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元カレからの連絡
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「呼び方変えない?」
ある日の夜。二人で向き合ってご飯を食べていたら、柳瀬さんがそう言った。
「ほら、付き合ってるんだしずっと“柳瀬さん”じゃ堅苦しくない?あと家では敬語もやめていいよ」
柳瀬さんはそう言うと、「下の名前で呼んでほしい」って言うから、あたしは少し照れくさくなる。
でもでも、確かに下の名前で呼ぶと恋人らしくなるし、距離が近くなるみたいで憧れてしまう。
だけど会社と家でちゃんと分けることが出来るだろうか、あたし。
「か、会社で間違えないか不安です、」
「ああ、あるかもね」
「家と同じように言っちゃったらみんなにバレるじゃないですか」
バレたら茶化されそう。恥ずかしい。
あたしがそう思って不安でいたら、柳瀬さんがちょっと笑って言う。
「え、いいじゃん。別にウチの会社、社内恋愛禁止とかじゃないでしょ」
「いや、そうですけど」
「家でも敬語じゃ息苦しくない?」
「それは…」
「俺全然平気だよ。ため口できてOKだから」
「…」
…柳瀬さんはそう言ってくれるから、本当にあたしが息苦しくならないように考えてくれているんだと思う。
でも確かに、会社でもあたしはほとんど事務所にいるし、基本柳瀬さんと二人きりだ。
会社で間違えてしまっても、誰かに聞かれるとかはないかもしれない。多分。
あたしはそう思うと、やがて柳瀬さんに言った。
「…ん、わかりました。いや、わかった」
「!」
「修史…くん。いや、修史さん」
あたしはちょっと勇気を出してそう言うと、でもやっぱり恥ずかしくなってしまう。
「なんかぎこちないね」
「だ、だって…」
「でも、さん付けも新鮮でいいかも」
言ってみたら照れてしまったけれど、でも柳瀬さん…修史さんが喜んでくれてるみたいだし、いっか。
だけど同時に、気づいてしまった。呼び方…この前の夢とおんなじになっちゃったな。
偶然だよね。きっと、偶然。だと思いたい。
…………
ご飯を食べてお風呂に入ったあと、修史さんとゲームをしていると、あたしのスマホに通知が届いた。
「…なんか鳴った?」
「修史さんのスマホじゃなくてですか?や、じゃなくて?」
「慣れないね。ちょっと待って」
修史さんはあたしの慣れないため口に少し笑うと、あたしの頭を撫でて自身のスマホを見る。
…何気なくこういうのをやってのけちゃうのがかっこいい。
でも、
「…何も来てないよ。鏡子じゃない?」
「え、」
あたしは修史さんの言葉を聞くと、ゲームの手を止めた。
因みに、修史さんもあたしのことを「鏡子ちゃん」から「鏡子」になったのだ。
あたしは自身のスマホに目をやると、最近多くなった同じ通知が目に入った。
“着信1件 広喜くん”
その通知は、広喜くんから着信があったという通知だった。
あたしは広喜くんからの着信を受け取らないように設定しているけど、毎回通知だけくるのだ。
…一体何の用なんだろうか。大体想像はつかなくもないけど、気にして掛けなおすのは危険だ。
この前からちょくちょくかかってくるようになって、毎日数回はこうやって通知がくる。
…柳瀬さん…いや、修史さんに言った方がいいんだろうか。
あたしはそう思うと、とりあえず修史さんに言った。
「…広喜くんからの着信」
「えっ」
あたしが呟くようにそう言うと、修史さんはちょっと驚いたようにあたしのスマホを覗き込んでくる。
「この前からたまにかかってくるんで…くるの。今日なんてもう4回目」
「え、そうなの!なんで…っつか着信だけ?」
「うん、もう連絡は取れないように設定してるから、着信も通知だけなんだけど」
「…」
でもきっと、お金関係の話だろうし、気にしなくても平気だよね。
あたしは内心そう思っているけれど、修史さんは違っているようで、修史さんは少し黙って何かを考えると、言った。
「…わかった。俺連絡とれるし、ちょっと広喜くんと会ってみる」
「え、やな…修史さんが!?それならあたしがっ、」
「鏡子はだめ。何されるかわからないし、俺が心配」
鏡子は家にいて。
柳瀬さんはそう言ってくれるけれど、それはそれであたしが心配だな。
広喜くんちょっと暴力的なところあるし、大丈夫かな。
…あと、つけてみようかな。でもいつ行くんだろ。それはこれから連絡とるのか。
あたしがそう思っていると、修史さんがふいに何かを思いついたように言う。
「あ、そだ。鏡子ちょっとスマホ貸して」
「?うん」
「広喜くんの番号にSMS送ってみる」
その方が広喜くんも見るだろうから。
修史さんはそう言うと、あたしのスマホで広喜くんの番号に文字を打つ。
「…なんて打ってるの?」
「とりあえず、“どうしたの?”って。一言。…はい送った」
あとはゲームでもして待ってようよ。
あたしは修史さんの言葉に頷くと、再び修史さんとゲームを再開した。
…………
寝室に入って二人でベッドに横になっていると、その時ふいに広喜くんに送ったSMSが気になって、あたしはスマホを開いた。
すると、やっぱり広喜くんからメッセージが届いていた。
“俺やっぱ鏡子がいないとだめだ。会いたい”
「!」
でも、届いていたメッセージは、付き合っていたころの広喜くんからは想像ができないまさかのメッセージで、あたしは思わず固まってしまう。
…ってかこれ、本当に広喜くんが打ったものなのかな。そう疑っちゃうくらい。
あたしがそう思っていると、隣にいる修史さんが言った。
「広喜くんから返事来た?」
「え」
その問いかけに、あたしは…
「…来てないみたい」
「そう、」
本当のことは、言えなかった…。
ある日の夜。二人で向き合ってご飯を食べていたら、柳瀬さんがそう言った。
「ほら、付き合ってるんだしずっと“柳瀬さん”じゃ堅苦しくない?あと家では敬語もやめていいよ」
柳瀬さんはそう言うと、「下の名前で呼んでほしい」って言うから、あたしは少し照れくさくなる。
でもでも、確かに下の名前で呼ぶと恋人らしくなるし、距離が近くなるみたいで憧れてしまう。
だけど会社と家でちゃんと分けることが出来るだろうか、あたし。
「か、会社で間違えないか不安です、」
「ああ、あるかもね」
「家と同じように言っちゃったらみんなにバレるじゃないですか」
バレたら茶化されそう。恥ずかしい。
あたしがそう思って不安でいたら、柳瀬さんがちょっと笑って言う。
「え、いいじゃん。別にウチの会社、社内恋愛禁止とかじゃないでしょ」
「いや、そうですけど」
「家でも敬語じゃ息苦しくない?」
「それは…」
「俺全然平気だよ。ため口できてOKだから」
「…」
…柳瀬さんはそう言ってくれるから、本当にあたしが息苦しくならないように考えてくれているんだと思う。
でも確かに、会社でもあたしはほとんど事務所にいるし、基本柳瀬さんと二人きりだ。
会社で間違えてしまっても、誰かに聞かれるとかはないかもしれない。多分。
あたしはそう思うと、やがて柳瀬さんに言った。
「…ん、わかりました。いや、わかった」
「!」
「修史…くん。いや、修史さん」
あたしはちょっと勇気を出してそう言うと、でもやっぱり恥ずかしくなってしまう。
「なんかぎこちないね」
「だ、だって…」
「でも、さん付けも新鮮でいいかも」
言ってみたら照れてしまったけれど、でも柳瀬さん…修史さんが喜んでくれてるみたいだし、いっか。
だけど同時に、気づいてしまった。呼び方…この前の夢とおんなじになっちゃったな。
偶然だよね。きっと、偶然。だと思いたい。
…………
ご飯を食べてお風呂に入ったあと、修史さんとゲームをしていると、あたしのスマホに通知が届いた。
「…なんか鳴った?」
「修史さんのスマホじゃなくてですか?や、じゃなくて?」
「慣れないね。ちょっと待って」
修史さんはあたしの慣れないため口に少し笑うと、あたしの頭を撫でて自身のスマホを見る。
…何気なくこういうのをやってのけちゃうのがかっこいい。
でも、
「…何も来てないよ。鏡子じゃない?」
「え、」
あたしは修史さんの言葉を聞くと、ゲームの手を止めた。
因みに、修史さんもあたしのことを「鏡子ちゃん」から「鏡子」になったのだ。
あたしは自身のスマホに目をやると、最近多くなった同じ通知が目に入った。
“着信1件 広喜くん”
その通知は、広喜くんから着信があったという通知だった。
あたしは広喜くんからの着信を受け取らないように設定しているけど、毎回通知だけくるのだ。
…一体何の用なんだろうか。大体想像はつかなくもないけど、気にして掛けなおすのは危険だ。
この前からちょくちょくかかってくるようになって、毎日数回はこうやって通知がくる。
…柳瀬さん…いや、修史さんに言った方がいいんだろうか。
あたしはそう思うと、とりあえず修史さんに言った。
「…広喜くんからの着信」
「えっ」
あたしが呟くようにそう言うと、修史さんはちょっと驚いたようにあたしのスマホを覗き込んでくる。
「この前からたまにかかってくるんで…くるの。今日なんてもう4回目」
「え、そうなの!なんで…っつか着信だけ?」
「うん、もう連絡は取れないように設定してるから、着信も通知だけなんだけど」
「…」
でもきっと、お金関係の話だろうし、気にしなくても平気だよね。
あたしは内心そう思っているけれど、修史さんは違っているようで、修史さんは少し黙って何かを考えると、言った。
「…わかった。俺連絡とれるし、ちょっと広喜くんと会ってみる」
「え、やな…修史さんが!?それならあたしがっ、」
「鏡子はだめ。何されるかわからないし、俺が心配」
鏡子は家にいて。
柳瀬さんはそう言ってくれるけれど、それはそれであたしが心配だな。
広喜くんちょっと暴力的なところあるし、大丈夫かな。
…あと、つけてみようかな。でもいつ行くんだろ。それはこれから連絡とるのか。
あたしがそう思っていると、修史さんがふいに何かを思いついたように言う。
「あ、そだ。鏡子ちょっとスマホ貸して」
「?うん」
「広喜くんの番号にSMS送ってみる」
その方が広喜くんも見るだろうから。
修史さんはそう言うと、あたしのスマホで広喜くんの番号に文字を打つ。
「…なんて打ってるの?」
「とりあえず、“どうしたの?”って。一言。…はい送った」
あとはゲームでもして待ってようよ。
あたしは修史さんの言葉に頷くと、再び修史さんとゲームを再開した。
…………
寝室に入って二人でベッドに横になっていると、その時ふいに広喜くんに送ったSMSが気になって、あたしはスマホを開いた。
すると、やっぱり広喜くんからメッセージが届いていた。
“俺やっぱ鏡子がいないとだめだ。会いたい”
「!」
でも、届いていたメッセージは、付き合っていたころの広喜くんからは想像ができないまさかのメッセージで、あたしは思わず固まってしまう。
…ってかこれ、本当に広喜くんが打ったものなのかな。そう疑っちゃうくらい。
あたしがそう思っていると、隣にいる修史さんが言った。
「広喜くんから返事来た?」
「え」
その問いかけに、あたしは…
「…来てないみたい」
「そう、」
本当のことは、言えなかった…。
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