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第18話 不毛な主義、崩壊
ヘンなアンケート(1)
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「駄目、絶対生かして帰さない。森に誘い込んで追い詰める。罠を仕掛ける。地の利に長けた奴等の、逆に裏をかく」
……怖いんですけど。
出会った瞬間、分かっていた。
この人は基本的に他人の話を聞かない人だ。
かぐやちゃん、そっぽ向いて何かブツブツ言っている。
すぐ側までやってきたアタシに目もくれず、だ。
いや、めげちゃアカン。アタシは手帳を広げた。
「では。かぐやちゃん……あ、馴れ馴れしいですね。スイマセン。かぐや、さん? エット……」
「────」
ゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「もうええわ、じゃあかぐやちゃんで。エット、質問です。かぐやちゃんの好きな花は?」
「────」
「じゃ、じゃあ好きな味噌汁の具は?」
「大根」
「はぁぁ! 大根! そ、そうですね。定番ですよね」
って、何でアタシがこの人相手にここまで気遣わんといかんねん。
ゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「好きな色は?」
「────」
「じゃあ、じゃあ好きなドレッシングは?」
「青じそ」
「あ、サッパリしてますもんね」
ゴゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
分かってきた。
この人、食べ物の話にしか反応しない。
「あの、じゃあ好きなゲームは? 何や、この質問。……サバゲーですか? まぁ、サバゲーですよね?」
「────」
「つ、次の質問です。好きなフルーツは?」
「りんご」
ホラ、即答や。
でもそれ以外の質問は全然聞いてない。
すごい遠い目してる。
ゴゴゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「え? ちょっと待って。この音、かぐやちゃんの腹の音?」
もしかして、お腹空いてます? というセリフが、何だか怖くて口にできなかった。
「さ、最後の質問です。一番の好物は何ですか?」
「豆と種」
案の定、即答や。
「豆と種ですか……。えぇと、アレですね。案外、地味なものがお好きなんですね。ナ、ナッツとか?」
ちょっとオシャレな感じで言ってみたら、ポカンとしてる。
「ま、豆は腹持ちいいですもんね。ゲリラ戦にはそういう要素も必要になってきますもんね」
何でアタシがそんな意味分からんフォローせんといかんねん。
何故アタシがこんなアンケート作業をしているかというと、だ。
姉にかぐや様リサーチを頼まれたからだ。
好きな食べ物、好きな女性のタイプ、気になる女性の仕草……何でもいいから聞いて来いと。
嫌や。あの人ヘンやもん。話したくない。お姉が自分で行って。
そう叫んだアタシの前にヒラリと一万円札が舞う。
「おこづかい、あげるわ」
その一言で落ちた自分もどうかと思うけど。
実際お姉には世話になってるし。
感電した時は迎えに来てくれたし、何やかや言いながらもご飯食べさせてくれるし、お金も貸してくれたし、一応多分それなりに心配もしてくれてる……少しは。
何と言ってもこの姉の命令に逆らうことはできない。怖い。
露骨に言っちゃ駄目、さりげなくよ!
念押しと共に送り出されたわけだ。正直やってられへん!
「種はナッツ? 豆はビーン?」
「は?」
「──種はナッツ? 豆はビーン?」
この人、同じこと2回言った! しかも意味分からへん!
(ある意味)超絶美青年の(ある意味)一切の曇りの無い(ある意味)清らかな視線に見つめられ、アタシは我に返った。
「あ、スイマセン。その通りです。種がナッツ……いや、シードですよね? いやまあナッツとも言いますよね。豆はビーンで合ってます……は? 何の確認ですかね、ソレ」
尋ねると、かぐやちゃんは黙り込む。
分からん。何や、この人は。
会話のテンポもよく分からん。
会話のキャッチボールって概念が、そもそもない。
「いや、まぁいいわ。気を取り直して、と。では、今度こそ最後の、そして重要な質問です。好きなタイプはどんなですか?」
「────」
アカン。この人、またポカーンとしてるわ。
「いや、あの……かぐやちゃん? 聞いてる? 見た目とか性格とか、どんなでもいいし。できたら具体的に教えてほしいねんけど。女優とかアイドルとか、この人カワイイなって思う……ああ、その顔やめてください。こっち向いてください。えっと……たとえば、好きな仕草とかクセとか?」
「具体的にか?」
「ああ、そりゃ芸能人とか具体的な方が分かりやすくていいわ」
ああ、良かった。
かぐやちゃんがぼんやり遠くを見だした時はどうしようかと思ったわ。
アタシは手帳にボールペンを構える。
どんなマイナーなアイドルでも構わない。それがかぐやちゃんの好みなら!
「アイエムアイモデル・タボールにじゅういちシー・こまんだーあさるとかーびん」
「は?」
彼は再び繰り返した。
「アイエムアイモデル・タボール21シー・コマンダーアサルトカービン」
「…………それはハリウッドの女優とか? ち、違いますよね。じゃあ、どこの国の?」
かぐやちゃん、初めてアタシの方を向いた。すぅと息を吸い込む。
「イスラエルで独自開発された新型アサルトライフルだ。イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ(IMI)社製タボール21Cコマンダー・アサルト・カービン。全長640ミリメートル、重量2900グラム。連射速度は……」
目から爛々と異様な光線を発しているかのよう。
アカン。アタシが火ィつけてしもた。
「連射速度は毎分750から900発。ターン・バレル・ロッキングシステムにより……」
延々と続くヘンな講義。
どっかの国の銃器の話っぽい?
アタシの意識は遠のき……数時間もの間、ずっと竹やぶと空見てた。
あぁ、風が心地いいわ……。
アタシ、生きてるって実感してる……。
「アタシ、今生きてるでぇ……」
……怖いんですけど。
出会った瞬間、分かっていた。
この人は基本的に他人の話を聞かない人だ。
かぐやちゃん、そっぽ向いて何かブツブツ言っている。
すぐ側までやってきたアタシに目もくれず、だ。
いや、めげちゃアカン。アタシは手帳を広げた。
「では。かぐやちゃん……あ、馴れ馴れしいですね。スイマセン。かぐや、さん? エット……」
「────」
ゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「もうええわ、じゃあかぐやちゃんで。エット、質問です。かぐやちゃんの好きな花は?」
「────」
「じゃ、じゃあ好きな味噌汁の具は?」
「大根」
「はぁぁ! 大根! そ、そうですね。定番ですよね」
って、何でアタシがこの人相手にここまで気遣わんといかんねん。
ゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「好きな色は?」
「────」
「じゃあ、じゃあ好きなドレッシングは?」
「青じそ」
「あ、サッパリしてますもんね」
ゴゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
分かってきた。
この人、食べ物の話にしか反応しない。
「あの、じゃあ好きなゲームは? 何や、この質問。……サバゲーですか? まぁ、サバゲーですよね?」
「────」
「つ、次の質問です。好きなフルーツは?」
「りんご」
ホラ、即答や。
でもそれ以外の質問は全然聞いてない。
すごい遠い目してる。
ゴゴゴゴゴゴ……地鳴りのような轟音が響く。
「え? ちょっと待って。この音、かぐやちゃんの腹の音?」
もしかして、お腹空いてます? というセリフが、何だか怖くて口にできなかった。
「さ、最後の質問です。一番の好物は何ですか?」
「豆と種」
案の定、即答や。
「豆と種ですか……。えぇと、アレですね。案外、地味なものがお好きなんですね。ナ、ナッツとか?」
ちょっとオシャレな感じで言ってみたら、ポカンとしてる。
「ま、豆は腹持ちいいですもんね。ゲリラ戦にはそういう要素も必要になってきますもんね」
何でアタシがそんな意味分からんフォローせんといかんねん。
何故アタシがこんなアンケート作業をしているかというと、だ。
姉にかぐや様リサーチを頼まれたからだ。
好きな食べ物、好きな女性のタイプ、気になる女性の仕草……何でもいいから聞いて来いと。
嫌や。あの人ヘンやもん。話したくない。お姉が自分で行って。
そう叫んだアタシの前にヒラリと一万円札が舞う。
「おこづかい、あげるわ」
その一言で落ちた自分もどうかと思うけど。
実際お姉には世話になってるし。
感電した時は迎えに来てくれたし、何やかや言いながらもご飯食べさせてくれるし、お金も貸してくれたし、一応多分それなりに心配もしてくれてる……少しは。
何と言ってもこの姉の命令に逆らうことはできない。怖い。
露骨に言っちゃ駄目、さりげなくよ!
念押しと共に送り出されたわけだ。正直やってられへん!
「種はナッツ? 豆はビーン?」
「は?」
「──種はナッツ? 豆はビーン?」
この人、同じこと2回言った! しかも意味分からへん!
(ある意味)超絶美青年の(ある意味)一切の曇りの無い(ある意味)清らかな視線に見つめられ、アタシは我に返った。
「あ、スイマセン。その通りです。種がナッツ……いや、シードですよね? いやまあナッツとも言いますよね。豆はビーンで合ってます……は? 何の確認ですかね、ソレ」
尋ねると、かぐやちゃんは黙り込む。
分からん。何や、この人は。
会話のテンポもよく分からん。
会話のキャッチボールって概念が、そもそもない。
「いや、まぁいいわ。気を取り直して、と。では、今度こそ最後の、そして重要な質問です。好きなタイプはどんなですか?」
「────」
アカン。この人、またポカーンとしてるわ。
「いや、あの……かぐやちゃん? 聞いてる? 見た目とか性格とか、どんなでもいいし。できたら具体的に教えてほしいねんけど。女優とかアイドルとか、この人カワイイなって思う……ああ、その顔やめてください。こっち向いてください。えっと……たとえば、好きな仕草とかクセとか?」
「具体的にか?」
「ああ、そりゃ芸能人とか具体的な方が分かりやすくていいわ」
ああ、良かった。
かぐやちゃんがぼんやり遠くを見だした時はどうしようかと思ったわ。
アタシは手帳にボールペンを構える。
どんなマイナーなアイドルでも構わない。それがかぐやちゃんの好みなら!
「アイエムアイモデル・タボールにじゅういちシー・こまんだーあさるとかーびん」
「は?」
彼は再び繰り返した。
「アイエムアイモデル・タボール21シー・コマンダーアサルトカービン」
「…………それはハリウッドの女優とか? ち、違いますよね。じゃあ、どこの国の?」
かぐやちゃん、初めてアタシの方を向いた。すぅと息を吸い込む。
「イスラエルで独自開発された新型アサルトライフルだ。イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ(IMI)社製タボール21Cコマンダー・アサルト・カービン。全長640ミリメートル、重量2900グラム。連射速度は……」
目から爛々と異様な光線を発しているかのよう。
アカン。アタシが火ィつけてしもた。
「連射速度は毎分750から900発。ターン・バレル・ロッキングシステムにより……」
延々と続くヘンな講義。
どっかの国の銃器の話っぽい?
アタシの意識は遠のき……数時間もの間、ずっと竹やぶと空見てた。
あぁ、風が心地いいわ……。
アタシ、生きてるって実感してる……。
「アタシ、今生きてるでぇ……」
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