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緊急事態!

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とある日の午後の仕事中。
売り場のリーダーである夏木ちゃんに声をかけられた。

「柳瀬さん、」
「?」
「来月の売り場変更なんですけど、見てもらっていいですか?」
「ああ、はい」

夏木ちゃんが手に持っているのは、来月になったら変更する予定の店内の装飾プランの資料。
店内の雰囲気は一か月ごとに毎回変えていて、そのデザインはいつもリーダーである夏木ちゃんが決めている。
俺はその資料に目を通すと、言った。

「…いんじゃない?あ、でもこのシリーズはもっと目立つところに置いといて。
来月から放送開始するアニメの新発売のおもちゃだから」
「じゃあ…こことここを交換で」
「うん。そうそう」

そう言って、ちょっとした打ち合わせをしたその直後。
俺はふと『あること』を思い出して、言った。

「…あ、夏木ちゃん!」
「…はい?」
「来週の火曜なんだけどさ、夜勤バイトの舟木くんが来れなくなったんだって。
夏木ちゃん早番だったけど、遅番に変更できる?」
「えっ」
「いや俺もいるんだけど、売り場は最低二人いないといけないから」

そう言って、「どう?あいてる?」と聞いてみる。
だけど突然そう聞かれた一方の夏木ちゃんは、ちょっと…というかだいぶ困った顔。

「…いや、あたしはちょっと…」
「あ、なんか夜予定ある?」
「そう、ですね。大事な予定があるので無理ですごめんなさい」

夏木ちゃんはそう言うと、「では、失礼します」とそそくさと事務室をあとにする。
…困ったな…誰かいねぇかな…でも鏡子ちゃんは今日オフだから聞けないし。
…あ、そうだ。
俺はもう一人の人物の存在を思い出すと、事務室を出てバックヤードに向かった。
…確か今は、入ってきたばっかの商品の確認作業をしているはずだ。
俺は店内へ続く廊下の、途中に存在しているドアの前に立つと、それをノックした。

「エリナちゃんいる?」

俺がドア越しにそう聞くと、やがて「はい」という返事とともに中からエリナちゃんが顔を出す。

「何ですか?」

そして仕事中のエリナちゃんに、俺は夏木ちゃんに聞いたことと同じことを聞いてみた。

「エリナちゃん、来週の火曜早番だったでしょ?」
「え、はい…まぁ、」
「その日、遅番にできない?」
「あたしがですか!?」
「うん。バイトの舟木くんその日来れないみたいで、夜売り場に俺一人なんだよ」

しかし俺がそう言うと、エリナちゃんが言う。

「や、柳瀬さんは一人でも十分じゃないですか、」
「んーでも、売り場には最低2人はいなきゃいけないし」
「…」
「…もしかして、エリナちゃんも入れなかったりする?」

俺がそう聞くと、エリナちゃんが少し黙り込んだ後、その言葉に頷く。

「そうですね…あたしもちょっと無理です」
「うわ、マジか。…でもわかった。仕方ないね、明日鏡子ちゃんに聞いてみるよ」
「…」

そして俺はそう言うと、「鏡子ちゃん事務専なんだけどな~」と独り言のように呟く。
しかし俺がその場を後にしようとすると、突如それを引き留めるようにエリナちゃんが言った。

「…待って下さい柳瀬さん!」
「…え?」
「鏡子も無理ですっ」
「えっ」

ふいに引き留められて、何を言われるかと思えば。
鏡子ちゃんの予定を知っているのか、エリナちゃんがそんなことを言うから。
俺は思わず目を丸くして言う。

「鏡子ちゃんも!?え、三人揃って予定入ってるとかそんなことあんの!?」
「いや、まぁ…」
「なに、三人で遊びに行くの?次の日定休日で休みだもんね?」

っつか、本当に「三人だけ」なんだろうな?
俺はなんとなく嫌な予感がして、この際だ、とエリナちゃんに聞いてみることにした。
心を押し殺して、あくまで雑談の一部かのように振舞って。
表情も一応笑顔を作って、エリナちゃんの言葉を待っていると、やがてエリナちゃんが言った。

「はい、まぁ、一応飲みに…」
「へぇいいね。俺も交ぜてよ」
「そ、それはちょっと…ってか柳瀬さんその時仕事なんですよね?」
「だーいじょうぶだよー。舟木くんがいるんだし、」
「え、舟木君来れないって、それに売り場には二人以上はっ…!」

エリナちゃんは俺の言葉にそう言うと、言っていることがむちゃくちゃになってしまっている俺に困惑する。
しかし…

「…仕事の話まで断って、一体三人でどこで何をしようとしているのかな…?」
「!」
「俺には言えない話?だったら…」
「いっいえそういうわけじゃ…!」

そう問いかける口調はあくまで穏やかなままで、だけど俺が笑っていない目をして、エリナちゃんに歩み寄るから。
エリナちゃんは思わず後ろに後ずさって、そんな俺にやがてようやく口を開いた。

「ごっ…合コンです!合コンを、やる予定なんです!」
「…」
「彼氏とうまくいってない鏡子のために、夏木さんが合コンをセッティングしてくれたんです!
だから、それに三人で出席する予定っていう…」

だから鏡子も火曜は断ると思います。
そのエリナちゃんの言葉に、ようやく歩み寄るのをやめる俺。
たぶんこれが真実だな。
俺はそう思うと、表面上は穏やかなままを装って、怯えるエリナちゃんに言った。

「…っそ。わかった」
「!」
「『合コン』なら仕方ないね。鏡子ちゃんの傷を癒すためだったら尚更」
「っ、そ、そうです!鏡子のため、なんで」
「ん、わかったよ。じゃあ火曜は別の方法で何とかする」

俺はそう言うと、踵を返して事務室に戻った。

『ごっ…合コンです!』
『彼氏とうまくいってない鏡子のために』

…だけど俺は事務室に入って、独りになった瞬間。
想像以上のエリナちゃんの答えに、思わずその場で事務室の壁を殴った。

「…っ」

この前、ゲームしたり一緒にご飯食べたりして、だけど敢えて少し寂しい想いもさせて突き放した、はずが。
これで少しは、俺の方だけに鏡子ちゃんの気持ちが向いてくれたかなって、キスも受け入れてくれたから、期待しまくったはずが。

『合コンです!』

合コンなんて行っちゃうんだ?

「っ…ぜってー許さん!」

俺はデスクの引き出しからスマホを取り出すと、『ある人物』の電話番号に電話をかけた…。





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