もっとちょーだい!

みららぐ

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もっとちょーだい!

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敦(あつし)くんと喜良(きら)くん。

二人はあたしと同い年で、隣の空き部屋に越してきた隣人だ。
性格が何かと凸凹な二人と出会って、早半年。
最初は、もともと付き合っていたダーリンが何故かトツゼン姿を消した寂しさから二人に心を閉ざしていたけれど、今ではかなり打ち解けてきたと思う。

いや、打ち解けすぎてきた…と、思わなくもない。
だって、いまこの二人は…

「ね、里歩ちゃーん。ビール無くなっちゃった!」
「冷蔵庫の新しいヤツ持ってきてー」

「…」

何故か、あたしの部屋で勝手に飲み会を開いているから。
どうしてこんな展開になったのか、あたし自身も本当に謎で。
あれは確か夕飯後。テレビを見ながらソファーで寛いでいたら、いきなりチャイムと共に二人がずかずかと入ってきて、コンビニで買ってきたらしいたくさんのビールを広げ…今に至る。
いきなり何してるの、と言ったら敦くんが「里歩の部屋で飲みたくなったから」だって。
いや、それちゃんとした理由になってないし!

それでも。
独り暮らしは寂しいし、いきなりでもこうやって来ると、あたしの中のそれも少しは和らいでくれる。
だからあたしは怒るに怒れなくて、二人の前にもう何本目かわからないビールを置いた。

「はいどーぞ。ってか飲み過ぎじゃない?」

そう言いながら、あたしが二人に目を遣ると、喜良くんが言う。

「だーいじょーぶ、大丈夫!これでもここ1週間はビール禁止にしてたんだから、俺達」

だからゆっくり飲ませて、と。
目の前の新しいビール缶を開ける。
っていうか、ゆっくり飲みたいなら自分の部屋で飲めば良くない?
そう言おうとしたら今度は敦くんが言った。

「そうそう。まぁ喜良の禁止期間は短すぎだけど、俺なんか3ヶ月我慢したからね。頑張った俺ってすばらしー」

そう言って、勢いよくビールを飲み干していく敦くん。
…二人のその姿はカッコイイんだけどなぁ。
お互いに一つのソファーに隣同士で並んで座って…仲良すぎか!
あたしはそんな二人を横目に、向かい側のソファーに座って言う。

「3ヶ月我慢って、何で」
「そりゃあ健康のため?まぁお気に入りのビールが急激に値上がりしたのもあるけど」
「へー…敦くんが健康に気を遣うとか意外だわ」

そう言って、あたしも。
冷蔵庫の中に冷やしておいた、ブドウのチューハイを開ける。
そして一口、口に含むと、その会話を聞いていた喜良くんが言った。

「俺も!俺も健康に気を遣ってるよ、里歩ちゃん!」
「え、喜良くんも?」
「うん!酒禁止!…は、1週間で終わったけど、タバコは吸ってないし!朝晩ランニングしてるし!」
「え、そうなの!?」

それは初耳だ。
あの喜良くんが朝晩ランニングとか、それこそ意外すぎる。
しかしあたしがそんな喜良くんの言葉に驚いていると、敦くんがすかさず喜良くんに言う。

「嘘つけ。ランニングしてる姿一回も見せたことねぇだろ」

そう言って、ビールを飲み干す。
え、嘘だったの!?
そう思って喜良くんを見ると、喜良くんが言った。

「あ、お前言うなよー。せっかく里歩ちゃんからの好感度アップのチャンスだったのに」
「だからってあからさまの嘘はまずいだろ」
「信じちゃったじゃん喜良くーん」

確かに、喜良くんの言うとおり、ほんの少しだけ喜良くんの好感度が少し上がった瞬間だったのに、まさかの嘘だったことを知って、一気に急降下。
抜け駆けしようとするからだよ、とか敦くんが言うから、更にこの二人がわからない。
ところでいったい、本当にどうしてあたしの部屋でいきなり飲むことになったんだろう。
そう思って二人に問いかけたら、敦くんが言った。

「そりゃあまぁ、皆で飲んだら楽しいからね」
「え…それだけ?」
「それだけって、他にも何か理由が必要なわけ?」

そう問いかけて、真っ直ぐにあたしを見る敦くん。
別に、必要なわけじゃないけど。
意外すぎる簡単な理由にあたしが拍子抜けしていると、今度は喜良くんが言う。

「あと!あと!里歩ちゃん独り暮らしだから、寂しいかもとか思って!」
「え、」
「二人で考えたんだよ!褒めて!」

そう言って、犬みたいに無邪気な笑顔を見せる喜良くん。

…二人とも…。
そんな二人の考えに感動していると、そんなあたしに敦くんが言った。

「…と、いうわけで」
「?」
「ビール、もっとちょうだい!」





【もっとちょーだい!】





(ちょっと待って、二人が急にそんなこと言う魂胆わかった気がする!)
(魂胆って、人聞きわるいなー)
(なー)
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