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第一章
17 悪夢
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───
触れるのは冷たい床と手足に付いた枷。
見えるのは鉄格子と姉弟の怯えた顔。
聞こえるのは姉弟のすすり泣く音と鎖同士の擦れる音。
そして、現れたのは、月光達姉弟を攫った誘拐犯。
「おはよう、よく眠れた?」
大型犬がぎりぎり3匹ほど入れそうな正方形の檻に入れられた月光達に、誘拐犯の男が機嫌良く話しかける。
鍵が開けられ、出ておいで、と促されて、月光は嫌がる静奈と翔を宥めて檻から出た。
カタカタと震えだす静奈を後ろに隠し、今にも大音量で泣き叫びそうな翔の口を小さな手で塞いだ。
──ぼくが、まもらなきゃ……!
翔はまだ四歳、静奈は女の子。だから、月光がふたりを守らなくてはいけない。
「……おにいさん、ぼく、……ずっとここにいるから、静姉と翔はお家に帰して」
月光達を誘拐した男は、月光からすれば[おにいさん]という年齢ではない。でも、そう呼ばなければ暴力を振るわれる。
声が震えるのを必死に抑えて、無理矢理作った笑顔でそう言ってみるが男の表情が影った。
「静奈ちゃん、翔くん。お家に帰りたい?」
床に転がっていた固そうな棒を手に、男が二人に尋ねた。
「帰りたいよぉ」
静奈は何度も首を横に振るが、翔は正直にそう叫んで泣き始める。
「……翔くん、帰りたい?お兄ちゃん寂しいなぁ。寂しくて静奈ちゃんと月光くん殺しちゃいそう」
持っていた棒で翔の足を殴った男が、行動に似合わない穏やかな声で翔に言った。
「ぅわあぁぁあーーー!!!」
次は、屈んで足を両手で押さえる翔の背中に棒を振り下ろし、翔の叫び声が止んだ。翔は床に倒れたが、男がもう一度棒を持ち上げたのを見て、月光は男の腕を掴む。
「やめて!!おにいさん、ごめんなさい!ぼく、……ぼくが翔に言わせたの!翔悪くないからやめて!おねがい!!」
男を翔から遠ざけようと何度も引っ張るが、男はびくともしない。
「……月光くんは、ここから出たいの?」
感情を消したような表情で尋ねられた月光は、ここにいたい、と答えた。
「月光はいい子だね~」
この男はよく月光を褒めてくれる。
静奈と翔を守ることを第一に考えている月光は、なるべく二人に害がないよう、男に気に入ってもらおうと考えを巡らせていた。
その甲斐が有ってか、男は月光しか[遊び]に誘わない。
公園で友だちとする遊びはすごく楽しいのに、この男との遊びは言い表せないほど苦しくて痛い。だから、[遊び]に翔や静奈が誘われないことが、月光は少し嬉しい……ことにしたい。
最初に男と遊んだのは静奈だったが、それ以降は静奈も翔も、男の[遊び]に付き合わされていない事が不幸中の幸いだ。
苦しい思いをするのは月光ひとりで十分だ。
「月光くん、服、脱いで。お兄ちゃんと遊ぼうか」
そう言って男が頭を撫でてくれる。
ここで拒否したり泣いたりすれば殴られるのが分かっているので、今できる精一杯の笑顔を見せて頷いた。
──いやな時間が始まる……。逃げたい。
いつになったら逃げれるだろうか……。探してくれている人はいるだろうか……。
窓から見える外に一瞬だけ目を向け、そして着せられている大人用の大きなTシャツにゆっくりと手をかけた。
出来ることなら今すぐ翔の元に駆け寄りたい。怪我をしていたら手当てをしてあげたい。
でも手当ては、月光が男を怒らせる事なく[遊び]を終わらせなければさせてもらえない。
「……おにいさん、ぼく、ふわふわのベッドがいい」
[遊び]を、姉弟に見せたくない。うっかり叫んでしまえばまた翔が泣いてしまうし、静奈は男がこの部屋にいるだけで声を出せないほど怯えてしまうから。
「いいよ。じゃあ翔くんと静奈ちゃんには籠の中で待っててもらおうね」
鍵を渡された月光は二人を檻に誘導し、鍵をかけた。
「つきにぃ……」
「……お風呂、入ってくるだけだから翔は静姉とさきに寝てて」
手を掴んで何かを訴えてくる翔を宥めて、月光は男と部屋を出た。
グチュグチュと月光の大嫌いな音が聞こえる。
「気持ちいい?」
否定は許されない。月光はひたすら首を縦に振った。
「……本当?良かった~」
男がガンッと勢いよく突き上げる。自分の快楽のことしか頭にない男の動きに、月光は苦しいと男に気づかれないように口角をせいいっぱいあげる。
「ぃ……いたっ」
ずっと喜んでいるように見せようと頑張っていた月光だが、つい声に出してしまった。慌てて口を塞ぐがもう遅い。
「……痛い?こんなに優しくしてやってるのに?」
男の表情が急変する。
──こわい……
男が腕を振り上げたところで月光は目が覚めた。
──……悪夢、だ……。
触れるのは冷たい床と手足に付いた枷。
見えるのは鉄格子と姉弟の怯えた顔。
聞こえるのは姉弟のすすり泣く音と鎖同士の擦れる音。
そして、現れたのは、月光達姉弟を攫った誘拐犯。
「おはよう、よく眠れた?」
大型犬がぎりぎり3匹ほど入れそうな正方形の檻に入れられた月光達に、誘拐犯の男が機嫌良く話しかける。
鍵が開けられ、出ておいで、と促されて、月光は嫌がる静奈と翔を宥めて檻から出た。
カタカタと震えだす静奈を後ろに隠し、今にも大音量で泣き叫びそうな翔の口を小さな手で塞いだ。
──ぼくが、まもらなきゃ……!
翔はまだ四歳、静奈は女の子。だから、月光がふたりを守らなくてはいけない。
「……おにいさん、ぼく、……ずっとここにいるから、静姉と翔はお家に帰して」
月光達を誘拐した男は、月光からすれば[おにいさん]という年齢ではない。でも、そう呼ばなければ暴力を振るわれる。
声が震えるのを必死に抑えて、無理矢理作った笑顔でそう言ってみるが男の表情が影った。
「静奈ちゃん、翔くん。お家に帰りたい?」
床に転がっていた固そうな棒を手に、男が二人に尋ねた。
「帰りたいよぉ」
静奈は何度も首を横に振るが、翔は正直にそう叫んで泣き始める。
「……翔くん、帰りたい?お兄ちゃん寂しいなぁ。寂しくて静奈ちゃんと月光くん殺しちゃいそう」
持っていた棒で翔の足を殴った男が、行動に似合わない穏やかな声で翔に言った。
「ぅわあぁぁあーーー!!!」
次は、屈んで足を両手で押さえる翔の背中に棒を振り下ろし、翔の叫び声が止んだ。翔は床に倒れたが、男がもう一度棒を持ち上げたのを見て、月光は男の腕を掴む。
「やめて!!おにいさん、ごめんなさい!ぼく、……ぼくが翔に言わせたの!翔悪くないからやめて!おねがい!!」
男を翔から遠ざけようと何度も引っ張るが、男はびくともしない。
「……月光くんは、ここから出たいの?」
感情を消したような表情で尋ねられた月光は、ここにいたい、と答えた。
「月光はいい子だね~」
この男はよく月光を褒めてくれる。
静奈と翔を守ることを第一に考えている月光は、なるべく二人に害がないよう、男に気に入ってもらおうと考えを巡らせていた。
その甲斐が有ってか、男は月光しか[遊び]に誘わない。
公園で友だちとする遊びはすごく楽しいのに、この男との遊びは言い表せないほど苦しくて痛い。だから、[遊び]に翔や静奈が誘われないことが、月光は少し嬉しい……ことにしたい。
最初に男と遊んだのは静奈だったが、それ以降は静奈も翔も、男の[遊び]に付き合わされていない事が不幸中の幸いだ。
苦しい思いをするのは月光ひとりで十分だ。
「月光くん、服、脱いで。お兄ちゃんと遊ぼうか」
そう言って男が頭を撫でてくれる。
ここで拒否したり泣いたりすれば殴られるのが分かっているので、今できる精一杯の笑顔を見せて頷いた。
──いやな時間が始まる……。逃げたい。
いつになったら逃げれるだろうか……。探してくれている人はいるだろうか……。
窓から見える外に一瞬だけ目を向け、そして着せられている大人用の大きなTシャツにゆっくりと手をかけた。
出来ることなら今すぐ翔の元に駆け寄りたい。怪我をしていたら手当てをしてあげたい。
でも手当ては、月光が男を怒らせる事なく[遊び]を終わらせなければさせてもらえない。
「……おにいさん、ぼく、ふわふわのベッドがいい」
[遊び]を、姉弟に見せたくない。うっかり叫んでしまえばまた翔が泣いてしまうし、静奈は男がこの部屋にいるだけで声を出せないほど怯えてしまうから。
「いいよ。じゃあ翔くんと静奈ちゃんには籠の中で待っててもらおうね」
鍵を渡された月光は二人を檻に誘導し、鍵をかけた。
「つきにぃ……」
「……お風呂、入ってくるだけだから翔は静姉とさきに寝てて」
手を掴んで何かを訴えてくる翔を宥めて、月光は男と部屋を出た。
グチュグチュと月光の大嫌いな音が聞こえる。
「気持ちいい?」
否定は許されない。月光はひたすら首を縦に振った。
「……本当?良かった~」
男がガンッと勢いよく突き上げる。自分の快楽のことしか頭にない男の動きに、月光は苦しいと男に気づかれないように口角をせいいっぱいあげる。
「ぃ……いたっ」
ずっと喜んでいるように見せようと頑張っていた月光だが、つい声に出してしまった。慌てて口を塞ぐがもう遅い。
「……痛い?こんなに優しくしてやってるのに?」
男の表情が急変する。
──こわい……
男が腕を振り上げたところで月光は目が覚めた。
──……悪夢、だ……。
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