30 / 49
第一章
30 カメラ
しおりを挟む
「月光、あーして」
「あー……」
美颯はいつものように食べさせてくる。一緒に食べると言っていたから同時に食べるのだと思っていたのに、この部屋に二食分運ばれてきたということ以外いつもと何も変わらない。
美颯が月光の分の食事を美颯の前に置いて、月光の口元までスプーンで運ぶ。美颯はまだ食べる気がないようで、美颯の分はテーブルの端に寄せてある。後で食べるつもりなのだろう。
それならいつもと変わらない。
そう思いつつも月光は大人しく口を開けて、スプーンに乗っている料理を食べた。
最後の一口まで食べさせてもらい、そのあとは美颯が食べるのを椅子に座ったまま眺めていた。
「僕がご飯食べ終わったらお風呂行こっか」
半分ほど減ったところで美颯がそう言った。
「……はい」
お風呂も、今は嫌いな時間だ。ほぼ毎日、美颯は遠慮なく性器を握って白い液体を出させようとしてくるのだ。上下に手を動かされ、月光は言い表せないような感覚に襲われる。
月光は何度か、やめてほしいと頼んだが、これをしないと死んでしまうと聞かされ毎回耐えていた。
本当にしなければいけない事なの?といつも不思議に思う。…聞けないけど。
憂鬱な気分を隠すことなく、月光は俯いて美颯が食べ終えるのを待った。
☆
「……月光、そのぬいぐるみ飾らないの?」
以前渡したくまのぬいぐるみに顔をうずめてぼんやりしている月光に尋ねた。
「え?……あ」
いつも、食事中ですらぬいぐるみを持っているのは、どうやら無意識だったらしい。
気に入ってくれたのは嬉しいが、美颯はおもちゃとしてではなく飾りとして買ったのだ。常に持っていられてはカメラの意味がほとんどない。月光が持っていると、カメラに月光が映らないのだ。
「この子、ふわふわしてて気持ち良いからずっと持ってます。夜、翔の部屋にも持っていってるんです」
買ってくださってありがとうございます、とぬいぐるみに頬ずりをする姿は天使だ。
「気に入ってくれてるなら良かった。でもこれ、月光がずっと持ってるから汚れてきてるよ?」
食事中にスプーンから落ちた食べ物がぬいぐるみの上に乗るのはよくあることなので、頭の部分は特に汚れている。
「……そうですか?」
「うん。白だから汚れ目立つね」
「……じゃあ洗濯します」
少し不満そうな顔をしながら月光がぬいぐるみをこちらに差し出す。
飾らせたかったのにほかの提案をされてしまった。
「洗濯するの?これ以上汚れないように飾ろうよ」
「でも、確かにちょっと色が変わってきたかなって……」
「そっか、じゃあ洗う?」
──カメラ、壊れないかな……。
カメラはわざわざ画質の良いものを選んで購入したのだ。出来れば壊したくない。
最後の一口を口に入れながらどうするか考えを巡らせた。
「はい……」
「洗ってから棚に飾ろう?そのほうが汚れないでしょ」
「……」
「いや?」
「いやじゃない……です……」
先程怒ったことの影響か、月光は怯えたように美颯の様子を伺ってくる。可愛いなーと思って見つめていると目を逸らされた。
「もう一つぬいぐるみ買ってあげよっか」
「……いいの?」
ぱぁっと効果音がつきそうなほど、月光の表情が明るくなった。
──可愛い~!
「うん。あとで選んであげるから先にお風呂入ろう?」
食器をお盆に乗せてそう言うと、月光の顔はまた曇った。
「……はい」
いつもならここで月光が愚図るのだが、今日の月光は大人しく頷いた。
「食器置いてパジャマ持ってくるからちょっと待ってて」
「……はい」
月光を椅子からベッドへ移してからお盆を持って部屋から出た。
「ごちそうさま。月光お風呂に入れてくるね」
すでに片付けを始めている錬に食器を渡してから翔にそう声をかけた。
「ああ、ありがとう。美颯、今日は俺が入れようか?毎日任せきりだし、たまには一人で入りたいだろ」
「ううん、月光と入るの楽しいよ。あ、翔も一緒に入る?」
冗談っぽく言ったが、実際にそうなれば美颯は嬉しい。月光も喜ぶし、二人の可愛い姿が同時に見れる。
「いや、遠慮する」
「そっか。じゃあ先に入るね」
そう言って風呂場に寝巻きとタオルの準備をしに行った。
「あー……」
美颯はいつものように食べさせてくる。一緒に食べると言っていたから同時に食べるのだと思っていたのに、この部屋に二食分運ばれてきたということ以外いつもと何も変わらない。
美颯が月光の分の食事を美颯の前に置いて、月光の口元までスプーンで運ぶ。美颯はまだ食べる気がないようで、美颯の分はテーブルの端に寄せてある。後で食べるつもりなのだろう。
それならいつもと変わらない。
そう思いつつも月光は大人しく口を開けて、スプーンに乗っている料理を食べた。
最後の一口まで食べさせてもらい、そのあとは美颯が食べるのを椅子に座ったまま眺めていた。
「僕がご飯食べ終わったらお風呂行こっか」
半分ほど減ったところで美颯がそう言った。
「……はい」
お風呂も、今は嫌いな時間だ。ほぼ毎日、美颯は遠慮なく性器を握って白い液体を出させようとしてくるのだ。上下に手を動かされ、月光は言い表せないような感覚に襲われる。
月光は何度か、やめてほしいと頼んだが、これをしないと死んでしまうと聞かされ毎回耐えていた。
本当にしなければいけない事なの?といつも不思議に思う。…聞けないけど。
憂鬱な気分を隠すことなく、月光は俯いて美颯が食べ終えるのを待った。
☆
「……月光、そのぬいぐるみ飾らないの?」
以前渡したくまのぬいぐるみに顔をうずめてぼんやりしている月光に尋ねた。
「え?……あ」
いつも、食事中ですらぬいぐるみを持っているのは、どうやら無意識だったらしい。
気に入ってくれたのは嬉しいが、美颯はおもちゃとしてではなく飾りとして買ったのだ。常に持っていられてはカメラの意味がほとんどない。月光が持っていると、カメラに月光が映らないのだ。
「この子、ふわふわしてて気持ち良いからずっと持ってます。夜、翔の部屋にも持っていってるんです」
買ってくださってありがとうございます、とぬいぐるみに頬ずりをする姿は天使だ。
「気に入ってくれてるなら良かった。でもこれ、月光がずっと持ってるから汚れてきてるよ?」
食事中にスプーンから落ちた食べ物がぬいぐるみの上に乗るのはよくあることなので、頭の部分は特に汚れている。
「……そうですか?」
「うん。白だから汚れ目立つね」
「……じゃあ洗濯します」
少し不満そうな顔をしながら月光がぬいぐるみをこちらに差し出す。
飾らせたかったのにほかの提案をされてしまった。
「洗濯するの?これ以上汚れないように飾ろうよ」
「でも、確かにちょっと色が変わってきたかなって……」
「そっか、じゃあ洗う?」
──カメラ、壊れないかな……。
カメラはわざわざ画質の良いものを選んで購入したのだ。出来れば壊したくない。
最後の一口を口に入れながらどうするか考えを巡らせた。
「はい……」
「洗ってから棚に飾ろう?そのほうが汚れないでしょ」
「……」
「いや?」
「いやじゃない……です……」
先程怒ったことの影響か、月光は怯えたように美颯の様子を伺ってくる。可愛いなーと思って見つめていると目を逸らされた。
「もう一つぬいぐるみ買ってあげよっか」
「……いいの?」
ぱぁっと効果音がつきそうなほど、月光の表情が明るくなった。
──可愛い~!
「うん。あとで選んであげるから先にお風呂入ろう?」
食器をお盆に乗せてそう言うと、月光の顔はまた曇った。
「……はい」
いつもならここで月光が愚図るのだが、今日の月光は大人しく頷いた。
「食器置いてパジャマ持ってくるからちょっと待ってて」
「……はい」
月光を椅子からベッドへ移してからお盆を持って部屋から出た。
「ごちそうさま。月光お風呂に入れてくるね」
すでに片付けを始めている錬に食器を渡してから翔にそう声をかけた。
「ああ、ありがとう。美颯、今日は俺が入れようか?毎日任せきりだし、たまには一人で入りたいだろ」
「ううん、月光と入るの楽しいよ。あ、翔も一緒に入る?」
冗談っぽく言ったが、実際にそうなれば美颯は嬉しい。月光も喜ぶし、二人の可愛い姿が同時に見れる。
「いや、遠慮する」
「そっか。じゃあ先に入るね」
そう言って風呂場に寝巻きとタオルの準備をしに行った。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
悪役王子の幼少期が天使なのですが
しらはね
BL
何日にも渡る高熱で苦しめられている間に前世を思い出した主人公。前世では男子高校生をしていて、いつもの学校の帰り道に自動車が正面から向かってきたところで記憶が途切れている。記憶が戻ってからは今いる世界が前世で妹としていた乙女ゲームの世界に類似していることに気づく。一つだけ違うのは自分の名前がゲーム内になかったことだ。名前のないモブかもしれないと思ったが、自分の家は王族に次ぎ身分のある公爵家で幼馴染は第一王子である。そんな人物が描かれないことがあるのかと不思議に思っていたが・・・
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
【本編完結】まさか、クズ恋人に捨てられた不憫主人公(後からヒーローに溺愛される)の小説に出てくる当て馬悪役王妃になってました。
花かつお
BL
気づけば男しかいない国の高位貴族に転生した僕は、成長すると、その国の王妃となり、この世界では人間の体に魔力が存在しており、その魔力により男でも子供が授かるのだが、僕と夫となる王とは物凄く魔力相性が良くなく中々、子供が出来ない。それでも諦めず努力したら、ついに妊娠したその時に何と!?まさか前世で読んだBl小説『シークレット・ガーデン~カッコウの庭~』の恋人に捨てられた儚げ不憫受け主人公を助けるヒーローが自分の夫であると気づいた。そして主人公の元クズ恋人の前で主人公が自分の子供を身ごもったと宣言してる所に遭遇。あの小説の通りなら、自分は当て馬悪役王妃として断罪されてしまう話だったと思い出した僕は、小説の話から逃げる為に地方貴族に下賜される事を望み王宮から脱出をするのだった。
子悪党令息の息子として生まれました
菟圃(うさぎはたけ)
BL
悪役に好かれていますがどうやって逃げられますか!?
ネヴィレントとラグザンドの間に生まれたホロとイディのお話。
「お父様とお母様本当に仲がいいね」
「良すぎて目の毒だ」
ーーーーーーーーーーー
「僕達の子ども達本当に可愛い!!」
「ゆっくりと見守って上げよう」
偶にネヴィレントとラグザンドも出てきます。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
転生したら弟がブラコン重傷者でした!!!
Lynne
BL
俺の名前は佐々木塁、元高校生だ。俺は、ある日学校に行く途中、トラックに轢かれて死んでしまった...。
pixivの方でも、作品投稿始めました!
名前やアイコンは変わりません
主にアルファポリスで投稿するため、更新はアルファポリスのほうが早いと思います!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる