クロワッサン物語

 1683年、城塞都市ウィーンはオスマン帝国の大軍に包囲されていた。
 第二次ウィーン包囲である。

 戦況厳しいウィーンからは皇帝も逃げ出し、市壁の中には守備隊の兵士と市民軍、避難できなかった市民ら一万人弱が立て籠もった。
 彼らをまとめ、指揮するウィーン防衛司令官、その名をシュターレンベルクという。

 敵の数は三十万。
 戦況は絶望的に想えるものの、シュターレンベルクには策があった。

 ドナウ河の水運に恵まれたウィーンは、ドナウ艦隊を蔵している。
 内陸に位置するオーストリア唯一の海軍だ。
 彼らをウィーンの切り札とするのだ。
 戦闘には参加させず、外界との唯一の道として、連絡も補給も彼等に依る。

 そのうち、ウィーンには厳しい冬が訪れる。
 オスマン帝国軍は野営には耐えられまい。

 そんなシュターレンベルクの元に届いた報は『ドナウ艦隊の全滅』であった。
 もはや、市壁の中にこもって救援を待つしかないウィーンだが、敵軍のシャーヒー砲は、連日、市に降り注いだ。

 戦闘、策略、裏切り、絶望──。
 シュターレンベルクはウィーンを守り抜けるのか。

 第二次ウィーン包囲の二か月間を描いた歴史小説です。
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