人形として

White Rose

文字の大きさ
上 下
34 / 49
第一章

34 折り紙

しおりを挟む
  今日の日付が分からない。時間も、知る手段がない。

  明日甘いものを食べさせてあげると言われた日から一日は経っているはずなのに、結局何ももらっていない…。
  忘れられているのだろうが、自分からは怖くて言い出せずにいる。


  時間が止まったような部屋で、月光は折り紙を折っていた。折り紙なんて小学生のときに授業でしてから一度もしていなかったが、何となくで鶴の折り方は覚えていたので、より多くの時間が潰せるようていねいにていねいに鶴を折っていく。

  この折り紙は昨日美颯がくれた。毎日暇でしょ?と気遣ってくれたが、暇だと分かっているならバイトくらいさせてほしい。…当然言えないが。何もないよりマシだからお礼はちゃんと言った。
  美颯は、月光がベッドから出ずに大人しくしていれば全く怒らない。むしろすごく優しい。
  怒らせたくなくて、月光は極力自分のしたいことを口にしないよう気をつけているが、本当は外に出たいし、それが無理ならせめて家の中でだけでもいいから自由に行動したい。

  頼みたくても頼めないので月光の不満は溜まる一方だ。


  ゆっくりと作っていたが、とうとう完成してしまった。もう一つ折ろうかと考えたが、折り紙は柄付きで十枚入りの高そうな紙だからもったいない。それに、一日に二枚も折れば五日でなくなってしまう。なくなれば一日の大半を占める暇な時間にできることがなくなる。
  どうしようかとしばらく考えて、もう一度折り直すことに決めた。
  正方形の元の形に戻そうと指を動かしたところで、リビング側のドアを開ける音が聞こえてきて、月光は手を止める。
  そしてすぐに月光の部屋のドアから美颯が食べ物を持って入ってきた。

「月光、体調どう?」

  食べ物をテーブルに置いて、尋ねながら額に触れてくる美颯に、健康です、と答えた。健康だから外に出してください、と言葉では言わないが目線をちらちらと窓に向けて伝える。

「熱はないね。咳も出てないし……。お腹とか頭、痛くない?」
「はい」
「良かった。この調子なら明後日、静奈のところ行かせてあげられそう」
「ほんと?ありがとうございます!」

  明後日が土曜日だと知れた。静奈の家に行くと言っていた日から、すでに二週間ほど経っているように感じていた月光には嬉しい情報だ。


「ねえ、ここは?まだ大丈夫?」

  そう言って美颯が月光の足の付け根あたりに手を置いた。足を曲げて少し嫌がる素振りを見せると、美颯はごめんねと手を離して謝ってくれた。
  最近、お風呂での辛い行為がない分、少し触れただけで体の中心に血が集まってくるような感じがする。だがまだ耐えられないほどではないので、大丈夫です、と月光は答えた。

「ほんとに?……まあいいけど。何してたの?」

  ベッドの側にある椅子に腰掛けて美颯が尋ねてくる。

「鶴、折ってました」

  先程折った鶴を美颯に渡すと、きれいに折れたね、と褒めてくれた。

「翔が帰ってきたら見せるといいよ」
「はい」

  翔は月光の行動を知りたがる。それは両親が生きていた頃からのことで、月光が何をしていたか、ほぼ毎日欠かさずに尋ねてくる。昔は特に何とも思っていなかったが、最近は聞かれても困る。何もしていないから何と答えれば良いかが分からないのだ。
  今日は言えることが一つできたので有り難い。







  苦しくなるまでは射精しなくて良いと言った日から四日が経った。特に何も変化はなく、暇つぶしにと昨日渡した折り紙で遊んでいる。
  何もせずに約三週間も過ごしていた月光にとっては、折り紙が貰えただけでも嬉しいらしく、外を気にする素振りはあるが外出をせがまれる事はなくなった。

「ご飯持ってきたから食べよう?」
「はい」

  ベッドに座っている月光を抱っこしてテーブルの前の椅子へ移動させた。
  最近の月光の返事は、[はい]ばかりだ。美颯を怒らせないようにと気にしているのだろう。

「月光いい子になったね」
「……美颯さん、一つだけ、お願いしていいですか?」
「いいよ。どうしたの?」

  月光髪を撫でながらそう言うと、月光は一度深呼吸してから口を開いた。

「あの、……ぼく、……頑張っていい子になるから、……えっと……週に一回くらいは、外、出たいです」

  月光がちらちらと美颯の表情を伺い見てくる。
  もう言わないと思っていたことを言われ、美颯は思わず動きを止めて月光を凝視した。

「……だめ?」
「……危ないからダメって僕言ってたと思うけど」
「でも、……少しだけ――」
「ダメだよ。はい、もうこの話は終わり。早くご飯食べて」
「……だめ、なの……?」
「何?何か問題ある?」

  いい子に出来ないなら殴るよ、と右手で拳を作って月光の頬にあてると、月光は涙を溢れさせ、俯いて首を左右に小さく振った。

「悪い子になったら静奈に会わせないから」

  そう冷たく言い放つと、ごめんなさいと謝る声がかすかに聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生で僕に生きる意味をくれたのは殺し屋でした

荷居人(にいと)
BL
病気で何もできずに死んでしまった僕。最後まで家族に迷惑をかけ、疎まれ、ただ寝てぼーっとする日々に、何のために生きてきたのかわからない。 生まれ変わるなら健康な体で色んなことをしたい、こんな自分を愛してくれる人と出会いたいと願いながら僕は、15歳という若さで他界した。 そんな僕が次に目を覚ませば何故か赤ちゃんに。死んだはずじゃ?ここはどこ?僕、生まれ変わってる? そう気づいた頃には、何やら水晶が手に当てられて、転生先の新たな親と思われた人たちに自分の子ではないとされ、捨てられていた。生まれ変わっても僕は家族に恵まれないようだ。 このまま、餓死して、いや、寒いから凍えて赤ん坊のまま死ぬのかなと思った矢先に、一人のこの世のものとは思えない長髪で青く輝く髪と金色に光る冷たい瞳を持つ美青年が僕の前に現れる。 「赤子で捨てられるとは、お前も職業に恵まれなかったものか」 そう言って美青年は、赤ん坊で動けぬ僕にナイフを振り下ろした。 人に疎まれ同士、次第に依存し合う二人。歪んだ愛の先あるものとは。 亀更新です。

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

乙女ゲーの隠しキャラに転生したからメインストーリーとは関係なく平和に過ごそうと思う

ゆん
BL
乙女ゲーム「あなただけの光になる」は剣と魔法のファンタジー世界で舞台は貴族たちが主に通う魔法学園 魔法で男でも妊娠できるようになるので同性婚も一般的 生まれ持った属性の魔法しか使えない その中でも光、闇属性は珍しい世界__ そんなところに車に轢かれて今流行りの異世界転生しちゃったごく普通の男子高校生、佐倉真央。 そしてその転生先はすべてのエンドを回収しないと出てこず、攻略も激ムズな隠しキャラ、サフィラス・ローウェルだった!! サフィラスは間違った攻略をしてしまうと死亡エンドや闇堕ちエンドなど最悪なシナリオも多いという情報があるがサフィラスが攻略対象だとわかるまではただのモブだからメインストーリーとは関係なく平和に生きていこうと思う。 __________________ 誰と結ばれるかはまだ未定ですが、主人公受けは固定です! 初投稿で拙い文章ですが読んでもらえると嬉しいです。 誤字脱字など多いと思いますがコメントで教えて下さると大変助かります…!

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

噂の補佐君

さっすん
BL
超王道男子校[私立坂坂学園]に通う「佐野晴」は高校二年生ながらも生徒会の補佐。 [私立坂坂学園]は言わずと知れた同性愛者の溢れる中高一貫校。 個性強過ぎな先輩後輩同級生に囲まれ、なんだかんだ楽しい日々。 そんな折、転校生が来て平和が崩れる___!? 無自覚美少年な補佐が総受け * この作品はBのLな作品ですので、閲覧にはご注意ください。 とりあえず、まだそれらしい過激表現はありませんが、もしかしたら今後入るかもしれません。 その場合はもちろん年齢制限をかけますが、もし、これは過激表現では?と思った方はぜひ、教えてください。

お助けキャラの俺は、今日も元気に私欲に走ります。

ゼロ
BL
7歳の頃、前世の記憶を思い出した。 そして今いるこの世界は、前世でプレイしていた「愛しの貴方と甘い口付けを」というBLゲームの世界らしい。 なんでわかるかって? そんなの俺もゲームの登場人物だからに決まってんじゃん!! でも、攻略対象とか悪役とか、ましてや主人公でも無いけどね〜。 俺はね、主人公くんが困った時に助言する お助けキャラに転生しました!!! でもね、ごめんね、主人公くん。 俺、君のことお助け出来ないわ。 嫌いとかじゃないんだよ? でもここには前世憧れたあの子がいるから! ということで、お助けキャラ放棄して 私欲に走ります。ゲーム?知りませんよ。そんなもの、勝手に進めておいてください。 これは俺が大好きなあの子をストーkじゃなくて、見守りながら腐の巣窟であるこの学園で、 何故か攻略対象者達からお尻を狙われ逃げ回るお話です! どうか俺に安寧の日々を。

【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。

花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。

処理中です...