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合コン決定と紛失
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「鏡子ちゃん、やっと合コンのセッティングできたよ」
「!」
定休日明けの朝。
早番で会社に行くと、同じく早番出勤の夏木さんにそう言われた。
夏木さん曰く、相手の男性方とのスケジュールがなかなか合わなかったらしくて、でも来週の定休日前日の夜なら行えるらしい。
や、でも、あたしは合コンとかちょっと苦手なんだよな…。
あたしはそう思いながら断ろうとしたけど、その前に夏木さんが言う。
「相手の人××株式会社の営業マンとかもいて、超エリート揃いだから!」
「はぁ…でも、」
「エリナちゃんから聞いたよ。彼氏、散々の男なんだって?そんなの忘れて次いこーよ~」
「…」
夏木さんの言葉に、あたしは更衣室で着替えながらちょっと考える。
みんなは知らない。。柳瀬さんとのことを。
あたしだって何にもないフリをしているし、柳瀬さんもそんな素振りを仕事場では全く出さないから。
でも…せっかく夏木さんが長い間スケジュールを見てやっと合わせてくれたんだ。
これは断るわけにもいかないか。
あたしはそう思うと、その誘いに頷いた。
「…じゃあ、行きます」
「そう来なきゃ!その日はエリナちゃんも人数合わせで来るから、鏡子ちゃん他に予定入れるとか無しね!」
「わかりました。空けときます」
そう頷いて、「詳しいことはまた後で」という夏木さんの言葉にあたしは「はい」と返事をして、更衣室を後にする夏木さんを見送る。
合コンが行われる日、夏木さんとエリナとあたしは早番で、柳瀬さんと、バイトで来てる大学生の男のコが閉店まで勤務する予定の日。
「……」
なんとなく、柳瀬さんには合コンのことは言わないでおこう。
あたしはそう思うと、やがて着替え終わって仕事場に向かった。
…………
「ね、その後広喜くんとはどうなったの?」
早番で仕事を終わらせたあと、休憩終わりのエリナに更衣室でそう聞かれた。
…そっか。エリナにはまだ言ってないんだっけ。
あたしはそう思うと、エリナの問いかけに答える。
「…別れた」
「やっぱり!その方が絶対身のためだって。で、次の合コンで新しい男探そ、」
「そうだよね…」
あたしはエリナの言葉にそう相槌を打ちながら、なんとなく頭では柳瀬さんの顔が浮かんでしまう。
でも、そのことにすぐに気が付いてちょっとびっくりした。
…あれ、もしかしてあたし、柳瀬さんのこと好きなのかな…いや、いやいや。
出会ったばっかだし、まだ、よくわかんないし…。
しかしあたしがそう思っていると、エリナが言葉を続けて言う。
「でも広喜くんずいぶん聞き分け良かったんじゃない?あ、貸してたお金は?どうなったの?」
「え、」
「70万?って言ったっけ。まさかそのままなわけないよね?」
エリナは心配そうにそう聞くけれど、あたしは首を横に振って言った。
「ま、まさかー!ちょっとずつ返してくれることになったよ」
「え、すご。今までの広喜くんだったら想像つかないわ」
天地がひっくり返ったみたい。
エリナはそう言って少し笑うと、「誰かに助けてもらったの?」と聞いてくる。
そう。実際めちゃめちゃ助けて貰った。
でも、これ…「柳瀬さんに助けてもらった」って普通に言っても平気なのかな?
何か変な誤解を受けたり、しないかな。
あたしはそう思うと、エリナには正直に言ってみた。
「…実は」
「?」
「柳瀬さんがね、助けてくれたの」
「え!?」
「酔っぱらったらいろいろ言っちゃって、したら、なんか……助けてくれた」
あたしはそう言うと、エリナに「ってか休憩終わってるでしょ」と誤魔化してみる。
でもこれは本当だし。だけどエリナは「そんなことよりも」と聞かない。
「え、柳瀬さん!?ってか、何なの『酔っぱらったら』って。二人で飲みにでも行ったの!?」
「…あっ」
「~っ、ああもう聞きたいのにもう仕事戻らなきゃ!」
エリナのそんな言葉に、あたしは内心「喋りすぎた…」と少し後悔する。
二人で飲みに行ったことは秘密にしておきたいのに。
「や、そんな、好きとかそういうことじゃなくて、実はいろいろあって、そのお詫びに飲みに行ったの。
本当に、それだけだから!」
しかしあたしがそう言うと、エリナは更衣室のドアを開けて言った。
「わかった。今度じっくり話聴く!」
「!」
…あ、これ、きっと信じてもらえてない。
エリナはあたしにそう告げると、ようやく更衣室を後にして仕事に戻った。
やばい…夏木さんにも話がいったりしなきゃいいなぁ。
まぁエリナはそんな誰にでも話を言いふらす人じゃないか。
あたしはそう思うと、ようやく着替え終わってロッカーにあるカバンを手に取る。
そして、帰りに自販機で飲み物を買ってから帰ろうとしたけれど…
「…あれ!?」
カバンをあけて、財布を手に持った時に気が付いた。
…家の鍵がない…。
いつもは財布と同じところにいれているつもりが、どこを探しても見当たらないのだ。
別のポケットの中にあるのかと手探りで探してみるけれど、だけどそれでも家の鍵はどこにもない。
「どうしよ…」
どこかに落とした?でもいつ失くしたとかもわからない。
え、どうしようどうしよう。このままじゃ家に帰れない。
もしかして、考えたくないけど柳瀬さんの家に忘れてきたのかな…?
だって実は昨日の夜もあたしは柳瀬さんのマンションに泊まっていて、今朝は柳瀬さんのマンションから直接出勤してきていたのだ。
「~っ、」
あたしは膝を抱えて座り込むと、独り静かに考える。
今日はこのままネカフェに泊まる?でも明日も仕事だし。しかも開店から閉店までオール。
え、柳瀬さんって今日何時までだっけ。
そう思っていつも持ち歩いている出勤表を見てみると、柳瀬さんは今日はタイミング良く早番らしかった。
…仕方ない!
あたしは意を決すると、更衣室を後にして柳瀬さんがいる事務室に向かった…。
「!」
定休日明けの朝。
早番で会社に行くと、同じく早番出勤の夏木さんにそう言われた。
夏木さん曰く、相手の男性方とのスケジュールがなかなか合わなかったらしくて、でも来週の定休日前日の夜なら行えるらしい。
や、でも、あたしは合コンとかちょっと苦手なんだよな…。
あたしはそう思いながら断ろうとしたけど、その前に夏木さんが言う。
「相手の人××株式会社の営業マンとかもいて、超エリート揃いだから!」
「はぁ…でも、」
「エリナちゃんから聞いたよ。彼氏、散々の男なんだって?そんなの忘れて次いこーよ~」
「…」
夏木さんの言葉に、あたしは更衣室で着替えながらちょっと考える。
みんなは知らない。。柳瀬さんとのことを。
あたしだって何にもないフリをしているし、柳瀬さんもそんな素振りを仕事場では全く出さないから。
でも…せっかく夏木さんが長い間スケジュールを見てやっと合わせてくれたんだ。
これは断るわけにもいかないか。
あたしはそう思うと、その誘いに頷いた。
「…じゃあ、行きます」
「そう来なきゃ!その日はエリナちゃんも人数合わせで来るから、鏡子ちゃん他に予定入れるとか無しね!」
「わかりました。空けときます」
そう頷いて、「詳しいことはまた後で」という夏木さんの言葉にあたしは「はい」と返事をして、更衣室を後にする夏木さんを見送る。
合コンが行われる日、夏木さんとエリナとあたしは早番で、柳瀬さんと、バイトで来てる大学生の男のコが閉店まで勤務する予定の日。
「……」
なんとなく、柳瀬さんには合コンのことは言わないでおこう。
あたしはそう思うと、やがて着替え終わって仕事場に向かった。
…………
「ね、その後広喜くんとはどうなったの?」
早番で仕事を終わらせたあと、休憩終わりのエリナに更衣室でそう聞かれた。
…そっか。エリナにはまだ言ってないんだっけ。
あたしはそう思うと、エリナの問いかけに答える。
「…別れた」
「やっぱり!その方が絶対身のためだって。で、次の合コンで新しい男探そ、」
「そうだよね…」
あたしはエリナの言葉にそう相槌を打ちながら、なんとなく頭では柳瀬さんの顔が浮かんでしまう。
でも、そのことにすぐに気が付いてちょっとびっくりした。
…あれ、もしかしてあたし、柳瀬さんのこと好きなのかな…いや、いやいや。
出会ったばっかだし、まだ、よくわかんないし…。
しかしあたしがそう思っていると、エリナが言葉を続けて言う。
「でも広喜くんずいぶん聞き分け良かったんじゃない?あ、貸してたお金は?どうなったの?」
「え、」
「70万?って言ったっけ。まさかそのままなわけないよね?」
エリナは心配そうにそう聞くけれど、あたしは首を横に振って言った。
「ま、まさかー!ちょっとずつ返してくれることになったよ」
「え、すご。今までの広喜くんだったら想像つかないわ」
天地がひっくり返ったみたい。
エリナはそう言って少し笑うと、「誰かに助けてもらったの?」と聞いてくる。
そう。実際めちゃめちゃ助けて貰った。
でも、これ…「柳瀬さんに助けてもらった」って普通に言っても平気なのかな?
何か変な誤解を受けたり、しないかな。
あたしはそう思うと、エリナには正直に言ってみた。
「…実は」
「?」
「柳瀬さんがね、助けてくれたの」
「え!?」
「酔っぱらったらいろいろ言っちゃって、したら、なんか……助けてくれた」
あたしはそう言うと、エリナに「ってか休憩終わってるでしょ」と誤魔化してみる。
でもこれは本当だし。だけどエリナは「そんなことよりも」と聞かない。
「え、柳瀬さん!?ってか、何なの『酔っぱらったら』って。二人で飲みにでも行ったの!?」
「…あっ」
「~っ、ああもう聞きたいのにもう仕事戻らなきゃ!」
エリナのそんな言葉に、あたしは内心「喋りすぎた…」と少し後悔する。
二人で飲みに行ったことは秘密にしておきたいのに。
「や、そんな、好きとかそういうことじゃなくて、実はいろいろあって、そのお詫びに飲みに行ったの。
本当に、それだけだから!」
しかしあたしがそう言うと、エリナは更衣室のドアを開けて言った。
「わかった。今度じっくり話聴く!」
「!」
…あ、これ、きっと信じてもらえてない。
エリナはあたしにそう告げると、ようやく更衣室を後にして仕事に戻った。
やばい…夏木さんにも話がいったりしなきゃいいなぁ。
まぁエリナはそんな誰にでも話を言いふらす人じゃないか。
あたしはそう思うと、ようやく着替え終わってロッカーにあるカバンを手に取る。
そして、帰りに自販機で飲み物を買ってから帰ろうとしたけれど…
「…あれ!?」
カバンをあけて、財布を手に持った時に気が付いた。
…家の鍵がない…。
いつもは財布と同じところにいれているつもりが、どこを探しても見当たらないのだ。
別のポケットの中にあるのかと手探りで探してみるけれど、だけどそれでも家の鍵はどこにもない。
「どうしよ…」
どこかに落とした?でもいつ失くしたとかもわからない。
え、どうしようどうしよう。このままじゃ家に帰れない。
もしかして、考えたくないけど柳瀬さんの家に忘れてきたのかな…?
だって実は昨日の夜もあたしは柳瀬さんのマンションに泊まっていて、今朝は柳瀬さんのマンションから直接出勤してきていたのだ。
「~っ、」
あたしは膝を抱えて座り込むと、独り静かに考える。
今日はこのままネカフェに泊まる?でも明日も仕事だし。しかも開店から閉店までオール。
え、柳瀬さんって今日何時までだっけ。
そう思っていつも持ち歩いている出勤表を見てみると、柳瀬さんは今日はタイミング良く早番らしかった。
…仕方ない!
あたしは意を決すると、更衣室を後にして柳瀬さんがいる事務室に向かった…。
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