人形として

White Rose

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第一章

30 カメラ

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「月光、あーして」
「あー……」

  美颯はいつものように食べさせてくる。一緒に食べると言っていたから同時に食べるのだと思っていたのに、この部屋に二食分運ばれてきたということ以外いつもと何も変わらない。
  美颯が月光の分の食事を美颯の前に置いて、月光の口元までスプーンで運ぶ。美颯はまだ食べる気がないようで、美颯の分はテーブルの端に寄せてある。後で食べるつもりなのだろう。
  それならいつもと変わらない。
  そう思いつつも月光は大人しく口を開けて、スプーンに乗っている料理を食べた。


  最後の一口まで食べさせてもらい、そのあとは美颯が食べるのを椅子に座ったまま眺めていた。


「僕がご飯食べ終わったらお風呂行こっか」

  半分ほど減ったところで美颯がそう言った。

「……はい」

  お風呂も、今は嫌いな時間だ。ほぼ毎日、美颯は遠慮なく性器を握って白い液体を出させようとしてくるのだ。上下に手を動かされ、月光は言い表せないような感覚に襲われる。
  月光は何度か、やめてほしいと頼んだが、これをしないと死んでしまうと聞かされ毎回耐えていた。
  本当にしなければいけない事なの?といつも不思議に思う。…聞けないけど。

  憂鬱な気分を隠すことなく、月光は俯いて美颯が食べ終えるのを待った。







「……月光、そのぬいぐるみ飾らないの?」

  以前渡したくまのぬいぐるみに顔をうずめてぼんやりしている月光に尋ねた。

「え?……あ」

  いつも、食事中ですらぬいぐるみを持っているのは、どうやら無意識だったらしい。
  気に入ってくれたのは嬉しいが、美颯はおもちゃとしてではなく飾りとして買ったのだ。常に持っていられてはカメラの意味がほとんどない。月光が持っていると、カメラに月光が映らないのだ。

「この子、ふわふわしてて気持ち良いからずっと持ってます。夜、翔の部屋にも持っていってるんです」

  買ってくださってありがとうございます、とぬいぐるみに頬ずりをする姿は天使だ。

「気に入ってくれてるなら良かった。でもこれ、月光がずっと持ってるから汚れてきてるよ?」

  食事中にスプーンから落ちた食べ物がぬいぐるみの上に乗るのはよくあることなので、頭の部分は特に汚れている。

「……そうですか?」
「うん。白だから汚れ目立つね」
「……じゃあ洗濯します」

  少し不満そうな顔をしながら月光がぬいぐるみをこちらに差し出す。
  飾らせたかったのにほかの提案をされてしまった。

「洗濯するの?これ以上汚れないように飾ろうよ」
「でも、確かにちょっと色が変わってきたかなって……」
「そっか、じゃあ洗う?」

──カメラ、壊れないかな……。

  カメラはわざわざ画質の良いものを選んで購入したのだ。出来れば壊したくない。
  最後の一口を口に入れながらどうするか考えを巡らせた。

「はい……」
「洗ってから棚に飾ろう?そのほうが汚れないでしょ」
「……」
「いや?」
「いやじゃない……です……」

  先程怒ったことの影響か、月光は怯えたように美颯の様子を伺ってくる。可愛いなーと思って見つめていると目を逸らされた。

「もう一つぬいぐるみ買ってあげよっか」
「……いいの?」

  ぱぁっと効果音がつきそうなほど、月光の表情が明るくなった。

──可愛い~!

「うん。あとで選んであげるから先にお風呂入ろう?」

  食器をお盆に乗せてそう言うと、月光の顔はまた曇った。

「……はい」

  いつもならここで月光が愚図るのだが、今日の月光は大人しく頷いた。

「食器置いてパジャマ持ってくるからちょっと待ってて」
「……はい」

  月光を椅子からベッドへ移してからお盆を持って部屋から出た。




「ごちそうさま。月光お風呂に入れてくるね」

  すでに片付けを始めている錬に食器を渡してから翔にそう声をかけた。

「ああ、ありがとう。美颯、今日は俺が入れようか?毎日任せきりだし、たまには一人で入りたいだろ」
「ううん、月光と入るの楽しいよ。あ、翔も一緒に入る?」

  冗談っぽく言ったが、実際にそうなれば美颯は嬉しい。月光も喜ぶし、二人の可愛い姿が同時に見れる。

「いや、遠慮する」
「そっか。じゃあ先に入るね」

  そう言って風呂場に寝巻きとタオルの準備をしに行った。
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