人形として

White Rose

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第一章

15 意地悪

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「……月光くん、翔にすごく心配かけてたんだよ?最近病気がちだしもう辞めちゃおうよ。僕も翔もその方が安心するし」

  ね?と、そっと頭を撫でる。月光を学校に通わせたいなんて誰も思っていないし望んでもいないことを知らせたいが、敢えて遠回しな言い方を選んだ。

「……学校は、行かせてください。卒業まで、あと1年と少しだから」

  月光の通っている定時制高校は四年まである。だから、18歳である月光が卒業するにはあと一年も通わなければならない。

「そっか。じゃあせめて身体が健康な状態に戻るまでは休学しよう?あ、バイトはもう禁止。分かった?」

  学校にも行かせるつもりはない。だが、今はこれで月光と翔の双方を納得させる。

「……はい」

  これで、しばらくの間月光を部屋から出さない口実が作れた。翔に目を向けると目が合い、ありがとう、と口パクで伝えられて美颯は頷く。
  翔はきっと、自分が犯罪の手伝いをさせられているなんて夢にも思わないだろう。

  元々、二人の両親が健在だった頃、翔は月光を軟禁していた。美颯がストーカーをし始めた頃にはすでに、月光は軟禁されていた。月光が中学生になったばかりのころ、月光が必要な時以外に外へ出ようとすると、翔は月光を押し入れに閉じ込めて、次の日の登校の直前まで押し入れに入れたままにしているのを窓越しに何度も見たことがある。

  お金を沢山稼げるようになって月光を外に出さずに安全な場所で過ごさせてやりたい、と、意訳すれば、監禁したい、とも捉えることが出来る言葉を平然と言ってのけた翔は、少し狂っているのかもしれない。…すでに人を殺したことのある人間が言えたことではないが。

「ん、いい子だね」

  正しい返事だと伝えるために抱きついて頭を撫でてあげた。

「そろそろご飯食べる?」
「はい」
「錬も翔も今食べるよね?……買ってきたものしかないけど」

  食べるよね?と尋ねたが、返事を聞く前に月光を抱えてリビングに向かった。







  なんとなく、美颯と翔の距離が近くなっているような気がする。先程買ってきたという夕飯をのんびりと食べながら、何故だろう、としばらく考えて、翔が美颯に敬語を使っていないことに気づいた。
  そして、お互いを呼び捨てにしていることにも同時に気がついた。

「月光くん、大丈夫?ご飯もういらない?」

  ぼんやりし過ぎていたようで、同じ椅子に座っている美颯が心配そうに顔を覗いてくる。

「違います。……翔と美颯さん、仲良くなったなって考えてただけで」

  まだご飯食べます、と白米を口に入れた。

「仲良くなったって……元々仲いいよね?翔」

  楽しそうに美颯が笑う。

「ああ、そうだな」
「あ、月光くんも名前だけで呼んでいい?」
「はい!」
「ありがとう。じゃあ、月光は僕のこと、美颯お兄ちゃんって呼んでよ」
「……翔は美颯って呼んでました」
「月光にはお兄ちゃんって言って欲しいのー」
「……み……、みはや、おにいちゃん……やっぱり美颯さんのほうが呼びやすいです」

  恥ずかしさで、頬が赤らむのが自分でもわかる。

「可愛い~!月光、今までよく無事に生きてられたね!?」

  美颯の言葉に、曖昧に頷く。自分の行動力や静奈と翔の武力のおかげで、どうにか無事に生きてこれたが、本当に死を覚悟したことは何度もある。
  昔から、自分の容姿が大嫌いだ。

  ふと、初めて拉致された時のことを思い出してしまって、振り払うように首を大きく振った。




  夕飯を食べたあと錬と翔は片付けを始め、その間に月光は薬を飲んでから美颯と一緒にお風呂に入った。


「可愛い~!」

  服を脱いで浴室に入るとすぐ、美颯に抱きつかれた。

「ほんとに男の子だったんだー。でも柔らかいね」

  筋肉ない、と美颯が笑いながら月光の体に手を這わせる。しばらくして、胸やお腹を触っていた手が性器に触れた。

「わっ、あ、やめてください!」

  後ろから抱きつかれているため押しのける事ができず、月光は美颯の腕を掴んで手を離させようとした。
  だが、美颯は笑うだけでやめようとしない。

「可愛過ぎない?あ、月光って精通まだだよね?今教えてあげる」
「ゃ、やだ!やめてっ……みは…、……うぁ……」

  月光の訴えを無視して美颯が手を上下に動かし始めた。

「可愛い~、もう少しだから頑張って」

  美颯の腕を押し離したいのに足に力が入らなくなって、気付けば縋り付くように腕を掴んでいた。

「ふぁっ……ゃ、あ……うっ」

  初めて性器から白い液体を出した。なんだこれ!?と一瞬、思考が停止したが、しばらくすると冷静になってきて、美颯が目の前で先程の液体がかかった手を舐めていることに気づき、慌てて美颯の手にシャワーの水をかけた。

「うわっ冷た!ちょ、月光やめて!」

  冷水に驚いた美颯が急いで水を止めた。

「いじわる!やめてって言ったのに!」

  泣きそうになりながらも美颯を睨んだ。

「ごめんね、そんなに嫌だった?でもこれはちゃんとしないと身体に悪いから」

  ぎゅっと抱きしめて頭を撫でられ、月光は首を傾げる。

「……そうなんですか?」
「そうだよ。中学生くらいから男の子は皆これしてるんだけど……知らなかった?」
「……知らなかった……ごめんなさい、水かけちゃった……」
「そっか、知らなかったから怖かったんだよね?僕もごめんね、知ってると思ってたから……。でも学校で習わなかった?」

  月光はしばらく考えてからこくりと頷いた。

「そうなの?普通は保健の授業でするんだけど、もしかして寝てた?」
「保健……わからないです」

  実際は翔が性についての授業だけ受けさせないようにしていて、ストーカーをしていた美颯は休んでいたと知っているが、月光は何も知らない。

「……さっきの、美颯さんもするの?翔も?錬も?」
「うん、でも月光は手が小さいから次からも僕がしてあげる」
「……」

  礼を言うべきなのかと少し悩んだが、恥ずかしくて俯いたまま何も言えなかった。




「月光、今日からここで一緒に住むことになったけど、何か僕に知っててもらいたいことってある?あ、好きな食べ物と嫌いな食べ物はもう知ってるからそれ以外で」

  体を洗ってもらい、美颯も体を洗い終えて二人で浴槽に浸かっていると、美颯が親切にそう尋ねてきた。

「知っててほしいというか……お願いしたい事ならあります」
「なに?」
「今、定時制に通ってて……ぼく、大人になったらお金は返すので、全日制に通いたいです」

  図々しいだろうか…。美颯の表情が曇る。
  でもバイトをしなくていいなら、月光が定時制に通う理由がない。

「……もう学校もバイトも行かなくていいって言ったよね?」
「ぼくの体調が治るまではですよね?」
「……あー……確かに言ったね」

  美颯は、自分が言ったことを今思い出したようだ。

「……じゃあ学校通うなら沢山ルール決めないと」
「ルール……?」
「ルール。今言っても忘れると思うからお風呂上がってから言うね」

  一回聞いただけでは忘れてしまうほど沢山あるのだろうか。
  自分の足元を見ていた顔をあげると、美颯がニコリと笑って頭を撫でてくれた。

「そんな不安そうな顔しなくても簡単な事しか言わないから大丈夫だよ」
「……はい」

──じゃあ何で言わないの?

  簡単な事すら覚えれないほどの馬鹿だと思われているのだろうか…。

「ところで月光はお風呂で遊ばないの?アヒルのおもちゃとかもって入ってくると思ってたんだけど。…あ、翔が荷物に詰めるの忘れちゃったとか?」
「……持ってません。おもちゃなんて買うのお金もったいないし、……ぼく子どもじゃないから」

──美颯さん、ぼくのこと馬鹿にしすぎ……。

「えー、遊ぼうよ。明日買ってくるから」

  楽しそうにニコニコと笑っている美颯が、正面で体育座りをしている月光を抱き寄せた。年齢を忘れられている気がした月光は、ぼくは18歳です、とつぶやいてみるが美颯には聞こえていなかったのか、効果はなさそうだ。

「あの、一人で入れるから、明日からは一人で入らせてくだい」
「ここの浴槽深いから溺れちゃうよ?」

  確かに以前住んでいたアパートの浴槽に比べれば深いが、溺れる程ではない。

「溺れません。ほんとに大丈夫なので、明日は一人で入らせてください」

  ふにふにと体に触れてくる美颯から少し身を離したが、すぐに距離を詰めて抱きしめられた。

──美颯さん、いい人だけど……

  幼稚園児を相手にしている様な対応はできればやめてほしい。言わないと通じないだろうか…否、言っても通じない気がする。

「月光っていつも一人で入ってたの?」
「……急いでる時は翔と入ってたけど、基本一人で入ってました」

  これ以上子供扱いされたくなくて少しだけ嘘をつく。
  本当は、喧嘩しているときだけ一人で入って、基本翔と二人だった。

「そうなんだ。一人で入れるんだね」

  すご~い、とまたもや子供扱い。

「……当然です」

──高校生相手に何を言ってるんだこの人は……。

「じゃあ明日一人で入らせてあげる。……熱い?お風呂もういい?」

  月光の顔を覗き込んだ美颯が心配そうに尋ねてくる。

「はい」
「逆上せちゃう前に上がろっか」

  そう言われて脱衣場に出た。
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