだろ」
「えぇ?」

 お母さんだぁ?

 あんぐり口を開けたオレの前で、実は親子であるらしい二人は激しい言い争いを始めた。

「水を無駄にしやがって、この子は! 便所の水は流すなってアタイはちゃんと教えた筈だよ!」
「うんこしたら流すだろうが! それにアタイって言うの、やめろよ!」
「何だい、減らず口を。ちょっと見ない間に、贅沢三昧の今時の子になっちまって!」
「何でそこまで言われなきゃなんないんだよ! うんこくらい自由にさせろよ!」

 うんこうんこ連発だ。
 すると女──中崎のお母さんは右手を突き上げる。息子のおでこを思い切りデコピンした。

「三回ためてから流すんだよ!」

 うわ…痛そう……。
 中崎のデコで指がバシッと炸裂した。
 デコを押さえて中崎はよろめく。
 壁によりかかった衝撃で天井からゴミくずとホコリがパラパラ落ちてきた。

「テメ……、虐待で訴えんぞ!」

 こいつは躾だよ! と女は怒鳴った。

「そもそも一か月もどこ行ってたんだよ。帰ってこないなら、せめて携帯持てって言って……いや、いいよ。金が勿体ないんだろ。でもな! たまには連絡よこせよ。修学旅行費の支払いとか色々……色々たまってんだよ」

 何だろ……、初めて中崎がかわいそうなフツウの子に見えてきた。
 若いのに、ヤツはヤツで苦労してんだな。

「だから高校なんて行くなって言ったんだよ、アタイは。働け!」
「特待生で合格して、三年間学費全額免除になったじゃん……」
「でも学用品とか積立費とか昼メシ代とか定期代とか色々要るだろが。うちは貧乏なんだよ!」

 袖をひかえめに引っ張られていることに気付いた。
 振り向くと、騒ぎで目を覚ましたボンジュールちゃんが今まで見たことない興奮した顔でオレの背中から顔を出している。

「オモシロイ。昔風のドラマを見てるようだナ、コラ!」

 ダメだ。この子、この騒ぎを完全に面白がっている。
 ワクワクするナ、と言っては固唾を呑んで両者を見守る。

 しかし二人の言い合いはそこで一時休戦となった。
 お母さんがようやくオレたちに気付いたからだ。

「ボロの友達か? 狭くて汚い家だけど、ゆっくりしていきな」

 ハキハキした、江戸っ子のようなお母さんだな。

「はい、どうも。おじゃましてます」

 どんな反応をしていいか分からず、普通の挨拶を返してからオレは一瞬息が詰まるのを感じた。

「え? 今、何て……?」

 ボロの友だちって言った? ボロって……?
 ゆっくりと中崎に視線を向ける。


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